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破片(かけら) その弐

「ね、お願いします」

ほたるは、葛のくずのき様に、頭を下げた。葛の木様は、考えこんでいる。

鬼水晶は、結局見つからないままだ。葛の木様の祠の前には、よくあやかしが通る。そのため、鬼水晶について、噂していくあやかしもいるかもしれないと、ほたるは考えたのだ。

ひゅうも、少々期待したように、葛の木様を見ていた。

「よし、分かった。ほたるや彪には、恩があるから、少し手伝ってやろう」

「やったーーー」

ほたるは、手を上げて喜んだ。

「ありがとう」

ほたるが葛の木様にお礼する。

「お前、神様だから、敬語を使うんじゃなかったのか?」

彪に、小馬鹿にしたように言われ。ほたるは、ハッとした。

「ご、ごご・・・。ごめんなさい」

すごい勢いで謝る。ほたるは敬語が苦手だったのだ。

「良いんじゃ。敬語を使わんくらいで、祟りはしないさ」

葛の木様は、おばさん達が近所の人とお話するときのように、手をパタパタさせて言った。ほたるがホッとしたことは、言うまでもない。

「それじゃ、お願いしまーす」

それでも、極力敬語を使おうと、ほたるは思ったのだった。だって、葛の木様は神様だもの。



森は風の音と、蝉の鳴きこえでいっぱいだった。夏なのに涼しい。彪も、ようやく自分の足で、歩きだした。

「きびきび歩け。探すぞ」

突然、調子が良くなった彪に、ほたるは半ば呆れていた。

「彪はさ、どうして水晶が欲しいの?」

妖力ちからが欲しいのさ」

ただ一言返ってきた。

「そんなもの無くても、彪は十分強いのに?」

「持っといて、損はないだろう」

そりゃそうだろうよと、ほたるは心の中で思った。彪のことは、ほとんど知らない。一方で、彪もほたるについては、ほとんど知らなかったのだ。人に、妖怪のことなど解らない。妖怪に、人のことなど解らない。だからほたるには、鬼水晶の価値が解らない。

「この辺だったな」

彪が足を止めたため、ほたるも止まった。悪霊を退治した、あの場所へ、到着したのだ。

「何も感じないよ。やっぱり、無いんじゃないかな・・・」

ほたるは辺りを見回す。

「阿呆か。この場所に無い事くらい、分かっておるわ。この周辺を、探すのだ」

前足で、タシタシと地面を叩く。催促するような口調だ。

「分かった、分かった。さっさと探しちゃおう」

もしかしたら、もう他の妖怪が獲ってしまったかもしれないけど。けれど、彪は葛の木様やほたるのために、悪霊退治を手伝ってくれたのだ。何の関わりもない、ほたるのことを。だから、彪にはお礼しなくてはならない。

その日は、近くにある、麗ヶうららがはらを探すことにした。原っぱだから、かなり暑い。早めに引き上げないと、熱中症になるかもしれない。彪は、茂みの中などを中心に探していた。ほたるも、しゃがみ込んで探し回る。その様子は、公園でアリを探す子供のようだった。森よりも見晴らしが良いから、一目瞭然だけど。それでも、一応。

     ザアアアアアアアア

風が吹いて、草花を揺らしていく。周囲の木々も、茂みも。そしてほたるの横顔にも、湿った風が吹きつけていった。ジンワリと、汗が出て、流れていく。フウーーと、ため息を吐く。

「あーー・・・。無いよーー・・・」

叫びながら、思いっきり伸びをする。かなり長時間探していたから、腰が痛くなっていた。

と。

「あ?沼がある」

伸びをしたとき、遠くに沼があることに気が付いた。立ち上がり、駆け寄る。

沼の水は、透き通っていてとても綺麗だ。沼の水にハンカチを浸して、ギュっと絞る。そして、ハンカチを顔に当てた。

「冷っったーーーい」

かなりテンションが上がった。都会に住んでいたほたるにとっては、珍しい光景だったりする。こんなに冷たくて、綺麗な沼なんて。

「見つかったのか?」

突然、横から声がしたため、驚きはしたものの、すぐに彪だと分かった。ハンカチを顔から取って、横を見る。

「無かった・・・」

「だろうな。だいたい、何も感じないのに周辺を探しても意味無いか・・・・・・」

呟くように彪は言ったけど、ほたるは聞き逃さなかった。

「先に言ってよ」

「ふん。今気が付いたんだ」

「まったく。葛の木様といい、彪といい・・・・・・」

呆れるかぎりだと、ほたるは彪を見つめた。

これで、今日の捜索は終わってしまった。

その後、色々なところを探してみたものの、結局見つからずーーーー・・・。妖怪たちに、聞き込みをして回ったりもしていた。

1週間後。

「ほたる、今日は朝霧山まで言ってみよう」

彪が提案した。ほたるも山に行くのは面倒だと思ったが、しょうがないと渋々承知した。

  バンバンバン

ふいに、窓を激しく叩く音がして、ほたると彪はそちらを見た。窓の外には、雀に乗った葛の木様がいた。

「おはよう、葛の木様」

葛の木様は、かなり慌てている。

「どうした・・・」

ほたるが聞こうとしたのを遮り、

「大変じゃ、大変じゃ」

と、連呼している。

「落ち着け、葛の木」

彪も、ただならない葛の木様を見て、近寄ってきた。葛の木様は、ゼェゼェいっている。

「と、とにかく落ち着いて」

ほたるが葛の木様に、座布団を出した。チョコン、と座って息を整えている。

「で、どうしたの?」

葛の木様は、ほたると彪を、順々に見て言った。

「良いか。大変なことが起きたぞ」

葛の木様は、深呼吸をした。そして次の瞬間、あり得ないことを口にした。

「鬼水晶が割れたぞ!!」

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