悪霊退治 最終話
ハァハアハアハア
息が切れる。
ザアアアアアア
川の流れる音がする。
「ほたる、川まで走れ」
彪も息が切れている。
ハァハアハアハア
川まで走ってきて、ほたると彪は息を整えた。
どろん
彪は、大きな獣姿に化けた。とにかく大きくて立派だ。銀色の目も、威厳がある。
「そろそろ来るな」
低い声も、いつもより恐ろしさを感じさせる。
「チカラ・・・ホシイ」
「悪霊が来たぞ、ほたる」
葛の木様が、ほたるをつついた。ずっと肩に乗っていたから、疲れていないのだろう。
「ほれ、これを使うんじゃ」
弓と矢を取りだし、ほたるに手渡す。
「矢は、予備が1本しかないからな」
「・・・なんか、半端な数ね」
「チカラ・・・クレ!!」
悪霊が姿を現した。
「来たな、悪霊」
彪が、ピカッと光を出した。白っぽい光が発せられる。この光には、相手の妖力を吸い取る妖力があるのだ。
「ウワアアアアア・・・。コワイ、コワイ」
光が消える前に、ほたるは彪の背に乗った。
「ギャッギャッ」
悪霊が目をふさいでいる。光が消えると、弓を引き絞った。撃てるか分からないけど、もうやけくそだ。
パン
矢が放たれ、悪霊に当たった・・・と思ったら、外してしまった。
「ヨクモ・・・オノレ・・・。オノレ!!」
悪霊が飛びかかってきた。
「くそう・・・。鬼水晶の妖力で、回復が早い。・・・これじゃ、近付くのも危険だ」
彪は、ほたるを乗せたまま空を飛んだ。
「わぁ。空、飛べるの?」
「当り前だ」
「感心してる場合じゃないぞ、ほたる」
葛の木様が、ほたるを叩いた。
「そうだ。どうしよう・・・」
「矢なら、もう一本あるぞ」
葛の木様が、矢をほたるに渡した。だけど、撃てる自信が一気に無くなった。
「ええい。悪霊が追ってきている。さっさととどめをささないと」
彪も焦っているけど、ほたるもかなり焦っている。
「どうしよう・・・」
遂につぶやいてしまった。
「私と彪が届くように、意識を飛ばせば、当たるかもしれんなあ」
葛の木様の言葉に、彪もほたるもがくっときた。
「早く言ってよ」
2人で同時に、叫ぶように言った。
「オノレ」
恐ろしい悪霊の声に、ほたるはドキっとした。
「いくぞ」
彪が正面から向かった。ほたるが弓を引き絞る。当たれ、当たれ、当たれ・・・!!
ひたすら念を込めながら・・・。
「いくんじゃーーーほたるーーー」
葛の木様が耳元で、叫んだ。
パン
矢が悪霊に向かって飛んでいく。
トン
「ギャーーーーーー・・・」
悪霊の悲鳴。矢が・・・。悪霊に・・・。鬼水晶に当たった。だけどそれと同時に何かが光った。
まぶしくて、どこか不気味な、白い光・・・。
サッと、彪は飛びのいた。
「なんだ、あれは。すごく嫌な感じが・・・」
「ギ・・・ア・・・」
悪霊は、光の中で悲鳴を上げながら消えていった。
「お・・・終わったよ」
ほたるはため息をついた。
「しかし・・・。結局、鬼水晶は見つからなかったな・・・。ただ働きか・・・」
彪も、ため息をついた。猫の姿に戻っている。
「ありがとう・・・。ほたる、彪、ありがとう。ありがとう」
葛の木が、涙混じりに言った。
「しょうがない。ま、見つけたら教えろよ」
彪は鬼水晶のことを、まだ言っているらしい。
「悪霊、殺しちゃった・・・」
「あいつは、正体を失った悪霊だ。殺したことにはならないさ。もしかしたら、成仏しちゃったかもしれん」
彪の一言に、安心した。
とにかく。ほたるは、自分のチカラが初めて役に立ったことが嬉しかった。これで、若菜さんの命は助かる。それに、彪も葛の木様とも出会えて良かった。妖怪のことはあまり好きにはなれないけど。これも、出会いの一つだ。