武官の価値(伯爵領において)
異世界転生79日目の夕方。
「……公国王。
ご尊顔を拝し、恐悦至極に存じます。」
伯爵はふらつきながらも挨拶してくる。
すぐに四男が逃げ出したが、憂いは絶っておこう。
巫女天狗に机と椅子、お酒を出させる。
アヤさんは当惑しているが、暫く黙っていてくれるようだ。
「フーリゲが領地だけは残せと五月蠅くてな。
伯爵、魔金貨6枚だ。」
「……伯爵領にそれ程の財はございません。
魔金貨3枚が精一杯でございます。」
以前の伯爵よりは、ため込んでいるらしい。
今回は、魔金貨以外の物も欲しいんだがな。
「まず、武官を奴隷として買い上げよう。
貴族だけでなく臣民も買い上げれば、魔金貨数枚にはなるだろう?」
「……彼らは奴隷ではありません。
買い上げる事など出来ません。」
「僅かでも財産が残れば、一時凌ぎは出来るはずだ。
伯爵家のため、延いては領地のために奴隷になれと、しっかり諭す事だな。」
「……全ての武官が同意する保証は出来かねます。」
「もちろん意思は尊重するが、説得はさせて貰う。」
貴族ならば、家の存続のため断れないだろう。
伯爵家からの要請なら尚更な。
問題は臣民達だが、伯爵が俺と揉めたことは直ぐに知れ渡るはずだ。
武官として死ぬよりも、より多く残せる奴隷化を選ぶ者も多いだろう。
親族全員のルーメンへの移住も認めれば、更に増えるはず。
「売買はドットヘルテ奴隷商会に仲介させるが、移動はアイスドラゴンを使って貰う。
迅速に進めるため、書状を認めて貰うぞ?」
「……仰せのままに、閣下。」
その他諸々を取り決め、あとは巫女天狗に任せる。
アヤさんと、ちゃんと話さないとな。
「アヤさん、馬車に乗りましょう!」
「はい。」
うわー、なんかアヤさんがこわい-。
怒ってらっしゃる?やっぱり?
「えーと、私はただの冒険者ではありません。」
「そうみたいですね。
全部知ってて私に近付いたのよね?ですよね?」
「いえ、ただ冒険者がやりたかっただけで……。
成り行きに任せていたら、金ぴか野郎に絡まれただけです。」
金ぴか野郎の要求を、単に断っただけだしな。
そうしたら良い獲物が引っかかるから、ついやる気に。
「うん、はい。それは私も知ってるわ。
でもリンのことは、調査しに来たので、しょう!?」
「いつものように話して下さって構いませんよ。
一連の騒動も、成り行きに任せた結果です。」
「……成り行きって、何しに来たわけ?」
「冒険者をやりにです。」
「なに自信満々に言ってるのよ!」
「Aランク冒険者って、格好いいじゃないですか。」
「貴方まだCランクでしょ!」
「先日、Bランクに上がりましたよ。
一件を加味して、私たちはAランクにランクアップされます。」
「……それは嬉しいけれど、納得できない!
私とのことは……遊びだったんでしょ!?」
涙ぐみながら、こんなこと言われる日が来ようとはっ!!
ちょっと感動してしまう。
「違いますよ!!
アヤさん、ルーメンにある私の屋敷に来ませんか?」
「冒険者の私に、籠の鳥になれって言うの?」
「いえ、皆も冒険者活動してますから。」
あ、口が滑ったな。
握り拳が飛んでくる。
「この、浮気者ー!!」
ありがとうございました。




