プロローグ
よう。
俺は浅井陣。
ただの三十路前のプログラマー…いや、社畜だ。
さっきまではな。
「死ぬ…」
今月何度目かの、一泊三日の旅行からの帰りだ。
旅行先は、会社だけどな。
なんとか納品できたので、今日は家に帰ることにした。
誰も居ない社内で一晩過ごすより、始発で出勤した方がましだ。
週末の納期のことは、明朝考えよう……。
コンビニでビールと弁当を買って、アパート前の信号待ち。
深夜には珍しく、若い女性が犬の散歩をしていた。
不謹慎だと思いつつも、彼女の臀部に集中してしまうのは男として仕方ないことだろう。
あ、熱い!!
急に胸が熱さを訴えてくる。
ふと、胸元を見ると鈍色に光る刃が生えていた。
「あ、死ぬ…」
刃がなくなれば、そこからは血が吹き出るしかない。
さっきまで俺から生えていた凶器は、目の前に居る女性に向けられていた。
視界が霞んできた。
女性の悲鳴らしき物も、もはやよく聞き取れない。
ただ、俺はこれでいいのかと。
単純にそう思った。
気がつくと俺は、女性に覆い被さっていた。
背中に何度となく、執拗に刃物が振りかざされている。
痛いとは思わず、ただ、女性の暖かさを感じながら俺の意識は沈んでいった。
と、冒頭に戻る訳だが。
今の俺は、見渡す限りの草原にいた。
胸から血は出ていない。
むしろ、スーツを着ていない。
肌触りの悪い、ごわごわした上下。
剣に道具袋らしきもの。
うん、なんだこれ。
ありがとうございました。