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最弱が目指す最強の物語  作者: Sir.G
一章 闘争編
4/6

4.想いは強く

 かれこれ十もの回数が光と闇を交錯させた。

 ゴブリンを筆頭に苦戦を強いられたフィッシュビースト、猪をもっと巨大化させ鶴嘴のような角と鬣を持ったラッシュボア、赤黒い毒を持っていますと自己主張が激しい斑模様の蛇のポイズンスネーク、鶏と蜥蜴を足して二で割った二足歩行で突進してくるアースバード等々。他にも数種類の怪物モンスターを俺は吸収することに成功していた。勿論小動物も見つけ次第捕食しているので数自体はそれなりに取り込んでいる。

 それを証拠に現在の俺のステータスはここまで成長していた。


 種族名:スライム

 存在名:登録なし

 HP:24

 MP:6

 力:3

 体力:2

 素早さ:4

 魔力:1

 運:2

 スキル:吸収、模倣、溶解、繁殖、毒生成、耐毒


 スキル説明は名前の通りで特に説明すべきことでもないだろう。

 そういえば前から気になっていたのだが、この存在名とは俺の名前を現すのだろうか。そして登録なしというのなら俺自身で決定づけられるのか。問題として自分自身で名前を付けろなどと言われても特に思い付くものでもない。それに意思疎通を図る相手が居ないのならばそんな記号があったところで意味をなさない。所詮名前など個を区別する記号でしかなく、特別な役割はこんな世界では見いだせはしない。

 寂しさを感じないことは決してないが、それでもそんな寂しさを感じる暇があるならば己を強化しこんな箱庭から一刻も早く抜け出した方が建設的だろう。


 振りかぶられた鈍器を一歩右足を引く形で避ける。地面へと向かう棍棒の行方を見ぬまま、身体が泳ぐ緑色の豚の左側面を回転しながら自ら削り上げた木剣で殴りつけた。形こそ剣に見えるが、その無骨な塊からは鋭利さは一欠けらもなく、やはり目の前のゴブリンが持つ棍棒と差して違いはあるまい。

 くの字に折れ曲がる獲物に情け容赦もなく俺は追撃を仕掛ける。狙うべきは人体の急所となる正中線状の一つである喉元へ刺突。優れた筋力を誇るゴブリンの模倣は同じゴブリンの喉を容易く抜いた。ゴバッと血を吐き、それでも闘争本能から敵対心を消さないゴブリンに俺は敬意を示し、そして包み込む。次いで絶叫が漏れ、ようやく森に束の間の静けさが戻ってきた。

 そもそも相手を吸収するだけなら奇襲からの融解のコンボが有用なのだが、それでは一向に経っても経験というものを積めないことに気付いた俺はこうして真正面から戦うことを選択していた。初めて見る相手や未だ真正面から敵わない相手にはそんな余裕もあるはずないが、自分と同格に近いゴブリンなどにはこうして我流ではあるが接近戦などの戦闘も糧としていた。


 狩りに明け暮れる日々。

 ステータス自体は少しずつではあるが上昇を見せる頃、結構な事件が発生する。

 それはまるで肉壁と初めて目撃したように錯覚してしまった。距離にして五十メートル強ほど離れているために正確の値ではないが、それでも目視で三メートルに近い巨漢がそこには存在した。盛り上がる大胸筋と二の腕はそこらのゴブリンを簡単に捻り潰せるのは想像に難くないほどであり、鬼のような短い角が二本鎮座する。獣から剥いだのか毛皮の腰巻と肩帯に近いそれなりに太い帯が腰巻を支えていた。

 手には石器――というには些か不恰好な石の塊が金棒のように削り出され、その大きさは斬馬刀に近い大きさを誇っていてそれを片手で悠々と担ぎ上げ、もう片方の腕には樫で生み出されたタワーシールドが掲げられている。その姿はまさに西洋の鬼――オーガそのもので、俺は全身の毛穴から吹き出す冷たい汗と背筋からは這い寄る薄ら寒い悪寒を感じていた。

 これは駄目だ。それを生存本能が直接脳へと危険信号を送り、脊髄反射で俺は脱兎の如くその場から逃げ出す。姿は敏捷性とオーガの視界に入らないことを優先してゴブリンから狐の姿を取り、少しでも早く、そして少しでも遠くに逃げようと必死の形相で足を懸命に動かした。


 これが圧倒的強者と弱者の立場の違いかと改めて思い知らされた俺はより一層の警戒心を引き上げ、そして当面の目標としてあのオーガを自身の糧にすることに決めた。

 あのオーガを狩り取ることが出来ればこの近辺では敵無しであろうし、そろそろ拠点を動かしてもいい時期だろう。

 だからといって無暗やたらに挑戦するわけでもない。勇気と無謀を履き違えては早死にするし、蛮勇は勇敢ではない。俺に必要なのはじっくりとした下準備と入念な戦略。そして可能であればあのオーガよりも強力な武装だ。欲を言えば鉄製、せめて青銅製などの武装を装備したいところだがそんな鉱物がこのような森林地帯で見当たると思わないし、何よりそれを加工する術も俺は持ち合わせはない。出来ることと言えばあのオーガのように石から削り出すくらいか。

 だが、たかだか石風情であの筋肉の鎧を砕けるかと問われれば首を傾げざるを得ない。それを顧みるとやはり純粋愚直に己のステータスの底上げに専念し、肉体を中心に据えるべきだろうか。


 俺は悶々とした解決しない問題に心を囚われながら、オーガの行動範囲から逃れられたことを確認して安堵する。今はまだまだ時期尚早、時が満ちるまで徹底的に自分を強くする。

 一応武器の扱いも鍛錬するつもりだが、今のところは相棒たる武器が得られないので徒手格闘を中心に鍛えることに変更しようかとも思うが、同時進行でも問題はないと思うのでこのまま続行しよう。

 雄叫びを上げながら突進してくるアースバードと真正面からぶつかり合う。グググと力比べをする格好で拮抗し合い、腰を捻り運動量をそのまま反転。巴投げをする形で硬い大地へと叩き落とす。グェッ、という言葉を聞き届けることなく全体重を乗せた正拳突きを顔面に捉えて粉砕した。血飛沫と脳漿が辺りを汚し、俺の顔には潰れた眼球などを飛び散り口元を汚す。試しに舐めると生暖かいそれは然程旨くも不味くもなく、淡々と死ぬ前に吸収していく。


 血濡れ姿では獲物も探しづらいので一旦拠点となっている湖まで来た道を大きく迂回する形で帰路に着く。

 帰る最中目についた辺りに生る果物を適当にワシ掴んで口元へと放り込んだ。茸類は兎も角として、一通りの果実に毒性がないことは確認済みである。仮に毒素があろうとも、今の俺には耐毒というサバイバルには有難いスキルが守ってくれているので心配することもない。

 こう考えるとやはり基礎ステータスの向上も大事だが、それ以上に有用なスキルを吸収することも最重要課題である。それを顧みるとどうしても相手のステータス等を知ることが出来るスキルが喉から手が出るほど欲しくなるな。

 そもそもスキルを所有する存在も少ないためどうしても取得する機会に巡り合えないのだ。もっと強い怪物モンスターが徘徊する地域ならば話も変わるだろうが、それらを狩るだけの力を持っていない俺では行くだけ無駄である。無いもの強請りで口惜しいな、本当に。

 漸く拠点へと辿り着き、そのまま警戒を怠ることなく身体を湖の中へと沈みこむ。頭の先まで潜りそのまま一時の安寧と柔らかな波に委ねた。


 ✝


 目指すは最強の二文字のために。

 ただそれを胸に秘め、今日も今日とて俺は鍛錬に勤しむ。

 手にした木剣を正眼に構え、一閃。上段からの斬り下しから手首を返し下段から逆袈裟。風切り音を鳴らしながら軸足を起点に左半身を捻じった。運動量は途切れることなく連動し、腰から放たれる上半身、肩、腕、手首と連続する力が木剣に伝わり仮想敵を薙ぎ払う。

 しかし仮想敵はあろうことかその全身全霊の一撃を易々と受け止め、そのまま力技で俺を抑え込もうとするので俺は地面を転がる形で無理やり距離を作った。柔道の受け身を取るように衝撃を逃がし、左手一本の膂力を以て大地から飛び跳ねる。舌打ち一つ零しながら剣を八双に構え、右足を引いて木剣を寝かし、切っ先を前に立ち塞がる強者へと向ける。

 仮想敵は言わずもがな最大の強敵であるオーガである。能力こそ未だ眼にしてはいないが、俺は自身の想像にすら勝てずにいた。どう攻撃をしてもあの鋼の肉体を貫けるビジョンが浮かばないのだ。切り札として毒生成を用いて直接体内に毒を生成するという方法もあるが、それだって相手を傷付けなければ意味を為さない。幾ら筋肉馬鹿であろうと毒を食べたりしない程度の知能は持ち合わしているだろうからな。

 それらを考慮すると、どうしても相手の装甲を貫いて傷を負わせ、そこから毒を注入して持久戦に持ち込む以外に勝機は見えやしない。ならばこそ、どうにか足掻きもがき不細工でも不恰好でもいいからあの強大な敵から一矢報いねばならないのだ。

 ゴブリン時の俺の身長は凡そ百六十センチなのに対し、相手はその倍近くの巨体を有している。本来なら抉りやすい喉元も狙い辛く、屈強な腹部では話にすらない状況だ。ならばと、俺は地面へと倒れるような形で相手の視界から一時的に姿を消し、上半身と地面が平行になったところで疾走。地を這うような低空位からの強襲。狙いは鍛えようもない金的部分である。

 下段から振り抜かれた木剣は見事金的を捉え、苦渋にもがくオーガは膝を付く死に体となり俺は身体を弓なりに絞り全力で右腕を突き出した。狙うは喉元――の前に眼球。視界を潰し危険を出来るだけ割きたいという俺の願望の現れ故の判断である。

 吸い込まれるように飲み込まれた木剣は綺麗に眼球を貫き、視神経を完全破壊。雄叫びと絶叫とを区別できないような轟音が口から発せられ、暴れる腕は大地を砕く。それを危なげなく回避した俺は再度突貫。潰すべきはもう片方の眼球だ。さっきは左目を貫いたのでオーガの左視界は死角となっている。それを見越し大きく膨らむように相手の視界から逃れ、そこから奇襲。今度も上手く貫き、両方の眼球を潰すことに成功し、残りは喉元だけ。

 ここまで来れば後は単純作業であり危なげなく喉元を貫き、血反吐を吐く喉元へ抉りこむような形で腕を突っ込む。グギュという音は気にせず、ポイズンスネークから吸収したスキル〈毒生成〉を発動。最早猛毒という域に達するその毒素は破れた喉から血管を利用し全身を駆け巡る。流石に即死へと至るほどオーガの生命力は柔ではなく、ここからはただの掃討戦に近い。程なくして、幻影の敵は地に伏すのであった――


 ✝


 ステータスは今や力、体力、素早さは10を超え、HPも50を超えた。MP、魔力、運はどうしても上がり辛く未だ初期値に近い値だが、まぁこれはその内嫌でも上昇すると信じている。

 仮想敵にも漸く勝ちを拾えるようになってきたことを顧みるに、そろそろ挑戦してみるのもアリだと思う反面、やはりもう少し期を熟す方がいいという自分の中の何かが警告する。臆病でなくては生き残ることは出来なく、さりとて冒険しなければ道は切り開けないことだって屡あるだろう。

 はてさて、判断はどう下すべきか。必要なのは臆病さか冒険心か――

 そんな悩みを打ち砕くかのように一つの足音が耳に届いた。それは巨人が自らの武勇を示すかの如き躍進に近い。地響きは段々と近づき、それと呼応するかのように大地は小さく身震いする。

 現れたのは見間違えようもない、正真正銘の敵――オーガ。未だ距離は離れてはいるがアチラは此方を既にロックオンしているのか、歩みはいつしか駆け足になっている。逃げ出すという手もあるだろうが、ここは一歩踏み出してみようかと思う、思ってしまう。ステータスの向上故か、仮想敵を倒せた故か。自暴自棄になってる訳ではない。勿論臆病な心は持ち合わせ、今にも足が震えそうなのは隠しようもない。

 単に時が来たのだと第六感が囁いたのだ。この時、この場所こそが決戦に相応しく、ここを乗り越えぬ者に未来などない。そんなことを言外に伝えられたような気がした。

 四肢に力を漲らせる。ちょうど此処は開けた場所で、思いきり暴れても問題はないし邪魔になるものだってない。漁夫の利を得ようという輩もいないでもないが、近辺一体で主のような存在であるオーガが居るのだ。そんなけったいな覚悟を持つ輩もしないだろう。

 既に歯車は軋みを上げ、止まることのない戦いが始まった。振りかぶられた石金棒はまるで隕石のように頭上から飛来し、そのまま大地を容易く粉砕する。土埃と意思の飛沫が辺りに飛び散り、視界が霞む。


 さぁ、命の凌ぎ合いを始めよう。

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