第一話 果実を喰らう
新連載始まります。
初日は朝7時と昼12時の2回更新となります。
本日発売の二度転生13巻もよろしくお願いいたします。
「あっ、終わった」
最初にそう思ったのは死んで生まれ変わったと気付いた直後だった。
「旦那様、フォルス様は……魔力無しです」
「何だと!?」
現代っ子的に言葉の意味は何となく予想できた。多分魔法的な何かだろう。
となると次の展開は当然、
「魔力を持たない落ちこぼれだ!」
「我が子とは認めん! 追放だ! 捨ててしまえ!」
大体こうなるのではないかとガクブルしていた俺だったんだが、意外にもそうはならなかった。
「そうか! 魔力無しか! 良かった!」
「あなた、魔力の無い子供ですって!」
なんか喜ばれた。
どうやら魔力が無くても捨てられたり虐げられたりはしないらしい。
それからの生活はそこまで悪くないものだった。
この世界は生活の細かい所に魔力が必要な世界だったが、大抵の事は使用人がやってくれるので俺は魔法を使う必要はなかったからだ。
そう、我が家には使用人がいるのだ!
どの程度か分からないがとりあえず貴族と呼ばれる権力者の家っぽい。
ぽいというのは比較対象が分からないからだ。
「屋敷の外は魔法の使えない若様には危険ですので」
と言われて家の外から出ないようにと言い含められていた。
不幸中の幸いだったのは屋敷の庭がそこそこ広いおかげで体を動かせたし、ゲームやマンガはないもの本もそれなりの量があったから退屈凌ぎははなったからだ。
とはいえ不満が無いわけじゃない。
トイレとか汲み取り式だし、冷蔵庫や電気ケトルもないから飲みたいときに飲みたいものも飲めない。
使用人に頼めば用意して貰えるけど、いちいち一杯の飲み物で人を呼ぶのもさ。
それに灯りも自分で用意できないのが面倒だ。
魔法はあるがどちらかというと戦う為の力で、生活を便利にするための手段として使おうと考えれるほどの余裕はないっぽかった。
うーむ、電気のあった前世は凄く便利だったんだなぁ。
では次に終わったとそう思ったのはいつだ?
今だ。
「ガォォォォォッ!!」
俺は馬ほどもある大きさの狼に追いかけられてた。
「簡単な儀式だって言ってたのにーーーー!」
何でこんなことになっているかというと、それは俺がある儀式に参加することになったからだ。
「この世界には魔物という恐ろしい存在が居て人間を襲います」
「魔物?」
ゲームや漫画に出てくるアレかと思い俺の心は沸き立った。
まぁすぐに魔力が無い俺じゃあっさり殺されるかとガッカリしたが。
「勿論騎士団が人々を守りますが、魔物は数も多く強力な個体もいます。そんな魔物を弱体化させる為、若様には聖域の祭壇で儀式を行って貰います。この儀式は魔力を持たない者にしかできない大事な儀式なのですよ」
「儀式!?」
「近頃は魔物が活発化してきております。若様には近く儀式を行ってもらう事になるでしょう」
そう言われた時は魔力を持たない俺が儀式何てまさか生贄にされるんじゃと焦ったが、ちゃんと儀式の作法があった事と、子供一人を生贄にしたからって全ての魔物の腹が膨れる筈もないと気づいて安心していたんだが……
「儀式の祭壇に着くまでに魔物に襲われる危険があるなら教えてくれよー!」
聖域という名に騙されたぞ畜生!
さっきまでは護衛の騎士団が居たけど、聖域には選ばれた者しか入れないからって連れてくることが出来なかった。
しかも魔物は背後から襲ってきたもんだから、助けを求める為に戻る事も出来ない!
「こいつ、騎士団の所に戻れない為にわざと後ろに回り込んだのか!?」
しかもコイツ、俺をいたぶってるのかわざと逃げる余裕を残している。
「明らかに玩具にしてやがる!」
「ガァァッ」
魔物の爪が体をかする。
このままだと出血多量で死んじまうぞ!
けれどその前に終わりの時は来た。
「うわっ!」
荒れた地面に足を取られ転んでしまう。
「グルルルッ」
そして魔物の方も遊ぶのに飽きたのか、俺の上に覆いかぶさってくる。
「畜生……」
儀式も出来ずこんな所で終わるのかよ。
折角ファンタジーな世界に生まれて誰でも当たり前に使える魔法が使えないと分かって凄くがっかりした。
だからこそ、自分にしか出来ない大事な役割があるって言われて期待してたのに……
「何もせずに終われるかよ……」
「ガァァァ」
魔物が口を開けると血なまぐさい息が漂ってくる。
そして大きく開いた口が俺の頭をかみ砕こうと近づいてくる。
その時だった。
ザァァァァッ
不意に、強い風が吹いた。
「ガロッ!?」
すると突然魔物の様子がおかしくなる。
「……ゥゥゥゥゥ」
そして俺から離れると、そのままどこかに去って行ってしまった。
「何が……?」
よくわからないけれど、助かったのか?
「とにかくここから離れて儀式の祭壇に向かわないと……」
けれど、俺は起き上がれなかった。
「あ、あれ?」
まさか血を流し過ぎたのか?。
「やばい……」
このままだと出血多量で死んじまう。
それとも死んで魔物の餌になるのが先か?
どっちも最悪だと苦笑するも、乾いた息が漏れるだけだった。
ああ、もう本気で駄目だこりゃ。目も霞んできた。
キラッ
その時だった。おぼろげな視界に何か光るものが見えた。
「?」
最後の力で顔を上げると、ポツンと一本だけ立っていた木に何かが光っている。
そして光は地面に落ちるとコロコロと転がって俺の手に当たる。
「これは、果物? しかも銀色?」
それは、銀色に輝く果実だった。
「何だ、コレ?」
銀色の果実なんて見たことも聞いた事もない。いくらファンタジーとはいえ、デタラメ過ぎじゃないか?
「ゴクリ」
なのに自然と喉が鳴る。
どう見ても怪しい果物だけど、ずっと飲まず食わずで逃げ回ってきた俺には極上の御馳走に見える。
「どうせ死ぬなら、最後の晩餐くらいしてもいいよな……」
完全に力を使い切ったと思っていた俺だったが、食欲のなせる業か腕は震えながら果物を口元に運ぶ。
「っ~~カシュッ」
必死で銀色の果物をかみ砕くと、口の中に待ち望んだ水分があふれ出す。
「~っ!!」
美味い、美味すぎる。あまりの美味さに感動すらしていた。
それは空腹というスパイス故だろう。
だがそれ以上に終わりかけた体に生きるための活力が駆け巡る喜びが勝る。
たった一個の果実が、これほど命を支えてくれるとは思ってもいなかった。
「っはぁ」
気が付けば俺はあっという間に果実を食べ終えていた。
もっと食べたいという気持ちが沸き上がる。
あの木にもう一個実ってないだろうか。
「ってあれ?」
そう思って木を見上げた俺だったが、そこには果実どころか、そもそも木自体が無かった。
あったのは朽ちて幹の半ばから折れた大木の残骸のみ。
「この木が? いやそんな筈ないか」
流石に折れた木が果実を実らせたとは思えない。
「鳥が落としたのか?」
恐らく果物を咥えた鳥がうっかり落としたんだろう。
SNSでもよく見るネタだったからな。それがこの木から落ちて来たように錯覚したのか。
もう食べれないと思うと未練が沸き上がる。
手の中には可食部を食い尽くして種しか残っていない芯。
うーん、よくこれだけ綺麗に食べ尽くしたもんだ。
「これ、植えたら木が生えてこないかな?」
まぁ芽が出たとしても実がなるまでは数年はかかるだろう。
「でもお陰で命拾いした訳だしな。大きな木に育てよ」
この果物に命を救われた事を感謝しながら、俺は種を埋める。
「……っ」
腹が膨れて緊張の糸が切れたのか眠気が一気に襲ってきた。
「ここで寝たら魔物に襲われるかも……まぁ今更か」
どのみち逃げる場所もないんだ。寧ろ寝ている間に喰われたら苦しまずに死ねてラッキーと思おう。
「んじゃ、おやすみ」
種を植えて盛り上がった土を撫でながら、俺は眠りについた。
◆
「ふぁ~っ」
翌朝、俺は幽霊になる事もなく目を覚ました。
幸いにも寝ている間に魔物に襲われる事は無かったらしい。もしかしたら不幸かもしれないが。
「さて、どうするかな」
食べ物はもうない。こんな事なら食い残しの芯を取っておけばよかったか?
なんてあさましい事を思いつつ、自然と視線が種を埋めた場所に向かう。
「流石に今更掘り出して食べるのは……ってアレ?」
そこには予想外の光景が広がっていた。
「木が生えてる」
なんと、種を植えた場所に小さな木が生えてたのだ。
芽どころじゃない。木だ。実際には苗という程度の大きさだがそれでもやはり生えている。
「寝る前はこんな若い木なんてなかったよな」
しかも生えているのは苗だけじゃなかった。
「実だ」
苗には銀色の果実が実っていた。小さいが間違いなく昨日食べた銀色の果実だ。
「もしかしてゲームのログボみたいに毎日実るのか!? マジで?」
流石に都合が良すぎだろうと思いつつ。 半ば無意識に果実に手を伸ばしたその時だった。
ブルン。
果実が震えた。
「って動いた!?」
いや違う、動いてるのは実じゃない。その下の地面だ。
「な、何が……」
驚いている間にも地面は波打ちボコボコと土が盛り上がる。
「下に何かいるのか!?」
「ミーッ!!」
土を吹き飛ばして、ソイツは現れた。
「ミーッ!」
それはフワフワのたんぽぽの綿毛を大きくしたような姿の生き物だった。
「な、何だコイツ!?」
これが、俺と不思議な魔物達との初めての出会いだった。




