転生したのはタイル
思い付き書いてみました。結構適当に書いたのであまり期待せず、深く考えずお読みください。
皆様は転生と聞いて何を思い浮かべるだろうか?
神様の手違いで死に、お詫びに自分の願いをいくつか叶えもらい異世界の裕福な家庭の子供に前世の記憶を保ったまま生まれ変わったり。
元々生きていた人間の体に乗り移ったり。
または人間ではない別の生き物に、なんて考えた人もいるかもしれない。
しかし私が生まれ変わった物を想像した人がいただろうか? いや、おそらくいないだろう。
誰が想像できようか風呂場のタイルに転生するだなんて。
何故こうなったのかを話す前に自己紹介から始めよう。私の名前は今木元也ごく普通の一般市民だ。家族は父、母、祖母、祖父、兄、姉の七人家族で、金持ちでもなければ貧乏でもない普通の家庭、仕事もこれまた普通のサラリーマンだ。私自身も何か特別な特技が有ったり、特殊な職業についている訳でもない、家族同様普通の人間だった。
要するに私が言いたいのはタイルになる理由なんて無いし、心当たりも無いということだ。
私が死んだのは仕事帰りだった。運転操作を誤った大型バイクが突っ込んできたのだ。
今から考えたら私の人生で最初で最後の普通じゃない出来事だったな。
自分の体が跳ねられ、地面に叩き付けられ潰れる音。一瞬の暗闇、次に目にしたのは我が家の六畳ほどの風呂場だった。最初は何が何だか分からなかった、当たり前だ。タイルに生まれ変わったなんて考えが浮かぶはずが無い。
手足が動かず視点も変えられない、声すらも出ない。もしここが自分の知っている場所じゃなければ発狂していたかもしれない。
とりあえず何とか混乱を抑えた私は家族の誰かが来るのを待った。しかし、その日は誰も風呂に入る気配すらない。この時ほど家族に対して苛立ちを覚えたことはなかった。今考えてみると理不尽だったと思う。私が死んで風呂になんて入っている暇も考えもあるはずなかったのに。
私はその日眠らずに待ち続けた。正確には眠ることが出来なかった、当たり前だタイルが眠れる筈が無い。
タイルになったと初めてに気が付いたのは姉が風呂に入って来た時だ。私に気付いてくれるかと思ったが私に目線を向けてはくれない。姉は暗い顔をしてシャワーを浴び初めたが声をあげて泣き出し、私の名前を呼びながら頭を私にくっ付けた。
姉は幼い頃から父に叱られた後や昔飼っていた犬が死んでしまった時など辛い事や悲しいことがあると、風呂場でタイル張りの壁に頭を押し付ける癖がある。この時に私は、自分はもしかしてタイルになったということと、今まで目を背けてきた自分が死んでしまったという事を悟った。
ひとしきり泣いたあと手早く体を洗うと姉は風呂場から出ていった。
私は自分が死んだという現実と人ならざるものになってしまったということに向き合わねばならなくなった。
気が付けば夜だったのにまわりは明るくなっていた、その時まで私は放心状態だったのかもしれない。ふと、私はやけに家が静かなのに気が付いた人の気配がまるでしない。おそらく葬式などの手配で家を空けているのだろうと姉が来る前の混乱と興奮が嘘だったかのように冷静に考える事が出来る、現実を受け入れる事によって何か吹っ切れた用だった。
これから私はどうすればいいか考える事にした。人間らしい行動は出来ず、見ることと考える事しかできない。そもそもどうして死んで気が付いたら地獄や天国に逝くでもなく別人にも生まれ変らず風呂場のタイルなんだ? 私がこうなって誰が得をするっていうんだ? あの忌まわしい私が死んだ時を思い出してみた、確かあの日は雨が降っていて仕事で疲れきっていた私は早く帰ってシャワーを浴び続けたいと考えていたところにあのバイクが突っ込んで来たんだ。嫌な気分になるだけで得るものはなにもなかった。
普通、転生物の小説で理由はどうであれ神だか天使だかが現れるが私の場合それすらない。結局其から暫く色々と考えたが何も良い案は浮かばず途方にくれた。
そうしていると兄が風呂場に入って来た。兄は姉のように泣かなかったがずっと沈鬱な表情で座ってシャワーを浴び続けていた。風呂場で悲しむのは兄姉一緒だな。兄にはよく小さい頃苛められた物だ。兄の事はそんなに好きではなかったがやはり家族としての愛情を持っていた。
あんな死に方をしてどれ程迷惑をかけたか、きっと仕事を無理して休んだのだろう? 世間では私はなんと言われているのだろう?家族に申し訳ない、心の底から謝りたい。しかし、今の私にはそれすら許されない。
父も母も祖母も祖父も風呂場で泣いた。この姿になったのは罰なのだろうか?家族を悲しませた俺への。罰を受けるならバイクの運転手ではないのだろうか。
結局其から何か特別な事が起こること無く時が過ぎていった。
ある日祖父が死んだ事に気付いた。此処暫く姿を見なかったのでもしやと思っていたが祖母の寂しげな表情を見て確信に変わった。その二年後祖母も死んだらしかった。不確かなのは外の情報が入って来ないため家族の表情と言葉だけで判断しなければならないからだ、私の表情を読む技術は此処数年で飛躍的に上達していった。見ることと聞く事しか出来ないのだからそれしかすることがない。
姉は結婚した様だ。生前数回顔を見た事のある人物と父母いないときに一緒に入っている。入るのは勝手だが乳繰り合うのは止めてほしい砂を吐きそうだ。
姉は俺の死を乗り越えたようだ幸せになってくれて嬉しいが寂しかった。こうやって俺を覚えている人がいなくなっていくのだろうか。誰もが俺の事を忘れたら俺はどうなるのだろう。消えて無くなるのだろうか。
やがて姉に子供が生まれ一緒に風呂に入るようになった姉によく似た男の子だが目と鼻の形は結婚相手に似ていた。見ていて何とも微笑ましい。たまに父や母とも入っている。二人共随分と老けたもう立派なおじいちゃん、おばあちゃんだ。本当に幸せそうだ父はもう定年退職しただろうから孫とべたべたなのだろう。兄は時々奥さんを連れて帰って来る子供はまだいないらしい。
これは余談だが風呂場で乳繰り合うのは姉だけではなかった。そういえば父と母が昔、お前は風呂場で作ったとか言ったいた気がする、血筋だろうか。
こうやって緩やかに数十年の時が過ぎていった。そうしている内に一人、また一人と家族がいなくなりとうとう年老いた姉一人だけとなった。
家族が減っていくに連れて私にも変化が起こり始めた。聴覚や視覚にノイズが入り始めたのだ。最初は気にする程の事ではなかったが母が死んだ後ノイズは無視出来ぬ程大きくなった。どうやら私を覚えている人間の存在が私をこの場に存在させているらしい、ーーーーいや、正確には家族という括りが在るのかもしれないが。ーーーーそのノイズが此処最近特にひどい、どうやら姉が体調を崩した事と関係あるらしい。最後に姉を見たのは息子に支えられて入ったときだった。顔色が優れず痩せ干そっていた、もう年だから無理しなければ良かったのに。
ある日酷かったノイズがいままでで一番大きくなった、姉がとうとう危ないらしい私も覚悟を決めた方がいい様だ。私は過去の事をおもいだし始めた。一番最初に思い浮かんだのはこの数奇なタイル生活の始まりとなったあの事故だ。今思うと最初こそこんな事になって全てを呪ったが何の夢も目的も無く無意味に人として生きるより、良かったのかもしれない。家族をより愛する事ができた。これは呪いや罰では無く私に対する試練だったのかもしれない。自分と家族を見つめるための。
父も母も良い親だった。子供には甘かったが私や姉達が悪い行いをすると母は怒鳴り付け、父は蹴りで私達を外へ放り出した。祖父母はよく小遣いをくれた。二人共お互いがお互いに内緒だよと言っていたっけ。
兄にはよく菓子を横取りされたっけ
姉は何時でも私に優しかったなぁ
忘れられるのは辛いが何時までも留まるのは良い事ではない。あの世が実在するのならばそこでまた家族と会えるだろうか。
とうとう何も見る事も、聞く事も出来なくなった。姉が事切れたらしい、もう私の時間は終わりか。
もう何十年と感じた事をなかった睡魔に襲われた。これが死か、もっと恐ろしいかと思っていたがなんて穏やかなんだろう。
待っててね、お姉ちゃん。俺もすぐ逝くよ。
風呂に入っていた時に思い付いた物です。とりあえず書いたので投稿しました。




