第9話 捨てられた真意
「本当に着いた……」
聖域を出て数日、魔物の襲われる事もあったが俺は無事実家のある町へと帰って来た。
いや屋敷から出たことないから町の様子とか全然分かんないけどな。
ただ遠目から見る屋敷の形状は見覚えがあるから実家の筈だ。
流石にこの髪の色と魔物であるダンテ達を連れて町に入る訳にはいかないので、夜を待って侵入することにした。
「ゲイル、見つからないように頼む」
「(ワウ)」
俺が頼むとゲイルは音も無く建物の屋根を飛びながら進んでゆく。
「……」
正直緊張する。
両親の真意、いやそれ以前にどうやって確認すれば良い?
本人に直接聞く? でもそれで本当に生贄だったらどうなる?
思考がグルグルと廻る。正直ゲイルが居てくれてよかった。
俺だけだったら途中で足が止まって進めなくなっていただろう。
「衛兵に見つからない様に裏手の壁を越えて入ってくれ」
「(ワウ)」
屋敷に近づくと、見張りの兵士や巡回の兵士を回避して敷地内に入る。
「何だアレ?」
すると何やら見覚えのないものが目に入る。
「アレは……墓?」
でもあんな所に墓なんて無かった筈。
一体誰の……
「ワウッ」
「うわっ!?」
と、突然ゲイルが俺を物陰に引き込んだ。
「何を!?」
「誰か居るのか?」
「っ!?」
その声を聞いた瞬間全身が凍り着く。
「……気のせいか」
声の主は父上だった。
ゲイルが物陰に引っ張り込んでくれなかったら見つかっていたところだ。
「フォルスの声が聞こえた気がしたが……気のせいか」
そう言って父上は墓の前に立つ。
「いや、本当にお前の声だったのかもしれんな。お前を捨てた儂への恨みの……」
「っ!?」
捨てた!? 今捨てたって言ったか!?
飛び出しそうになるのを慌てて堪える。
じゃあもしかしてあの墓は俺の……
「うぉぉぉぉぉぉぉ! 許してくれぇフォルスゥゥゥゥゥゥッ!!」
「うぇ?」
突然号泣を始めた父上に度肝を抜かれる。
って父上が泣いてる!? しかもあんなガン泣き!?
「お前を! お前を犠牲にするしかなかった不甲斐ない父を許しておくれぇぇぇぇぇ! いや恨んでくれ! こんな力のない父を!」
ええと……何コレ?
「貴方だけの責任ではありませんわ」
「今度は母上!?」
困惑している俺をよそに母上までやって来た。
「お腹を痛めて産んだ我が子が生贄に差し出されると知って何も出来なかった私が悪いのです! う、うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
今度は母上まで泣き出した。もうどうなってんの?
「「父上、母上、それは我等も同じです!!」」
「うわっ、兄上達まで出て来た!?」
「変われるものなら変わってやりたかった! だが我々は魔力を持っていた所為で生贄になる資格は無かった!」
「何故だ! 魔力を持たないハンデを背負っていただけでなく、それ以上の苦難を何故神は弟に与えられたのだ!」
「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
あー、いや、使用人が身の回りのことを色々やってくれたからそんなにハンデって感じはしてなかったんですけど……って言うか兄上達そんな風に思っててくれたんだ。
普段から稽古や勉強で忙しいから邪魔しちゃいけないって言われてあまり会わせて貰えなかったんだけど、今思うと変に情が湧かない様に隔離されてたってことなんだろうか?
そう考えると父上と母上も冷たいわけじゃないが教育や躾けに関してはいかにも厳しい貴族の親ってイメージだったんだけどなぁ。
なんかこの光景を見てると皆のイメージ変わるわー。
「お館様だけの罪ではございません」
「また出た」
次に現れたのは使用人達のまとめ役の執事とメイド長、更に領地を守る騎士団の団長と使用人達だった。
「魔力を持たぬ子が生まれた際は、その子を生贄に捧げる事が東部貴族派閥のしきたり。このしきたりがあったからこそ、魔物の襲撃によって窮地におちいった領地は他領に援軍を要請出来たのです」
え? 何そのしきたり。知らないんですけど。
「だがそれは魔物の脅威に対し、自分達だけで対応できない我等騎士団の不足が招いたこと! 我等に力があればみすみす若様を死地に赴かせなかったものを!」
「私の息子は若様と同じ年頃でした! あの時何も知らず若様が聖域の奥へと消えていく光景が忘れられません!」
「若様に何も言えなかった私達も同じです。言おうと思えば言えたのに、でも言ったからといってそれで苦しむのは若様だけで、だから私は……」
まるで教会で懺悔するように俺の墓の前で泣き崩れる家臣達。
でも懺悔される俺はここにいるんですよねー。
「ああフォルスよ! 領主として非常な決断を下した私を恨め! そして私が地獄に落ちた際は喜んでお前の刃に裁かれよう!」
うーん、何ていうかそうしないといけない状況だったって奴?
協定とか言うので絶対やらないといけないから逆らったらうちの領地に援軍要請できないからしかたなくと?
「理由は分かったけど……」
困った、この状況どうしよう。
理由は分かったけどそれで生贄にされたモヤモヤが消える訳じゃない。
でも恨み言を言おうにも皆して号泣土下座してる姿を見るとなんか妙にスンとなってs舞う訳で。
いっそここに出て行くか? 大騒ぎになるけど一発思いっきりぶん殴ってみれば少しはすっきりするかもしれない。
これだけ俺の事を悔いてくれているなら帰っても殺されたりはしないよな?
と思ったんだが……
「騎士団長、もう一度確認するがフォルスは死んだのだな?」
「……はい、若様を追跡した者が、魔物に襲われ組み伏せられた姿を確認しております。不甲斐ない事に最後の瞬間を確認する罪悪感に耐えられず逃げ帰ってきましたが、鍛錬を積んでいない若様では逃れる事は不可能です」
「そうか……万が一にも生き残っている可能性はないのだな」
騎士団長の返答を聞いて肩を落とす父上。
「ええ、仮にあの状況から逃げだせたとしても、聖域の境界線には騎兵が巡回しています。遠方に逃げた所で他の貴族の監視の目がありますので……」
あっ、駄目だこれ。姿を見せたら協定違反になるからって聖域に強制連行される奴だ。
「……」
俺はゲイルを促してそっと屋敷を離れる。
「帰れる空気じゃなかったな……」
結局俺は生贄にされたのか。
「でも、愛されていたのは間違いなかったんだ」
貴族の責務に雁字搦めにされてどうしようも出来なかった両親の苦渋の選択の中、それだけが唯一の慰めか。
これだけ冷静に考えられるのは多分俺に前世の記憶があるからだろうな。
世界史とかを習って、国家間の条約なんかの重要性を知っているし、問題を起こした国家が制裁措置を取られたというニュースをTVで見たりしていたから、そうしないとこの領地が制裁対象になると分かってしまったからだ。
「ミッ!」
と、そんな風に納得しようとしていた俺の顔面にダンテが覆いかぶさってくる。
「わぷっ、なんだよ!? もしかして慰めてるつもりなのか?」
「ミミッ!」
「ワウッ!」
どうやらそうっぽい。
やれやれ、荒っぽい慰め方だな。
「でもありがとな」
捨てられた俺でも、気遣ってくれる仲間?が居るってのは悪くないもんだ。
「んじゃ帰るか。俺達の家に」
「ミッ!」
「ワウ!」
考えてみれば十数年間ずっと家に閉じ込められていた俺の初めての外出なんだよな。
これからどうするにせよ、外の世界を満喫してから考えるでも遅くはないのかもしれない。
きっとこの考え方は問題を先送りにする為の逃避なんだろうけど、それでも初めての外の世界に対するワクワクしている気持ちがあるのは事実。
寧ろモヤモヤがすっきりしたからこそそう考える余裕が出来たのかもしれない。
「後ろ向きに考えるよりもそっちの方が良いよな。まずは帰って拠点を快適にするぞ! 目標は実家に暮らしていた時よりも快適にだ!」
カラ元気も元気の内、なんて言葉の通り、俺は平気なフリをして皆の待つ聖域へと帰るのだった。
◆
「お帰りなさいませフォルス様! ご実家への報復の決意は固まりましたか? わたくしはいつでも準備完了です!」
「……あ、あー」
お姫様は今日も元気に復讐の炎に燃えていた。
うーん、こっちはどうしたもんかなぁ。




