宿屋へ至る
転生二日目の朝。
俺は道ばたで起きた。
テンションも、元通りかな。
昨日は酷かった。
さて、残された時間は三日だ。
人間は水を摂取しないと三日しか保たないらしいからな。
いや、種族の「人類(純血)」って人間か?
もしかして、地球に人類はホモサピエンスしかいなかったから純血なのか。
やばい空気しか感じない…。
このステータスって、項目を隠したりできないのだろうか。
お、できるじゃん。
しかも細部まで。
ぽちぽちっと。
こんな感じでいいだろう。
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名前:ジン
種族:人類
レベル:1
スキル:なし
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仕様として、最初から全部隠しておいてくれればいいのに。
あ、あの神様だからムリか。
因みに、わざわざ「ステータス」なんて言わなくても、
透明な画面が出ることに気付いたのは今だ。
やっと、やっと人里が見えてきた!
テンプレ的展開を全回避できてよかった。
もし、盗賊に襲われてる馬車なんか出てきても、
俺が全力で逃げる。
いくら成長補正がぶっ飛んでると言っても、まだ成長してない。
戦闘なんて現代日本人にできるわけないし。
人里と言っても、城塞都市だな。
壁の高さは二階建ての一軒家と同じくらい。
うん、微妙な高さだ。
あの門の横にいる筋肉の塊連中に話しかければいいらしい。
いや、この場合は門番か。
混んでなかったのは、ドラゴン様様だな。
「あのー、ここ何処ですか?」
「はぁ、何言ってんだお前」
とりあえず、会話は成立っと。
「いえ、気付いたらこの道にいたので…」
「ここは、アバストスだ。入るなら、ステータスか身分証見せな。」
「身分証ってどんなものですか?」
「ギルドカードとかだよ。常識だぞ、田舎者か?」
「よく分かりません。起きる前のこと覚えて無くて…」
そう、俺は記憶喪失というメジャーな対応策にすることにしたのだ。
「そうか。災難だったな。じゃあ、名前と種族を見せてくれ。」
な、流されたー!
よくあることなの?そんな対応でいいの!?
「んぁ、どうした?」
「申し訳ありません、どうぞ」
「よし、ようこそアバストスへ!」
門を潜ると、ザ・ヨーロッパな町並みが広がっていた。
まぁ、なんとなく分かってはいたが。
大通りの左右には、石造りの建物。
所々木造の建物もあるが、後々は石造りの建物に建て替えるはずだ。
まずは、宿屋を探さなくてはならない。
道具袋の中には、銅貨が20枚、銀貨が1枚、金貨が1枚入っていた。
銅貨が20枚ということは、多分銅貨100枚で銀貨1枚なのだろう。
門番の指が10本なのは確認済だ。
貨幣ならば、学がない人間でも分かる単位になっているはず。
最も有力なのは10枚単位だが、それだと銅貨が20枚あるのはおかしい。
よって、10の10倍、100枚単位と考えて間違いはないだろう。
硬貨が小さいのもポイントだ。
大通りの左右には、屋台が所狭しとある。
というのが、殆どの転生小説だが、この都市は違うようだ。
屋台ではなく、店舗兼テラスのようなお店が殆どだ。
おそらく、屋台が集合しているのは違う場所なのだろう。
候補としては、別の門から続く大通りだろう。
つまり、大通りが交差する中央部まで歩かなければならないという事だ。
なぜ、俺は異世界転生して歩いてばっかりなんだ…。
休ませろ!!
どうやら、俺が入って来た門は南門らしい。
中央部から歩かねばならないと思っていたが、それは杞憂に終わった。
なぜなら、中央部に屋台が集中していたからだ。
喧噪の中、最も立地に経費がかかる屋台を探す。
二つの大通りの交差点にある広場、この中でも東門付近は雑多な印象だ。
つまり、中央部よりやや南門方面の…君に決めた!!
「美味しそうですねー」
やばい、色がやばい。
黄色の肉って何!?
「自慢の味噌煮込みだよ!お一つ銅貨5枚。どう?」
味噌か。
おぞましい想像をした俺に謝れ。
「頂きます!この都市初めてなんですが、安全で安い宿ってご存じありません?」
「そうだねー。」
俺が求める宿は、第一に安全な宿であることだ。
日本人として生活していたため、物騒な事は想像もつかないだろう。
昨日は疲れ果て道ばたで寝てしまったが、冷静に考えれば死んでもおかしくなかったはず。
「ここか」
俺は一件の寂れた宿屋の前にいる。
屋台における聞き込みの結果、安全で安い宿屋はここが穴場らしい。
宿屋の中に入ると、無骨な筋肉がこっちを睨み付けていた。
いや、目つきが悪いだけだと思うがな。
「宿泊したいんですが、一泊いくらですか?」
「一泊銅貨20枚」
「食事はどうなりますか?」
「普通だ。一日二食まで。それ以上は追加料金だ。」
「水とかは?」
「裏の井戸を勝手に使え」
うん、いいおやっさんだな。
「では、三日お願いします。」
そこで、俺は銀貨を出す。
予想通り、銅貨40枚がお釣りとなった。
つまり、100枚単位ということだ。
「鍵だ。出るときは預けろ。」
鍵に書かれた番号は2-1。
部屋は二階の一番奥だった。
ベットとタンス、机と椅子。
普通の構成だ。
やや古めかしいが、丁寧に掃除をしているだろう事が窺える。
まずは、昼寝だな。
ありがとうございました。