第7話 ヒロインは生えません
「皆おはよう!」
「ミー!」
「ガウ!」
「ギィン!」
魔物達が元気よく挨拶を返す。
今日の朝食は朝から豪勢に肉料理だ!
肉! 美味い! 嬉しい!
そして肉を食い終わるとダンテがこれも食えと頭の果物を押し付けてくる。
ああうん、食べるから。
肉で脂っこくなった口の中を少し酸味のある果物が洗い流してくれる。
「そろそろ水を確保したいなぁ。水分が雨水かダンテの果物だけなのは流石に不味い」
寧ろ良くそれだけで保ってるな俺。人間って水分が一番重要なんじゃなかったっけ?
一昨日雨が降ったのはホント助かったわ。
「よし、今日は水を探しに行くぞ!」
「ミッ!」
「ギュイン!」
「水を探す組と拠点の防衛を強化する組に分けるぞ」
ダンテ、ゲイル、ムラサメが探索組、ホウシ、フィトン、カグツチが拠点改造組になった。
どうもカグツチはあまり出歩くのが好きじゃないっぽい。
朝からずっと石の家に籠ったままだ。
「じゃあ行ってくるなー!」
「ノココ!」
「ジュジュ!」
「ボォッ」
ダンテ達を引き連れ、俺達は水を探して歩き出す。
「こういう時、ダンテが居ると帰り道の心配が無くていいな」
「ミッ!」
聖域の事はまだまだ分からない事ばかりだけど、ダンテが居れば帰巣本能で確実に拠点に帰れるのがありがたい。
「キャァァァァァァッ!!」
突然、絹を引き裂くかのような悲鳴が響き渡る。
「何だ!? 悲鳴!?」
って言うか悲鳴!? 人がいるのか!?
「どっちだ!?」
「ワウッ!」
声の聞こえてきた方角を探る為に耳を澄まそうとすると、ゲイルがこっちだと声を上げる。
「分かるのかゲイル!?」
「ワウ!」
意外にもゲイルは耳も良いみたいだ。
俺達はゲイルに先導されて走る。
「ゴォン!」
「キャァァァ!」
また聞こえた!
「ゲイル! 先に行って声の主を守ってくれ!」
「ワウ!」
ゲイルが俺達を置いて一気に駆ける。
そしてその姿が見えなくなった頃にゲイルの雄叫びが聞こえて来た。
同時に戦いの音が響いてくる。
「居た!」
遅れる事十数秒、魔物と戦っているゲイルの姿を確認する。
「なんだありゃ?」
ゲイルと戦っていたのは、全身が岩で出来た巨大ロボットみたいな魔物だった。
「もしかしてゴーレムって奴か?」
しかしデカいなアイツ。二階建ての家くらいあるぞ。
そしてゲイルの後ろに女の子の姿がある事を確認する。
「あの子か! って、ドレス!?」
ただ、奇妙な事に女の子の格好はドレス姿だった。
まるでこれからパーティにでも出かけるみたいな装いだ。
とても聖域に一人でいるような格好じゃない。
「よくわかんないけど、薬草取りに来たって格好じゃないよな。ダンテ、ムラサメ、ゲイルの援護を!」
「ミッ!」
「ジャキ!」
ダンテとムラサメがゴーレムの背後から襲い掛かる。
その隙に俺はあの子を戦場から引き離さないと。
「君、大丈夫か!?」
「え? っ!?」
俺が声をかけると少女は驚いたようにこちらを見る。そして俺を見た瞬間、更に驚きで目を見開いた。
「速くこっちに!」
「え、あの……」
「急いで、アイツ等が時間を稼いでくれている間に」
「え? 魔物が時間を?」
物陰に少女を隠れさせると戦況を確認する。
「あんまりよくないな」
ゴーレムが硬いのか、ゲイルの爪とムラサメの刃の効果が薄いみたいだ。
「ミーッ!」
ダンテの突撃もゴーレムが巨体なためにこちらも効果が薄い。
「ゴォォッ!!」
ドゴォン!
そのくせゴーレムの攻撃はかなりのもので、周囲の岩だろうが木だろうがお構いなしに破壊してゆく。
「拠点の皆も連れて来るべきだったか?」
いや、ホウシは胞子を使ったデバフだから生き物に見えないゴーレムには通じ無さそうだ。同様にフィトンの木の根の串刺し攻撃も効果が薄いか?
「カグツチの火炎放射ならいけるか?」
どのみちここにはいないから無い物ねだりか。だとしたら、
「皆、こっちは大丈夫だ! 撤退するぞ!」
「ミッ!」
「ガウ!」
「ジャキ!」
どうせ食えそうにない相手なんだ。無理に相手をせずに逃げる!
あの巨体なら足も速くないだろ!
「逃げるよ!」
「は、はい!」
俺は女の子の手を取るとゴーレムに背を向けて逃げ出す。
「キャッ!」
だが女の子はドレス姿の所為で早く走れないみたいだ。
「しゃーない! ちょっと止まって!」
「え? きゃあっ!」
俺は女の子を強引に背負うと走り出す。
こっちの方が速い! と思ったんだが……
「うぐっ」
人間一人を背負って走るのは思った以上に大変で、対して速度が上がらなかった。
というより遅くなってないか!?
「あ、あの、ゴーレムが!」
うわわ、ヤバい!
「ワウッ!」
と、そこにゲイルが割って入り。強引に女の子を自分の背に乗せる。
「お前、人を乗せれたのか!?」
「ワウ!」
マジか! 知ってたらもっと移動が楽になったのに!
「ともあれこれで逃げられる!」
◆
「ゼェゼェ……なんとか撒いたみたいだな」
俺達はゴーレムを撒くと、物陰に隠れて息を整えていた。
正直こんなに走ったのは転生して初めてじゃないかな?
「はぁ~はぁ~」
「あの……」
と、女の子が遠慮がちに話しかけてくる。
「ん、ああ、怪我は無い?」
「は、はい。お陰様で」
そりゃあ良かった。危ない目にあった甲斐があるよ。
「ワウ!」
「ああ、助かったよゲイル。今日は大活躍だったな」
正直ゲイルが居なかったらこの子を守り切れなかったし逃げきれなかっただろう。
俺はねぎらいの意味を兼ねてゲイルをワシャワシャしてやる。
「クゥーンクゥーン」
「魔物を従え……やはりこの方は……」
といけない。この子の事を忘れる所だった。
だが俺が話ける前に女の子はピシリと背筋を正すとスカートのすそを持ち上げて優雅にお辞儀をしてきた。
確かカーテシーって奴だっけ?
「助けて頂き、本当にありがとうございました。銀糸の君」
「ぎん?」
え? 何それ?
「ええと、そのぎんの何とかって何?」
「銀糸の君。銀の御髪が輝きし貴方様のことです」
ぎんのおぐし? ええと髪の毛が銀色って事?
この子は何を言ってるんだ?
「いや、俺の髪は黒だけど?」
俺の髪色は生まれてこのかた黒色で、色が不気味に変化したようなことはない。
毛量は変わるけどね。
「? ですが……」
と女の子は懐からアクセサリを取りだしてパカッと開く。
ああ、折り畳み式の鏡ね。
だがそこに映っていたのは女の子が言うような銀色の髪の毛ではなく、見慣れた銀色の髪の毛だった。
「……ん?」
今何かおかしなこと言ったような。俺の髪の毛の色は……うん、銀色だな!
「あれ?」
何故か、鏡に映る俺の髪の毛の色が銀色になってる。
「って、マジで銀色になってるー!?」
一体どうなってんだぁぁぁーーーーーっ!?




