魔薬
先日は申し訳ありませんでした。
異世界転生139日目の朝。
俺は黄組練兵場で起きた。
誰も居ない静かな朝だ。
さて、早速選抜した四人を転送する。
……確かにセーラー服だが、軽鎧と化している。
セーラー風軽鎧だな。
ニーソはオリハルコン合金製のスケイルアーマーだし、
ジャンパスカートも合金製の板が仕込んである。
腰に下げている細剣も刃に空間魔法が仕込んであるし、
帽子はセーラー服を無視ししてヘルメットだ。
……細剣と同じく魔導石を使って、
服の耐久性を上げるとかでも、
十分だったと思うんだが。
まぁ、私兵だしな。
獣人だから多少重さのある鎧でも大丈夫だろう。
上着だけはそのままだから、
一応セーラー服に見えなくもない。
四人いれば荷物が増えても、
不思議に思われないはず。
という事で、布団と椅子を転移する。
布団は練兵場の端に木の棒で干しておき、
椅子には綿を詰め込んだ袋を、
クッションの代わりとして利用する。
これだけでも、随分快適になった気がする。
まぁ、オマケだが。
全員が背負っている革袋には、
食糧を大量に詰め込んである。
貨幣経済が死んでいる王都では、
物々交換が主流だ。
主流とは言っても交換出来るような物はあまりない。
在庫はもちろん、これから生産される予定の品まで、
がっつりと買い占めてある。
特に深刻なのは食糧だ。
農村から都市へと物は移動していくが、
都市にあった在庫を買い占め、
同時に農村の在庫も限界まで買い占めさせた。
更に自分達で消費する量の限界まで、
売って貰ったから来年の種蒔きに、
僅かに余裕がある程度だろうか?
まぁ飢饉とは異なり、商品にならなかった物や、
商品ではない物を食べられるから餓死者は少ない。
根とか雑草とか、小動物などなど。
兎も角、食糧という軍資金を手に入れたので、
奴隷を買いに行きたい。
少しずつ人も増えて、ピネーちゃんもやってきた。
「ピネーちゃん。」
「あ……ジンさん、おはようございます。
食材、明日には集まりそうです。」
嫌そうな顔されたが、
ちゃんと要求を聞いてくれているらしい。
「おはよう。
今日からは朝からずっと訓練したいんだけど、
給仕の手伝いは断れる?」
「えー……分かりました。
話してきます。」
「そういえば、義勇軍は二食食べられるんじゃないの?
一食しか見てないんだけど。」
給仕を纏めてる婆達から帰って来て、
なぜか軽装になるピネーちゃん。
「誤解してますよ。
その一食の量が多いんです。」
あ、あれで多いのか。
俺はいらないなー。
「んじゃ、昨日の続きとして玉を撃ち落として。」
「あの、ジンさん。
伺いたい事があるんですが、いいですか?」
俺の私兵を見て言われれば、
何を聞きたいかは分かる。
泥を弾にしているのも彼女達だしな。
「魔力が無くなってからな。」
「鬼、悪魔……嘘です嘘ですから!
格好いいですよ、ジ」
雷魔法を用いてサンダーアローを顎に打ち込んだ。
もちろん、痺れる程度に弱い奴をな。
涙目になりながら、ピネーちゃんの練習は始まる。
俺は私兵の膝枕でうたた寝だ。
絶対領域に装備は付けていないからな。
異世界転生139日目の昼。
俺は黄組練兵場で仮眠から起きた。
ピネーちゃんの魔力が尽きたようだ。
「ピネーちゃん、不味いけどこれ飲んで。」
そう言って真っ白な液体が入った瓶を渡す。
まぁ、あれだ。そっくりだな。
……涙目だ。
なんと言い訳しても、余計に怪しまれる気がする。
「魔力を回復させる魔薬だが、
知らないのか?」
知らないも何も、
まだ研究所から外に出してもいないがな。
そもそも、流通させる予定もない。
魔道具にも使っている魔導石の粉に、
魔力を込めた物だから、
存在を公にする事も難しい。
「……本当ですか?
どう見ても、アレなんですが。」
「へーアレって何?」
私兵が俺に手を伸ばしてくれる。
ピネーちゃんは何を想像するだろうか?
「飲みますから!!」
早速飲んでくれるが、二口で止まってしまう。
「まだ訓練するから、
全部飲んで欲しいんだけど?」
「……違った不味さが辛いです。」
「何と違うかは聞かないが、我慢して飲む!」
「はい!」
自暴自棄に一気飲みらしい。
やっぱり、味は改良しないとな。
まだ魔力補充の効率を追求している段階だが。
「ピネーちゃんは魔力が切れるまで訓練して、
その後魔薬を飲んだら終わって良いよ。」
「分かりました。」
魔力がないまま、
夜にでも攻められたら魔法が使えないからな。
本来は一定量を残して、少しずつ訓練するらしいが、
強制的に回復させるから限界まで魔法を使わせる。
「アスカルさん、少し良いですか?」
地稽古の合間に、黄組組長に声を掛ける。
昼も過ぎて組員に疲れも見えて来ているから、
ちょっとした休憩になるだろう。
「あぁ、俺も休みたいしな。」
とても休息が必要には見えないが。
寧ろ元気過ぎる。
「そんなにお時間は取らせません。
ちょっと買い物に行きたいんですが、
構いませんか?」
「構わないが、何が欲しいんだ?
俺の紹介なら少しは融通してくれると思うが、
あんまり期待するなよ。
あと、硬貨は使えないぞ?」
「知っています。
麦で支払うつもりですが、大丈夫ですよね?」
「それなら歓迎されるよ!
飯は貴重だからな。」
「欲しい物は奴隷なんですが、
いい奴隷商人って紹介出来ますか?」
「奴隷か、王都の状況は分かっているよな?
処女が良いんだろう?
残っているとは思えないが。」
まぁ、女奴隷を持っていたなら、
体を売らせて必要な物を得るだろう。
男なら多少無理しても、楽しみたいだろうしな。
「特に高価な奴隷だけは、
残っていると思うのですが。」
「商売の事は詳しくないが、
オークションに関係している、
奴隷商人を紹介するよ。」
まぁ、売ってくれる奴隷は、
殆ど買ってしまったからな。
売り物として表に出てこない、
掘り出し物があると嬉しい。
「よろしくお願いします。」
アスカルさんは貴重だろう羊皮紙に、
手紙を認めてくれた。
「場所はこの通りを――」
ありがとうございました。




