第16話 闇夜の襲撃
夜、突然バキバキという轟音と共に部屋に振動が走った。
「何だ!? 地震か!?」
慌てて布団から飛び起きると、俺達は家の外へと飛び出す。
幸いなことに揺れはすぐに収まったが、ファンタジー世界の地震がどのレベルか分からんがプロが建てた訳じゃないこの家がどれだけ保つか分からんから外に避難だ!
「うわっ、なんだこりゃ!? 地面がグチャグチャだ!」
外に出ると驚いたことに地面が水浸しになっていた。
更に家を囲む壁も根こそぎ倒れている。
「これは……どこかで洪水でも起きたのか?」
確か山の中の川は上流で大雨が降ったりすると下流では晴れていても突然鉄砲水が襲ってくることがあると何かの番組で見た覚えがある。
それと同じ事がここでも起きたのか?
「だとしたら魔物除けの壁が家を守って……」
「ミーッ!!」
その時だった。突然ダンテが俺に体当たりしてきたんだ。
「うわっ、何するんだ!?」
地面がぬかるんでいた事で痛みは殆ど無かったけど、お陰で泥まみれだ。
「……ミッ」
「ダンテ?」
何だ? ダンテの様子がおかしい。
「ボウッ!」
「ジャラ!」
カグツチとルピが近くの木に火を放ち周囲が照らされる。
「シュルル……」
そこに浮かび上がったのは巨大な蛇の姿。
「蛇の魔物!」
まさか俺達を追って来たのか!?
「シャアア!」
蛇の魔物はやる気に満ちた唸り声を上げる。
っていうかホウシのデバフ胞子トラップはどうしたんだ?
近づいてくる魔物がアレを踏んでパニックになるから侵入者が来た事が分かる筈なのに……
「っ! さっきの振動はアイツの鉄砲水か!」
昼の戦いで蛇の魔物はホウシから受けたデバフ胞子を鉄砲水で洗い流していた。
「あれと同じことをしてトラップを破壊したのか!」
ヤバイな、罠を理解して破壊するとかコイツ頭が良いぞ!
「シャアア!」
「っ!?」
「ガド!」
蛇の魔物が身をくねらせて尻尾を振り回してくる。
それをフェンの盾が受け流す。
「ガドッ!?」
だが足場がぬかるんでいた為に受け流しきれず吹き飛ばされてしまうフェン。
「足場を濡らしたのはこっちの踏ん張りを聞かなくする為でもあるのか!?」
ヤバイ、罠を仕掛けて万全の防衛態勢を整えていたと思ったのに、悉く潰されてる。
それどころか自分に都合がよくなるよう周囲の環境を作り変えられてる!
「シンプルに強いだけじゃなくデバフ解除に有利地形構築って鬼畜ボス過ぎんだろ」」
「ツンツンッ!!」
アラシが針を飛ばして蛇の魔物の目を狙う。
「シャッ!」
しかしそれを読んでいた蛇の魔物は体を転がして回避するとアラシに水を放って吹き飛ばす。
「フォルス様、こちらに避難を!」
家の入口から状況を見ていたククミスが家の中に避難を促す。
「ククミスはゲイルに乗ってここから逃げろ! ゲイル頼む!」
「ワウ!」
「キャッ!」
ゲイルはすぐさまククミスを自分の背中に乗せるとこの場から逃げだす。
「ボスキャラ相手にこの家じゃ流石にな」
あっさり破壊されて瓦礫の中に埋もれるイメージしか湧かない。
「皆! 逃げるぞ!」
俺は即座に撤退を宣言する。
ホウシのトラップが破壊された以上ここに留まる理由がない。
「行くぞダンテ! ……ダンテ?」
だが何故かダンテは返事をせずぐったりしている。
「ダンテ!?」
そして気付いてしまった。ダンテの背中がごっそり削れていたことに。
「お前まさか、俺を庇ったのか!」
さっきの体当たりは蛇の魔物の不意打ちから俺を庇う為だったのか!?
「っ!」
俺はダンテを抱えると走り出す。
不幸中の幸いなのはコイツが軽い綿毛の魔物だった事か。
「シャアア!」
だが蛇の魔物は俺達を逃さんと一瞬で迫る。
「っ!」
「ジュジュ!」
だがそこにフィトンの木の根が壁の様に現れて遮る。
「シャアア!」
しかし蛇の魔物は減速する事無く突っ込んでくる。
ミシミシと木の根がきしみひび割れる音が聞こえる。
「ゴロゴロ!」
その時だった。突然木の根が緑色に輝くときしみ音が止まる。
「これは……ラルなのか!?」」
緑の光の正体はエメラルドの魔物ラルだった。
こいつこんな力があったのか!
能力は植物系の攻撃のバフか?
「シャアア!」
それに対して蛇の魔物は鉄砲水を呼んで全てを洗い流そうとする。
「ゴロゴロ!」
だが再び緑の光を帯びると木の根は強固な壁となって鉄砲水を遮る。
「よし、行けるぞ!」
「シャアアッ!」
しかし蛇の魔物がグルリと体を勢いよく回し、遠心力の掛かった尻尾の一撃で木の根を粉砕する。
「くそ、駄目か!」
「ノココ!」
ホウシがデバフ胞子を飛ばすがやはり鉄砲水で洗い流される。
「ノココ~」
「ボウッ!」
ならばとカグツチが炎を放つがやはり効果が薄い。
「ジャラ!」
しかしそこにルピが声を上げると炎に赤いオーラが宿って蛇の魔物の体を燃やす。
「ジャアアッ!」
「もしかして宝石の魔物の能力は魔法のバフか! って事はイスタ!」
イスタはゆっくりと頷くと黄金のオーラを放つ。
「ジェル!!」
黄金のオーラが炎に宿り更に火が燃え上がる。
「シャアアアアア!」
蛇の魔物が雄たけびを上げて転げまわると鉄砲水を呼んで火を消化する。
「くそ、これでも駄目か……」
「シャアアッ!」
絶望に膝を折りそうになったその時、蛇の魔物は大きく身を翻すとあっという間に去っていった。
「逃げた……のか?」
どうやらイスタとルピのバフがかなり効いたようだった。
「……はぁっ、助かったぁ」
圧倒的絶望から何とか解放された事で、全身の力が抜ける。
「ジャキィ……」
「ノココ……」
魔物達も相当疲れたようで、皆その場にへたり込む。
「これで蛇の魔物も諦めて……いや流石にそれは楽観的過ぎるか」
きっと蛇の魔物はまた攻めてくる。
泉から遠く離れたこんなところまで追いかけてきたんだ。
そう簡単に諦めるとは思えない。
「なら、対策を練らないとな……!」
次の襲撃までどれだけ時間がある? 今回の戦いの傷を癒してからくるのか、それともまた夜に攻めてくるのか。
どちらにせよ対策を急ぐ必要がありそうだ。
だがそれよりも気がかりな事があった。
「ミ……」
「ダンテ……」
それは蛇の魔物から俺を守ったダンテの命が、今まさに燃え尽きようとしていた事だ。




