スキルというチート
二話目です。
異世界転生127日目の夜。
俺たちは塔型迷宮80階層にいる。
冒険者ギルドによる野営地でもあればと、
そう思って登ったが、待っていたのは魔人、
おそらく悪魔種だ。
<アイン、守りを固めろ。>
アインは返事をする僅かな時間を惜しんで、
リルエル達の周囲を量子魔法を用いて固定し壁を造る。
その中で壁と間を開けて、
ツヴァイが量子魔法を用いて時空を固定する。
その隙間を俺が崩壊させて防備を完成させる。
壁を俺たちの移動に合わせて、随時遷移させながらな。
外からの情報はアインがツヴァイに伝えて、
ツヴァイが内側の壁に描写する。
内からの情報はツヴァイがアインに伝えて、
アインが外側の壁に描写する。
もちろん、その情報は姿形が分かる程度の、
必要最低限に削って余計な影響が起きないようにする。
なぜなら、俺たちは物理的な動きを、
制限されているからだ。
魔力は一切感じない。
塔型迷宮55層で出会った奴とは違って、
どこに居るのかは分かるがスキルによる攻撃だ。
行動不能、或いは運動神経麻痺か?
そいつの周囲に魔法を用いて反物質を生成して、
所構わず対消滅を起こす。
奴の周囲にいた多くの悪魔種を道連れに、
80階層を破壊する。
「アイン、残りはいるか?」
スキルの効果は切れた。
少なくとも、発動者は死んだはずだ。
「我が神よ。
あちらに二体、生き残っております。」
爆心地は79階層に貫通しており、
外周の壁もヒビが入っている。
もちろん、天井と足下はひび割れている。
生き残りは、肉だけなので後回し。
肉っていうか、塊肉?
「ネプ、無事か?」
「大丈夫よ。こんなに強力なスキルだなんてね。
ジンのお仲間かしら?」
俺が殺気立ったせいか、ネプが跳ね起きてしまった。
いつもの寝惚けた表情ではない。
「……かもしれない。
ドット絵みたいで変な気分かもしれないが、
近くにいてくれ。」
実際こちらから見えるネプ達は、
二次元ゲームの絵柄その物だ。
まぁ、お互いよく知る仲なので、
何をしているかは分かるんだが。
「どっとえって物が何かは分からないけど、
こんな時にジンの側を離れる子なんていないわよ。」
皆一様に緊張している。
……落ち着かないとならないのは俺の方かもしれない。
「アイン、リルエル達には気圧を与えろ。」
「仰せのままに。」
ここまで順応してきたが、
そんな悠長な事を言っている状況ではなくなった。
ツヴァイが囲んでいる時空には、
地上と同等の環境を整えさせる。
ふと、先程の肉を見ると大きくなっている。
これは回復しているのか?
俺はその二つの塊に、
アイテムボックスから取り出した毒を振りかける。
魔人国産の皮膚から吸収される、
所謂経皮吸収型製剤だ。
皮膚透過速度が早く、
既に全身に回っている事だろう。
アインに人体が入る大きさのガラス管を、
二つ造らせる。
その中に塊肉を入れて、塩酸と硝酸を3対1で混ぜた、
所謂王水を充填する。
そして、蓋をして観察する。
うん、溶けているな。
溶けてはいるが、
回復する速度の方がやや優位かもしれない。
ガラス管の上下を引っ繰り返して、
重力により底に沈んでいた塊を移動させる。
液中を漂っていれば、ほぼ拮抗しているようだ。
ありがとうございました。




