第15話 水争奪作戦
「よし、行くぞ皆」
泉に陣取る巨大な蛇の魔物を高台から監視しつつ、俺は赤い旗を上げて号令をかける。
「ボウッ!」
最初に攻撃を行ったのは遠距離攻撃手段を持つカグツチだ。
ボンと音が鳴って蛇の魔物に命中する。
が、その大きさの前にはダメージが通ったのか怪しい。
「……シャー」
蛇の魔物は目を開くと、カグツチを睨みつける。
すぐさまカグツチは反転して近くに見える森目掛けて逃げ出すが、蛇の魔物は予想以上の速さでカグツチを追いかける。
「ボッ! ボッ!」
逃げながらもカグツチは後ろを向いて火を二度三度放つが、蛇の魔物は火弾を恐れる事なく突撃してくる。
「シャア!」
「ジャキ!!」
蛇の魔物がカグツチを飲み込もうとしたその時、ムラサメが横から切りかかった。
「っ!?」
これには予想外だったのか、蛇の魔物の体が無防備に切り裂かれる。
「ジャアッ!!」
怒り狂う蛇の魔物がムラサメに狙いを変える。だが距離を取ったカグツチが蛇の魔物の顔面に火を放って注意を逸らす。
「ジャアアッ!!」
蛇の魔物がカグツチに狙いを戻した瞬間、ムラサメが再度切りかかる。
しかしそれを察していた蛇の魔物の尻尾がムラサメを側面から襲い掛かる。
「ジャキッ!?」
慌てて飛び退いて回避するムラサメ。その真上をなぎ倒された木々が吹き飛んで行く。
「何てパワーだ!」
あの巨体の動きを封じるために森に誘導したのに、全然障害物になってない!
「それどころか相手に武器を与えたようなもんじゃないか!}
蛇の魔物の力を見誤っていたって事か。
「ジャアッ」
しかし妨害した甲斐はあったようで蛇の魔物はカグツチを見失う。
ならばとムラサメを探すが、すでにムラサメも木々の中に姿を消していた。
「とりあえず目くらましにはなってるか」
森の中を選んだのは巨体の動きを阻害する以外にも隠れやすい場所を選ぶ意味も大きかった。だが……
「シャアアッ!」
蛇の魔物は何故か隠れている筈のムラサメ目掛けて襲い掛かる。
「ジャキッ!?」
慌てて回避するムラサメ。
「何で隠れてる場所が……ってそうだ、ピット器官か!」
確か蛇は目が悪い代わりにピット器官っていう熱を感知する器官が優れてるんだった!
「クッソ忘れてた! デカいのに蛇のメリットもそのままなのかよ!」
蛇だからって毒の事ばかり警戒して大事な能力の事を忘れてた!
「ミミッ!」
ダンテが何やってるんだと俺に文句を言ってくる。
「マンガじゃないんだから都合よく必要な知識を思い出せないんだよ!」
漫画や映画の主人公は脳みその引き出し優秀過ぎだろ!
「なんて馬鹿な事言ってる場合じゃない。頼む皆! イレギュラーが発生した時の対策も考えてはいるんだから!」
「ガド!」
再度襲われるムラサメをフェンの盾が庇う。
その動きは真正面から受け止めるのではなく、斜めに相手の攻撃を逸らす見事な受け流しだ。
「でかしたフェン!」
「ジュジュッ!!」
更に地面から伸びた木の根が蛇の魔物の腹を貫く。
フィトンの木の根攻撃だ。
「ジャアァッ!!」
痛みに悶える蛇の魔物。
だがその巨体が転げ回った所為でフィトンの根がへし折られてしまう。
「ジュジューッ!」
「シャアアアッ!!」
激痛に激怒する蛇の魔物がフィトン目掛けて襲い掛かる。
だが突然蛇の魔物の顔面に胞子が吹きつけられた。
「シャアッ!?」
「ノココ!」
ホウシのデバフ胞子トラップだ。
「シャッ、シャアアッ!?」
幸いにも蛇の魔物にデバフ効果が乗ったらしく、困惑の声でフラついている。
「よっしゃ! 現実の世界ならゲームみたいにボスにはデバフ無効とかならないぞ!」
正直ボス魔物には効かないんじゃないかとちょっぴり不安だったんだが、杞憂で済んでよかった。
「よし皆、一斉攻撃だ!」
俺は青い旗を上げて一斉攻撃を支持する。
ちなみに旗はモメン達が作ってくれたもので、俺は戦況を見ながらこの旗で皆に指示を出していた。
「パレパレ!」
「シュルシュル!」
モメンとスレッドが布と糸で周囲の木々に蛇の魔物の体を巻きつける。
「ツンツンッ!!」
アラシが太い針を飛ばして蛇の魔物を攻撃する。
「シャアッ!」
痛みに悶えて蛇の魔物が身を震わせるが、固定された体は満足に動かせない。
「よし、行けるぞ!」
が、事はそう上手くはいかなかった。
「ジャアァァァァァッ!!」
蛇の魔物がひときわ大きな叫びをあげると、どこからか鉄砲水が流れ込んできて全てを洗い流してしまった。
「何だありゃ!?」
魔物達は今の攻撃で吹き飛ばされ、更に布と糸の拘束も流されて解除されてしまった。
「シャアアッ!」
更に水でホウシのデバフ胞子も洗い流したのか、蛇の魔物はフラつきが無くなっていた。
「デバフ解除の特殊攻撃かよ! しかもノックバック効果付きとかゲームのボスよりエゲつねぇ!」
これがゲームならクソボス呼ばわりされるぞ!」
「シャアァァァァ……!」
怒りを込めて蛇の魔物が鎌首をもたげる。
ヤバいな、このままだと全滅しかねない。
「ワウッ!」
と、そこにゲイルが声を上げる。
「終わったのか!」
泉に視線を戻すとそこから離れてゆくチップとビーンの姿が見える。
二匹は背中に大きな革袋を背負っており、それを重そうに運んでいた。
「よし、皆撤収! 作戦成功だ!」
俺が白い旗を上げると、魔物達が一斉に散る。
「ジャアッ!?」
蛇の魔物は一瞬誰を追うか迷ったが、自分に傷をつけた相手が許せなかったのだろう。
ムラサメに狙いを定めてその背中に襲い掛かる。
「ボッ!」
そこに放たれるカグツチの火。
だがカグツチは既に結構な距離離れていた為、全くダメージにはなっていない。
しかそそれでもムラサメが逃げるだけの時間稼ぎは出来た。
「シャア!」
蛇の魔物はピット器官を使って逃げるカグツチを追う。
しかしこの状況も想定内だ。
ボフン!
ホウシのデバフ胞子が再び炸裂する。
このトラップは逃走の際に誰かが狙われる事を想定して置いておいた逃亡補助用のトラップだ。
しかもトラップは複数設置してある。
「シャアアッ!!」
怒った蛇の魔物がトラップを纏めて洗い流そうと手当たり次第に鉄砲水を放つが、その間にムラサメは安全な距離まで逃げおおせていた。
「よし、俺達も逃げるぞ!」
「ミッ!」
「ワウ!」
「水泥棒作戦大成功だ!!」
そう、今回の作戦の真の目的は蛇の魔物を倒す事ではなく、泉の水を盗む事だったのだ。
作戦を練っていた俺達は、あの巨大な蛇の魔物が予想以上に強い事を考慮して作戦を変更することにした。
勝てるならそれでよし、だが敵の強さが予想以上に高かった場合は囮戦法でおびき寄せて水を盗もうと決めた訳だ。
その結果、蛇の魔物の予想以上に強さに危ない所だったが目的の水は確保できた。
「これで暫くは保つから、別の安全な場所に水源が無いか探す時間が稼げたな」
流石に二度同じ方法が通じるとは思えないから、また水泥棒をするのは御免だけどな。
こうして俺達は意気揚々と目的を達成して帰路に着いたのだが……
「シュルルル……!」
蛇という生き物が異世界においても執念深いという事を、この後俺は身を以って知ることになる。




