稲荷神社で・・・。
雨がやんだ。ほたるは傘を閉じた。
「さっさと帰れ」
大きな獣が言った。
「なによ。ここにいてはだめなの?」
ムッとしたように聞いた。
「お前、人間だろう?私が怖くはないのか?」
「そりゃあね。怖いけど。でも、私の事を食べたりしないでしょ?」
大きな獣がため息をついた。
「ふふ。妖怪とこんなに長くはなしたの、初めてだよ。あんた、名前は?」
大きな獣はじっとほたるを見つめた。そして突然・・・。
どろん
小さな猫になった。
「わあ・・・。なんなの?その姿」
「気にするな。どちらも本当の姿だから。私は彪だ」
「私、ほたるっていうの」
猫姿になると、あまり表情が変わらない。
「では、ほたる。人の子があまりここへ、一人で来るんじゃない」
「なぜ?」
「ここは妖が多い。見えるお前なぞ、食われてしまうかもしれないぞ」
彪は目を細めてからかうような口調で言った。
「そうなの?忠告ありがとう。でも、ここはわたしの大切な居場所でもあるの。・・・ねえ、明日も来ていい?」
「私はここへは来ないよ」
そう言われても、ほたるは来るつもりだった。それが彪にも伝わっている。
「バイバイ、彪」
ほたるは手を振って別れた。
帰り道。かなりテンション高めで歩いていた。
「そこの人の子」
突然横から声がした。ほたるがきょろきょろした。
「おーーーい」
精一杯呼んでいる。声のする方を見た。そこにあるのは・・・。小さな祠のある稲荷神社だった。
「おーーーーーい。人の子ーーー」
小さな声。
「誰かいるの?」
ほたるは恐る恐る、足を踏み入れた。そして、祠の前に来た。
「えーーっと・・・」
「ここだ。こっち、こっち」
もっと下の方からだ。下を見ると・・・。
「ふう。やっと気が付いた」
「・・・わあああああああ!?・・・と。小さな妖怪か」
祠の下には、着物を着た小さなおじさんがいた。こういうのにも、もう慣れた。
「何か用?」
「うーむ。やっぱり、見えるのか」
おじさんが言った。
「見えるよ。私はほたる。・・・君の名前は?」
「私は葛の木。ほたる、少しの間、力を貸して頂きたい」
力を貸す?今までそんなこと、言われたことない。
「・・・厄介なことじゃ、ないよね。あまり関わりたくないような・・・」
「そんなこと言わずに。忘れられたこの場所に住んでる、わたしのたった1つの願いなのだ」
葛の木は泣きながら言った。ほたるも、泣かれてはかなわない。
「分かったよ。何すればいいの?」
「おお。ありがたい。手伝ってくれるか」
葛の木は大喜びしている。ほたるは、はあーっとため息をついた。
どうだったでしょうか。感想、意見頂けたら嬉しいです。
彪が猫姿の時の姿には、いろいろ理由がありますが、私の想像したのだと・・・。
尾が短いのは、野良猫時代にケンカして・・・。ということです。街中にそういう猫がいると悲しくなります。太っているのは、人間から解放されて、沢山美味しいものを食べたから、という設定にしています。
また、読んで頂けると嬉しいです。