悪霊祓い その壱
翌日。
「おーい。葛の木様ーーー」
学校帰りに、稲荷神社へ寄ってみた。葛の木様は、祠の前に座っていた。
「こんにちは。葛の木様。・・・若菜さん、来た?」
「おお。ほたるか。まだ来てないぞ」
葛の木様は、少々退屈そう。
「そうだ。葛の木様、飴いる?こっそり鞄に入れてきたんだ」
取り出したのは、イチゴ味の飴玉。
「ルール違反はいけないぞ」
そう言いながらも、嬉しそうに飴玉を受け取った。
「甘っ。甘くて、美味だ」
意外に食いしん坊な一面もあるのだ。そんな事をしていると、若菜さんが来た。
「こんにちは」
若菜さんが言った。
「こんにちは」
ほたるも返す。
「あなたもお参りに?」
「ええ。…まあ」
まさか、葛の木様とお話に来たなんて言えない。若菜さんは、ゴホッゴホッと変な咳をした。背中には相変わらず、妖怪が憑いている。若菜さんは、綺麗な花をお供えした。葛の木様は、ほたるの肩に乗って、若菜さんを見つめていた。
「ふふ」
若菜さんは、一人で笑った。
「ごめんなさいね。思い出し笑いをしてしまった」
そして、少し悲しそうな顔をした。
「私、10歳のときに母を亡くしているの。ここは、母との思い出の場所でね。・・・母が亡くなった時悲しくてここで泣いていたら、誰かに頭を撫でられたの。顔を上げたら・・・」
そこで少し黙った。目はどこか遠くを見ている。
「狐の面をした、男の人がいたの。その時はビックリして、逃げ帰ってしまったけど・・・。もしかしたら、この祠に住んでいる神様だったのかしらって・・・」
それだけ話して、帰って行った。ほたると葛の木は、若菜さんの後ろ姿を見送った。
「そんなことをしたの?」
「ああ。若菜さんはすごく悲しそうに泣いていたからね。慰めてあげたくて。私は、笑っている若菜さんが好きだからね」
ああ・・・。葛の木様は、若菜さんのことが好きなのだろう。
「……」
「ん?何か言った?」
「は?何を言っているんだ?」
でも、確かに聞こえたような・・・。
「…が…」
やっぱり!!
「む。この気配。あの妖怪じゃ」
「えっ?」
聞いた時。
「ホシイ。チカラガホシイ」
シュッと妖怪が来るのが見えた。若菜さんに憑いていた・・・。
「うそーーーーーー!!!」
ほたるは、葛の木様を乗せたまま走りだした。
ああ。やはり来ていないか。彪は、昨日、ほたると出会った場所に来ていた。しかし、ほたるはいない。何、人間のことなんて信じているんだか。やっぱり帰ろう。
ハァハアハアハア
声が聞こえる。・・・・・・声?
ハアハァハアハアハア ガサガサガサ サクサクサク
誰か走ってくる。・・・この匂い。・・・あッ!!!
ハァハアハアハア
「あっ。彪!!!!」
ほたるが走ってきた。その後ろから来るのは・・・。
「あっっっ」
「彪・・・なんか・・・追わ・・・れて・・・て」
ほたるは息を切らしてる。
「もーーー。何やっとるんだ」
彪は、追い払おうとした。しかし、妖怪の方も逃げ足が速い。
「ギャっギャッ」
妖怪は、逃げて行ってしまった。