継承権争いの始まり
異世界転生19日目の夜半。
俺は第一王子にお茶を頂戴している。
顔も見せない人間と二人きりでお茶とは、第一王子は余命僅かなことを察しているんだろう。
それが暗殺ではないことまでは、知らないようだが。
「エルフ国を落としたのが、第二王子の王位継承を決定付けたと?」
「それ以前に、僕は第二王妃の子なんだよ。ただ、先に生まれただけさ。」
第二王子の偉丈夫と形容すべき体型は、第一王妃の血ってことか。
スペアとして必要なくなってからは、王にも第二王子にも疎まれてると。
「第二王子が王になれば、周辺国の併合を狙うのでは?」
「そうなるだろうね。ケイは、王国の権威に不満があるようだから。」
愚王の戦争理由に、権威に不満があるってのも、よくあるパターンだな。
第一王子は、権威に重きは置いていないようだが。
「エルフの王族がどうなったのか、知っているか?」
「…知りはしないけど、想像は出来るよ。碌な事にはなっていないだろう。」
「男は即、首をはねられたそうだ。王妃はその場で兵士の慰み者へ。
第一王女は王族へ捧げられ、第二王女は軍に捧げられたらしい。
第三王女以下は、奴隷として売られる。
ハイエルフは長命だ、永遠に繰り返される。」
「戦争で負けたんだ。もうどうしようもない。」
第一王子は、やや悲痛に見える。
戦争で負けたんだから、まさにどうしようもないと思うが。
「そんな過酷な仕打ちを、周辺国へ広げていいと思っているのか?」
「思ってはいないさ!でも、僕にはどうしようもない。」
「君が王になればいい。第二王妃の関係者からなら、協力を得られるだろう?」
「っな、何を言ってるんだ。…もう用件を済ませてくれ!」
俺のこと、やっぱり暗殺者と思っていたか。
酔狂なことで…いや、最後の話し相手として選ればれたと言えば聞こえがいいな。
「王も第二王子も、君を暗殺なんてしないさ。彼らは若返りの秘宝を探しているんだからな。」
「……アムステグルの秘宝のことか!?道理で、僕は生かされているわけだ。」
やはり知っているのか。
王族とは、関わりの深い秘宝なのかもな。
つまり、大貴族ならば秘宝の存在を確信してる奴もいるってことだ。
「もし、君が秘宝を手に入れれば、王になることも容易になるだろう?」
「僕に、外道になれというのか!?」
そうだよ。
若返りのために、実子を犠牲にする貴族なんて多いだろう。
自分の血を引いていれば、母親は問わないんだからな。
それらの貴族を取り込めば、一大派閥の出来上がりだ。
「少なくとも、王が持つ秘宝だ。頻繁に使われることはないだろう。」
「…仮に、もし仮に秘宝を手に入れても、父やケイに奪われるだけだ。」
王位に興味の無い振りをしておいて、やる気になってるじゃないか。
もう少し後押ししてやろう。
「彼らは独裁だ。指揮する者がいなくなれば、案外脆いものさ。」
「……少し、時間をくれないか。僕だけでは、返答しかねる。」
「その間に、秘宝を探してくるさ。心当たりくらいあるんだろう?」
まぁ、なければ第二王子のところに行けば何か分かるだろう。
気乗りしないが。
第一王子の趣味が読書であることを願うばかりだ。
「王都の近くに迷宮があるのを知っているか?
今は初心者用の迷宮だが、古い文献によれば、かなり高難易度の迷宮だったらしい。
僕が知る限り、その最下層に封じられたとしか。」
王からの情報とは全然違うな。
だが、随分書物を読んでいるようだし、先に近場から当たるか。
「秘宝を手に入れたら、また来る。気取られるなよ?」
「はは、まさかこんな事になろうとはね…。」
そんな囁きを聞きながら、俺は宿屋に戻って寝た。
第二王子のことは無視だ。
ありがとうございました。
サブタイトル:ギフトという名の特典、の後書きに10→10→10→10がどんな数なのか、ざっくりと記載させて頂きました。
一読頂ければ幸いです。




