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美しき白き者たちに見守られる場所

――――――


――――


――



しかしあいつは死んでしまった。


俺になにも言わぬまま、ものも言えない人形になってしまった。


彼女は、屋上からの飛び降りにより自殺した。


それを聞いたとき、信じることなどできやしなかった。


親友をけっきょく守れなかったことに自己嫌悪し、激しく悔いた。


ひたすらに涙した。流せど流せど枯れることはなかった。


「あぁ、ダメだ……。涙が、また……」


年老いてきたせいか。


その涙を、自分の意思でうまく制御することができなくなっていた。


「……ちくしょう。なんで死んじまったんだよ……」


未来は明るかったのに。


それを見ずして死んでいった親友に、怒鳴りたい気持ちだ。


「……バカ野郎」


この言葉、あいつの葬儀のときにも言ったっけ。


「……ダメだ。止まれよ涙。泣くのはあとだろ?」


この際、根性でなんだってしてやる。


止めどなく溢れる雫を、根性で振り払った。


「行こう。次は、“美しき白き者たちに見守られる場所”――」


甘い秘密を思い出していた最中、この暗号の答えを俺は見つけていた。


「――美術室だ」


白き者たちは石こう像。


美しき場所なら、美的感性を学ぶ美術室が妥当だ。


俺は早足で、そこへ向かった。







美術室の扉を開け、中を見渡した。


月明かりと手元の懐中電灯のみが光源なので、室内は薄暗く、不気味だ。


「石こう像……か。これ、名前なんだっけ?」


黒板の横にある棚に飾られている、白きそれらを眺める。


よく使った像の名前が思い出せない。どうしても。


「ブルーなんとか、ブルーなんとか……まあいいか」


名前に関しては諦め、俺は捜索を再開する。


怪しい石こう像を確認していくと、その名前が思い出せない像の頬に、なにか記してあるように見える。


だが読み取れない。


「……お?」


いったんそこから注意をはずし、底を覗いた。


「“青い光が道を示す”?」


するとそこには、彫刻刀の細かな文字で、そう記されていた。


「月……は青くないな。むしろ白い」


青い光を放つもの……青い光、なにか記されているようなあと……。


「そうか!」


ひらめいた俺は、一目散にそこを目指して走った。


目当てのものはすぐに見つかった。


俺はそれを美術室へ運んだ。


「意外とコンパクト」


スタンドを立て、電源プラグを差し込む。


スイッチを入れると、それは青紫の強い光を放った。


そう……これは、ブラックライト。実験室から持ち出してきた代物だ。


ブラックライトといえば、たまにテレビでやっているだろう。


肉眼では見れない字体を、これを当てて浮き彫りにする。


それを思い出したんだ。


「これで……どうだ?」


石こう像をライトに当てる。


すると、やはり文字が浮かび上がった。


“大切な物は……”


「くそ、肝心の部分が擦りきれてるぞ! これじゃわかんねぇ……」


ここまできてゲームセットだった。


やはり経った月日が長いと、こういうもののリスクが高くなるというのか……。


「ちくしょう……」


いままでが順調だった。むしろ、それがおかしかったのか。


この手詰まりは、あまりにも残酷だ。


「あれ……あれ?」


悔しいが諦めよう。


そう思ってライトと片付けようとするが、なぜかライトが消えない。


どれだけスイッチを押しても消えず、それはしつこく点滅し始める。


目がチカチカする。


「うっ……うぇっ……」


気分が悪くなる。


急いで基を抜こうとしたとき。


「!?」


机が笑いだした。……いや、少し語弊があるか。


机が、なにもしていないのに、笑っているかのように揺れているんだ。


「だッ……誰だ! 出てこい!」


なにかいる。


そう確信した俺は、大声で叫んだ。


「自分は姿見せねーなんていいご身分だな、くっだらねぇ」


わざとデカい態度で挑発する。


こうでもしなければ、俺は恐怖で押し潰されちまう。


「いい加減出てこい!」


『フフフ……』


「!?」


突如背筋に感じた凄まじい悪寒。


俺は、恐る恐る振り返った。


「あーあ……見つかっちゃったナァ……」


「お、おまえっ――!」


「――アハハッ!」


「ぐあっ……!?」



うしろで不気味に笑った、青白い光に包まれたからだの透けた少女は、俺を貫通してまた背後に回る。


「!」


「死んじゃえ」


そこには先程の石こう像がある。


彼女はそれを浮かばせて、俺の頭部を目掛けて飛ばしてきた。


俺はそれを、からだを反転させてよけた。


相手を失った石こう像は床に落下し、空虚な音を立てて砕けた。


「危ねっ……。はなから殺す気かよ」


「死んじゃえ……死ねばいいんだ! キャハハ!!」


「なっ……ぐあッ!?」


そう言った少女は、いつのまにか俺の目の前に移動しており、隙だらけの俺を、机に押し付けて首を締めつけてきた。


「逝っちゃえ。……逝っちゃえばいいんだ、死ね! 死ねッ!!」


「あぁぁぁッ……」


「死んじゃえ……死んじゃ、え……」


「!」


どうしてなのか。


初め現れた時の少女は、ふわりとしたボブカットの明るい茶髪に漆黒の瞳だった。


なのに、いま俺を殺そうとしている彼女の姿は……あいつに、重なった。


ややぼやけていた表情もハッキリと映り、それは涙を流していた。


徐々に、首を締める力も弱まっている。


「ぐっ……はぁッ!!」


その隙をついた俺は、彼女を振り払った。


すると少女は、上の方へと消えていった。


「っ、待て! 上……そうか!」


俺はその少女を追いかけるべく、彼女との思い出に一番刻まれている場所を目指して階段を駆け上がった――――。


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