エルフ王族奪還の裏にて
異世界転生20日目の夜。
俺たちは西の離宮のテラスに転移した。
マイトの忠義を見て、エルフによるハイエルフ奪還は予想できたからな。
王都の状況も、俺たちが包囲された時点で分かったことだ。
ここまで迅速なのも、おそらくリルエル以外の居場所は掴んでいたんだろう。
そんな状況下で、俺は不用意にリルエルの居場所をマイトに教えてしまったわけだ。
「こんばんは。今夜もお茶を頂けるかな?」
俺は変装道具を持参していない。
まぁ、皆連れてきているから変装していても怪しまれただろうがな。
「何者だっ!」
一番反応が早かったのは、髭を生やした渋いお爺ちゃんだ。
第二王妃だろう女性もいることから、恐らく第二王妃を輩出した貴族家当主だな。
「っステファー公爵!待って下さい!!…迷宮はどうしましたか?」
「秘宝はまだだ。だが、エルフに襲われてな。王都はどうなっている?」
第一王子は、声だけでは確信が持てなかったのだろう。
秘宝を探しに、迷宮攻略していることを確認してきた。
「どうぞこちらに。今席を用意させます。」
そう言って、暖炉の前に長めのソファーを準備してくれる。
俺たちはそこに座るわけだが、お茶はメイドではなく第一王子が準備してくれた。
ステファー公爵とやらは、大層不満そうだ。
「現状ですが、王城と軍司令本部がエルフに襲われています。」
いやいや、なんでずっと敬語?
第一王子が、そんなに俺を頼りにしてるって事か。
「あと、ドットヘルテ奴隷商会もだな。目的は分かっただろう?」
「ハイエルフですか…。王国は奇襲に全く対処できていないようです。」
「フーリゲ王子!我にも、御仁を紹介頂けないだろうか?」
「私に、王位に就くよう唆した張本人ですよ。そういえば、名前を知りませんね。
私はフーリゲ・エスパルトです。」
名前どころか、顔さえ知らなかったがな。
詳しく話していないとなると、ステファー公爵もそこまで信用できるわけではないらしい。
公爵と話す価値はないな。
「ジンだ。もうハイエルフは奪われたのか?」
「いえ、まだ城内までは侵入されていないようです。
しかし、各騎士団の動員には、まだ時間がかかります。」
「これは、チャンスだと思わないか?」
「…やはり、ジンが現れたということは、一気に畳みかける気ですか?」
「できるのか、できないのか。どっちだ?」
「……できます。ただ、有力貴族も同時に排除する条件付です。
また、王城までの護衛にジンの協力が不可欠です。」
ステファー公爵への牽制も含めてか。
有力貴族の排除にも、手段を見いだしているようだ。
「報酬は、たんまり貰うぞ?」
ここは、第二王子の方便を真似よう。
ステファー公爵がいるところでは、碌な話し合いが出来ないだろうしな。
「僕に出来ることなら、なんなりと言って下さい。」
「王子!こんな何処の馬の骨とも知れぬ男に、どのような報酬を渡すつもりですか!?」
「僕はなんなりと、と言ったはずです。王になれば容易い事でしょう?」
公爵は悔しそうだが、黙ることにしたようだ。
王の利権の前には反発は損だと思った、という雰囲気ではない。
いつでも、俺を消せると考えている眼だ。イライラするな。
「そろそろ、目標の居場所を教えてくれ。」
「すまない、ジン。父達は、戦時用の会議室に詰めているはずです。」
異世界転生20日目の夜半。
俺は王都上空から、王城へと転移しようとしている。
もちろん、奴隷娘達はネプを護衛につけて置いてきた。
西の離宮に部屋を借りたいと言ったら、フーリゲは快諾だったしな。
恐らく、公爵の刺客が襲ってくるだろうが、ネプに任せれば心配いらない。
公爵と交渉する材料が増えて、フーリゲは喜んでいるはずだ。
さて、今度こそいい領地を貰わないとな。
ありがとうございました。
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本日で投稿一週間になりますが、週間19位など想像だにしませんでした。
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