第8話 魔物を従えるモノ
「なんじゃこりゃー!」
女の子が差し出した携帯ミラーには、銀色の髪になった俺の姿が映っていた。
「何でこんなことに!? 一体いつ!?」
屋敷を出る前はいつも通りだった筈だ。儀式の装束に着替えた時に鏡で自分の姿を見たからな。
という事は髪の毛の色が変わったのは聖域に入ってからだ。
だとしたらどのタイミング……
そこで俺はあの時の事を思い出す。
魔物に追われ、力尽きそうになったあの時に落ちて来た銀色の果実。
「アレかぁーーーっ!」
あの銀色の果実を食べた後の一連の不思議な出来事の数々を考えると、アレがきっかけだったとしか思えない。
でも何で髪の毛の色が変わるのさ!?
「改めまして銀糸の君。わたくしの名はククミス・ナル・ロドルファース。ロドルファース王の娘です」
「ええ!? お姫様!?」
俺が多少なりとも落ち着いたタイミングを見計らって、更なる爆弾を投下してくるククミスと名乗る女の子。
「生贄ゆえ王位継承権を持たぬ身ですが」
「いやそれでも……生贄?」
「はい。聖域、という名の魔物の領域に住まう主に捧げられる存在。ナルは、生贄、何者でもないモノ、富をもたらす果実を意味する王家で代々生贄になるものに与えられる名です」
「何それ!?」
生贄になる人間の為の名前って、何考えてんだ王家は!?
「つまり、わたくしは貴方様のモノになる為にやってきました」
「お、俺のモノ!?」
どどどどういうこと!? 美少女が俺のもの!? 生贄ってそういうヤツ!?
「いや待って待って、俺は普通の人間だから! 生贄貰ったりしないから!」
「何を仰います。貴方様は先ほど魔物を自在に操っていらっしゃったではありませんか! あれこそ魔物の主の証明です!」
「いや何でか分かんないけどあいつ等が勝手に懐いてくるんだって」
「やっぱり!」
やっぱりじゃないよ、他の魔物は普通に襲ってくれるんだから!
俺はズイと近づいて来たククミスを引き剥がす。
「生贄の儀式は代々行われてきました。そしてその度に魔物は鎮まり、王家は国に平安を与えてきたのです。自らが実践して血を流すからこそ、王家は王家たるのです。……生贄にされる方はたまったものではありませんが」
最後にボソッと本音が聞こえた気がする。
「ですが正直安堵しました。恐ろしい魔物に頭から食べられてしまうのではないかと、最悪死ぬまで猫にいたぶられるネズミのような目に遭わされてから殺されるのではないかと怯えていましたから」
あー、うん、それは怖いよね。
それが争いと無縁なお姫様なら猶更だ。
「でも本当に俺は違うんだよ。俺はフォルス・トランカル、トランカル男爵家の人間だ。俺も多分君と同じように生贄にされたんだ」
「トランカル男爵? 聞き覚えはありませんが響きからして東部の貴族でしょうか」
お姫様が知らないって事は田舎の貴族だったんだなウチの実家。
俺は自分が魔物を鎮める儀式を行う為に聖域にやって来たが、祭壇が壊れていて儀式は失敗した事。更に帰りを待っている筈の騎士団も居なくなっていた事を説明する。
「そんな話は聞いた事もありませんね。いえ、一部の貴族が独自に生贄を捧げているという噂は聞いたことがあります。聖域に住まう魔物の主は複数おり、それぞれが自分の縄張りを持っているのだと。故に聖域に近い土地は他の土地と比べて魔物の被害が多いのだそうです。ですから聖域近くに住まう領主が追加で生贄を差し出す事で被害を抑えようとしているのでしょう」
しかしとククミスは言葉を続ける。
「魔物を鎮める儀式というものは存在しません。そのようなものがあるのなら王家が率先して行っているでしょうから。恐らくは生贄にそうと悟られない為の方便だたのではないでしょうか?」
「じゃあやっぱり……」
自分の、かなり強引だと思っていた辻褄合わせの嫌な考えが当たってしまった事にショックを受ける。
あんなに愛してくれた家族が、あんなに優しくしてくれた家臣の皆の気持ちが、それが嘘だったなんて……
やりきれない思いに俺は眩暈がしてくる。
この世界はそこまでしないといけない世界だったのか……
「その気持ち分かります。一方的ですものね。私も何もできない無能者と陰口を、いえ堂々と言われた事もあります。ですから……」
グッとククミスが俺の手を握る。
「復讐しましょう!」
「え?」
「復讐です復讐! 私達を生贄にした王家と貴方様の親に、復讐しましょう!」
「あ、えと……」
まさかいきなり復讐に誘われると思っていなかったんですけど!?
「あ、いや、でもまだ俺は生贄にされたと決まった訳じゃないし。家族も本当に儀式に降下があると思ってたかもしれないし……」
「そんな筈はありません! 私は魔力を持たずに生まれて来たからと生まれた時から生贄になる事が決められていたんですよ! お母様ですら「お前が犠牲になってくれるお陰で当家は王家より格別の計らいをして貰えることが決まりました。侯爵家の血が流れる事を誇りに思って役割を全うしなさいと言われたのですよ!! そんなもの誇りに思えるわけがないじゃないですか!」
猛烈な勢いで喋り出したククミスは言いたい事を言い終えると荒い息で大きく息を吸う。
「ですから、フォルス様のご両親も家の繁栄を第一に考えていた事は間違いありません!」
「そうかなぁ……」
「そうですとも! ですから復讐しま「ミーッ!!」きゃあっ!?」
と、猛烈な勢いで俺に復讐を求めるククミスをダンテが威嚇する。
「グルルルル」
「ギィン……」
「ノココォ」
「ジュジュゥ」
「ボゥ……」
「ひっ」
魔物達は俺を守る様に、そしてククミスに警告する様に牙を、刃を、炎を向けながら間に立つ。
「……ありがとうなお前達。でも攻撃するのはやめてくれ。この子も俺と同じように生贄にされた……らしいんだ」
「ミー?」
らしい、と付けてしまうのは自分が本当にいけにえにされたのかまだ確信が持てないからだ。
一人でいた時はもしかしてこうなんじゃ!? とどんどん嫌な考えに引きずられていったけど、こうして誰かと話をする事でやっぱり信じたくないという気持ちも強くなる。
何かの間違いだったんじゃないかと。少なくともこれまでの優しい日々が生贄にする為の演技だったとは到底思えなかったから。
「俺はどっちを信じれば良いんだろうな……」
「でしたら確かめに行けばよいと思います」
「確かめに?」
「はい、フォルス様は魔物を従えられる方です。先ほどわたくしが助けられた時の様にその狼の魔物の背に乗ればご実家までたどり着けるのではありませんか?」
「でも俺は実家の位置が何処にあるか分かんないんだよ。ずっと家から出して貰えなかったから」
「ワウッ!」
とそこでゲイルが自分に任せろと言いたげに吼える。
「その魔物は狼型の魔物ですから、匂いを追跡できるのではありませんか?」
「そうなのかゲイル?」
「ワウ!」
どうやらそうらしい。特に特技がない奴かと思っていたが、目立たないだけで結構有能だなコイツ。
「……そうだな。確認もせずにウジウジしてても意味がないか」
復讐するにせよまずは戦力を整えてからと思ってたけど、こんな状況じゃ確かめないでいる方が気分が悪い。
ゲイルに乗って実家に帰って、物陰から家族がどんな様子か見るだけでも俺をどう思っていたか分かるだろう。
「じゃあゲイル、頼むよ」
「ワウ!」
ゲイルに促されその背に乗ると、急にダンテが俺の懐にスポッと収まって来た。
「ミー!」
「お前も来るのか!?」
「ミッ!」
ダンテが当然と頷く。
まぁコイツなら軽いし連れて行ってもゲイルの負担にはならないか。
「じゃあ暫くするにするけどここは頼むよ」
「ジャキ!」
「ノココ!」
「ジュジュ!」
「ボウ!」
魔物達が任せろと拳を天に掲げる。
「あ、あとククミスの事も守ってやってくれよな」
「……ジャキ」
「ノココ~」
「ジュ」
「……ゥ」
「わたくしの事嫌い好きじゃありませんか皆さん!?」
いやホントに頼むよ皆。
どうやら猛烈な勢いで復讐に誘ってきた態度が俺を攻撃しているように見えたんだろう。
帰って来たら一人足りないなんてのは止めてくれよマジで?
「じゃあ行くぞ!」
「ミー!」
「ワウ!」
こうして、俺は強い不安を胸に実家へと向かうのだった。
「復讐の準備しておきますわねー!」
何だよ復讐の準備って。
なんか残念なお姫様だなぁ。
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