第4話 国宝級の魔道具師としてスカウト(求婚)されました
氷晶帝国の中心にそびえ立つ皇宮は、ソフィアが想像していたよりもずっと静かで、そして恐ろしいほどに美しかった。
雪と氷をそのまま削り出して作ったかのような、鋭く洗練された白い城。
案内される廊下の床は、透き通るような最高級の氷晶石で敷き詰められており、歩くたびにコツ、コツ、と澄んだ靴音が響く。壁や柱には豪奢な彫刻が施されているが、成金趣味のような無駄な派手さは一切ない。徹底的に計算され尽くした、荘厳な機能美だ。
(……ここ、前世の記憶で言うと、超一流グローバル企業の本社ビルね。エントランスだけでプレッシャーで胃が痛くなるやつだわ)
ソフィアは内心でそんな場違いなことを考えつつ、前を歩く案内役の侍女の背中を見つめていた。
侍女の所作は完璧で礼儀正しいが、その肩はどこか強張っている。
無理もない。冷酷無慈悲で知られる氷帝が、私的な呼び出しで、平民のような身なりの小さな雑貨屋の店主を皇宮に招き入れたのだ。それだけで、帝国中を揺るがす異常事態なのである。
「こちらです、ソフィア様」
恭しく扉が開かれる。
通されたのは、重厚な執務室というよりは、氷とガラスでできた温室のような美しい部屋だった。
窓辺には雪のように白い花が咲き乱れ、壁炉の火は控えめに、だが確かな暖かさを持って揺れている。冷たさの中に、きちんとした命の温度がある空間だった。
その部屋の奥、山積みになった決裁書類のデスクの前に立っていたのは、アレクシオスだった。
窓からの光を弾く月光のような銀髪。そして、射抜くような蒼い瞳が、まっすぐにソフィアを捉える。
「来たか」
ソフィアは息を整え、完璧なカーテシー(礼)の姿勢をとった。
「お呼びいただき、恐れ入ります。皇帝陛下」
「座れ。形式張る必要はない」
彼が顎でしゃくると、デスクの前のふかふかの椅子が侍従によって引かれる。
ソフィアが恐る恐る腰掛けた瞬間、スッ、と目の前に一枚の分厚い書面が置かれた。
羊皮紙などという安物ではない。帝国の中枢でのみ使用される、特殊な魔力加工が施された正式な契約書だ。
最上部には皇室の紋章印が輝き、魔力署名欄、保証項目、罰則条項、効力期間などが、恐ろしいほど緻密に書き込まれている。
(……本気だわ。法務部が徹夜で作ったような、ガチガチの重役契約書じゃない)
ソフィアがごくりと息を呑むと、アレクシオスは立ったまま淡々と告げた。
「契約の形は、二つ用意した。“専属魔道具師”として帝国に雇用する案と――“皇后”として俺の隣に迎える案だ」
ソフィアの頭が、物理的に軽く跳ねた。
(ちょっと待って!? 後者、しれっと混ぜるような内容じゃないですよね!?)
「……陛下」
ソフィアは、社畜時代に培ったポーカーフェイスを全力で稼働させ、必死に平常心を装った。ここで動揺してペースを握られてはいけない。
「大変光栄なご提案ですが……まず、なぜこれほどまでに私が必要とされているのか、論理的な説明をお願いします。条件交渉は、それからです」
相手が皇帝であろうと、契約の根幹となる『業務内容の明確化』は譲れない。
その堂々とした態度に、アレクシオスの視線が、一瞬だけ柔らかく解けた気がした。
「当然だ。順を追って話そう」
彼はそう言うと、自らの分厚い外套を外し、シャツの胸元を大きくはだけさせた。
そこに露わになったのは、昨日ソフィアが見た、心臓の真上に打ち込まれた古い制御具だった。
氷晶石と魔鉄を複合させた、重々しい枷。
しかし、全体は痛々しくひび割れ、刻まれた魔力式はショートして焦げ、修復に修復を重ねた痕が幾重にも重なっている。
「これは、帝国の最上位に位置する宮廷魔道具師たちが、総力を結集して作ったものだ。だが、俺の魔力には……耐えきれない」
ソフィアは無意識に、職人の顔になってその装置の細部を観察した。
魔力導線の太さ、刻印の深さ、循環路の配置。
確かに、技術自体は国宝級に高い。使われている素材も一級品だ。けれど――設計の“根本”が間違っている。
「陛下の強大すぎる魔力は……ただ暴走を抑え込むべき“量”の問題ではないんですね。魔力の『流れ方』そのものが、普通の人間とは異質なんだわ」
ソフィアの呟きに、部屋の隅に控えていた侍従が「なぜそれを……!?」と驚愕に目を見開いた。
アレクシオスは静かに頷く。
「生まれつきだ。俺の魔力は、ただ氷を生み出すだけではない。触れた空間の“温度”と“動き”を強制的に奪う性質を持っている」
「凍らせる、のではなく……奪う」
ソフィアは小さく復唱し、完全に理解した。
凍結というのは、あくまで結果に過ぎない。彼の魔力の本質は、エネルギーと循環の『停止』なのだ。
だから、普通の魔道具師が作る抑制具は、彼の魔力を“削り取って押さえつける”方向で設計されてしまう。だが、それでは駄目だ。魔力を削るということは、本人の生命力そのものを削るということ。そんなことを続ければ、魔道具も、彼自身の体も、いずれ完全に壊れてしまう。
ソフィアは、自分が作ったあの『腕輪』を思い出す。
あれは、魔力を削っていない。
滞った魔力を整え、体内で淀みなく循環させ、余剰分を自然な形で空気中へ逃がすように設計したのだ。
「……それで、私の作ったあの腕輪の仕組みが、陛下の魔力とピタリと合ったんですね」
「そうだ」
アレクシオスの声が、少しだけ低く、切実なものになる。
「最初、裏市場で見つけた時は、ただの血行促進の小道具だと思った。だが、試しに装着した瞬間……長年俺を苛んでいた痛みが、嘘のように消え去った。俺の体内で、初めて魔力が“呼吸”をしたんだ」
呼吸。
魔力が呼吸をする、という文学的な表現に、ソフィアは妙に納得した。
(そうか、無理やり止められていた循環が戻ったんだ)
ソフィアが黙って聞いていると、アレクシオスはさらに身を乗り出すようにして言った。
「すぐに調査機関を動かした。あの腕輪の内部に刻まれた刻印は、宮廷魔道具師でさえ理解できない、神業のような精度だった。空気中の魔力の流れを、まるで極細の糸で編み上げるように整え、循環させる技術。……世界中の誰にも真似できない、規格外の代物だ」
「……」
「だが、報告書を見て俺は耳を疑った。それほどの国宝級の技術を持つ者が、祖国では『魔力ゼロの無能』と呼ばれ、地下室で結界の整備という単純労働を無給で強いられていたと」
アレシオスの瞳が、絶対零度の怒りに凍りついた。
一瞬にして、室温が数度下がった気がした。壁際の侍従が恐怖に息を止める。
「……誰が、君を無能と言った。誰が、君の誇りを踏みにじった」
「祖国の王太子と……研究所の人間たちです」
アレクシオスは、怒りで周囲の空間を凍らせないよう、必死に自らを律しながらゆっくりと言った。
「魔力がゼロなら、魔力式は刻めない。魔道具は起動すらしない。だが、お前は現にこの腕輪を作れている。どういうことだ」
ソフィアは少しだけ視線を落とし、唇を噛んだ。
(そう。私には魔力が“ない”んじゃない)
(私が持っているのは、たぶん――)
「……私、自分の体から魔力を“放出する”ことができないんだと思います」
ソフィアは、自分の感覚を言葉にして紡ぎ始めた。
「私の魔力は、外に向けて放つタイプのエネルギーじゃないんです。その代わり、空気中や物質に宿っている魔力の“流れ”を視覚的に捉えて、指先でミリ単位で編み直すことができる。だから、魔力の総量を測るだけの『計測器』には、針がピクリとも反応しないんです」
侍従が、呆然とした顔でガタッと音を立てて跪いた。
「そ、そんな馬鹿な……環境魔力の完全制御……? それは神話の時代に存在したとされる、大精霊の領域だ……!」
ソフィアは小さく頷く。
「空気中の魔力を編み込んで、器具の中で永久に循環させる。そうすれば、高価な魔石に頼らなくても、枯れることのない魔道具が作れます」
ソフィアにとっては、ただの「節約術」のような当たり前のことだった。
王国の結界維持も、まったく同じだ。
自分の魔力で結界を張っていたわけではない。何人もの魔道士が注ぎ込んだ雑多な魔力がショートしないよう、毎夜毎夜、徹夜で“結界の糸を編み直して循環させていた”だけなのだ。
それを、祖国は理解しなかった。
「魔力ゼロの寄生虫」と蔑み、理解しないまま、国が滅びるギリギリまで彼女の労働力を搾り取った。
アレクシオスは、深く息を吐き出し、厳かに宣言した。
「……つまり、お前はただの天才ではない。帝国の、いや、この世界の『国宝』だ」
その言葉に、ソフィアの呼吸がピタリと止まった。
国宝。
自分が。
前世では「代わりはいくらでもいる」と使い捨てられ、今世では「無能」と追放されたこの私が。
そんな絶対的な価値を肯定する言葉を、人生で一度も向けられたことがなかった。
アレクシオスは、デスクの上の二つの契約書を、トントンと指で叩いた。
「だから、選べ。俺の専属魔道具師としての雇用か、それとも、俺の隣に立つ婚姻か。君の望むすべてを与えよう」
ソフィアの脳内で、けたたましい非常ベルが鳴り響いた。
(ちょっと待って! 婚姻は危険すぎるわ!)
(『妻』という名目に釣られたら最後、国宝扱いからの『無限労働・24時間拘束・休日なし』の地獄の役職が待っているに決まってる! 経営者の「家族みたいなアットホームな職場です」は絶対信用しちゃダメ!)
社畜の防衛本能が全力で警鐘を鳴らす。
ソフィアはわざとらしく咳払いをし、契約書の『雇用案』の方をサッと引き寄せた。
「……まず、雇用案の方で詳細の確認をお願いします。私は、非常に慎重な性格ですので」
アレクシオスの口元が、微かに動いた。笑う寸前で無理やり止めたような、愛おしげな顔だ。
「構わない。確認しろ」
ソフィアは、契約書の労働条件の欄に目を通し始めた。
そして、数秒後――その目が限界まで見開かれた。
・勤務形態:完全週休三日制(祝祭日は別途休暇)
・労働時間:実働一日最大三時間(休憩時間は含まず)
・残業:完全禁止(違反した場合、雇用主である皇帝に罰金)
・休日・夜間対応:絶対禁止
・有給休暇:年間四十日(消化率100%を義務付ける)
・福利厚生:皇宮内の最高級宿舎、専属シェフによる一日三食、及びおやつの提供
・権利帰属:開発した魔道具の特許及び利益は、100%ソフィア個人に帰属する
・安全保障:ソフィアの身の安全は、氷晶帝国全軍をもって皇帝が絶対の責任を負う
(……なにこれ。労働基準監督署が見たら、感動のあまり泣いてひれ伏すレベルの超絶ホワイト条項じゃない……!?)
ソフィアは思わず顔を上げ、すがるような目でアレクシオスを見た。
「へ、陛下。これ、本当に……私に提示している条件ですか? 桁や文字を間違えていませんか?」
「当然だ。むしろ、これでもまだ足りないと思っている。お前は、決して壊してはならない至宝だ」
壊してはならない。
その言葉が、ソフィアの胸の奥の、一番柔らかい場所に深く刺さった。
祖国では、壊れるまで使われた。
心が壊れても、体が悲鳴を上げても、鎖で繋ぎ止められて無理やり働かされた。
でも、ここでは違う。彼にとって、私を壊すことは「絶対の禁忌」なのだ。
ソフィアは、震える声で慎重に言った。
「……でも、報酬の額が高すぎます。前金だけで、私が一生遊んで暮らせる額です。逆に、裏があるのではないかと怖いです」
「妥当な額だ」
アレクシオスは即答した。一切の迷いがない。
「君の技術には、俺の命と、この帝国の安定がかかっている。それを安く買い叩けると思う方が、為政者としてあまりにも愚かで傲慢だ。君の価値に相応しい対価を払うのは、皇帝としての義務だ」
ソフィアは少し黙り、最後にどうしても確認しておきたいことを口にした。
「それと、街にある私の小さな店は……」
「続けろ。むしろ、帝国として正式な特権商会の認可を出す。誰にも商売の邪魔はさせない。税も免除だ」
「……護衛は付きますか?」
「君が必要とするなら、一小隊をつける。嫌なら付けない。ただし、君の身に危険があると判断した場合のみ、君の視界に入らない最低限の暗部を護衛として配置する」
監視、という言葉を使わずに、徹底して『守る』という意志を伝えてくる。
ソフィアは、ゆっくりと頷いた。
(……ここまで条件が整っているなら)
(もう、逃げる理由なんて、どこにもない)
アレクシオスが一歩、ソフィアに近づいた。
「雇用契約でいい。君の望む通りにしよう。だが、仕事としてもう一つだけ、頼みたいことがある」
ソフィアの背筋がピリッと強張る。
(来たわね。追加条件。ここで『やっぱり一日十時間働いてね』とか地獄の要求が始まるやつ!)
しかし、アレクシオスは真剣な眼差しで、深く頭を下げた。
「俺の、新しい『制御具』を、君の手で作ってほしい」
「それは、専属魔道具師としての仕事ですから、当然……」
「違う」
アレクシオスは首を振った。
「君の作る制御具は、ただの道具じゃない。俺の命そのものを救う光だ。だから、これは雇用主としての業務命令ではなく、一人の男としての、君への『願い』として頼みたい」
言葉の温度が、全く違った。
ソフィアは、張り詰めていた息を、ふうっと小さく吐き出した。
「……わかりました。お作りします。ただし、まずは簡単な試作品からです。陛下の魔力との適合と、安全確認を最優先で進めますので、納期は急がせないでくださいね」
「ああ、君の好きにしろ。すべての工程において、君の判断が最優先だ」
その瞬間、ソフィアははっきりと気づいた。
(この人、私に対して、一度も『命令』していない……)
絶対的な権力を持つ皇帝なのに。
ソフィアは、意を決して契約書の魔力署名欄に手を置いた。
淡い光が広がり、雇用契約の魔法印が正式に刻み込まれる。
それを静かに見届けると、アレクシオスはしばらく沈黙し――突然、ひどく掠れた低い声で言った。
「……ソフィア」
「はい」
「専属魔道具師としての雇用契約は、これで成立した。……だが、俺の『本音』は変わらない」
ソフィアの心臓が、ドクンと大きく跳ねた。
「本音、とは……」
アレクシオスは、珍しくソフィアからスッと視線を逸らした。
その仕草は、冷酷な皇帝としてはあまりにも不器用で、一人の男としてはひどく真摯で、熱を帯びていた。
「……君を、二度と誰にも奪われたくない」
ソフィアが完全に固まる。
(奪われたくない……?)
アレクシオスは、覚悟を決めたように再び顔を上げ、ソフィアを真っ直ぐに射抜いた。
「俺の専属魔道具師としてだけでなく――」
一呼吸。
極寒の氷が溶け出すような、熱い声で。
「俺の、妻になってほしい。君のすべてを、俺が守り、愛し抜くと誓おう」
「……っ!!」
部屋の隅の侍従が「ヒッ」と短い悲鳴を上げ、次の瞬間、慌てて両手で自分の目と耳を塞いで壁に向かって直立不動になった。絶対に聞いてはいけない、皇帝のガチ口説き現場に居合わせてしまった絶望の顔だ。
ソフィアの脳内は、処理落ちして真っ白になった。
(え、え、え!?)
(さっき『雇用契約でいい』って言ったよね!? 契約書にサインした瞬間に、求婚の追撃ぶつけてくる!? なにこの皇帝、肉食すぎる!!)
顔から火が出そうになるのを堪え、ソフィアは社畜時代に培った『即答を避けて持ち帰るスキル』を全力で発動させた。
「……へ、陛下。身に余る大変光栄なお言葉ですが、私は今、婚約破棄されて追放されたばかりの、人生の立て直し期間中でして……っ」
「理解している。急かすつもりはない。君の心が落ち着くまで、何年でも待とう」
「そ、それに、私は怖いんです!」
ソフィアは、思わず本音を叫んでいた。
「『妻』という立場になったら、もう二度と逃げられなくなる気がして。前世……いえ、前にそういう、絶対に逃げられないブラックな環境にいたので、縛られるのが怖いんです!」
アレクシオスの目が、ソフィアの過去の傷を慮るように、少しだけ痛そうに細められた。
「……ならば、逃げ道は用意する」
「えっ? 逃げ道?」
「君が望むなら、いつでも一方的に婚姻契約を解除できる『特例離縁条項』を、国法を変えてでも婚姻書に盛り込もう。君を縛り付ける気はない。婚姻を“拘束”にはしない」
ソフィアは、完全に言葉を失った。
皇帝との婚姻に、妻側からの無条件解除条項。
そんなもの、世界の歴史上、聞いたこともない。
(この人……本気で、私の心と自由を守ろうとしてくれている……)
その理解が、ソフィアの胸に、恐ろしさと同時に、泣きたくなるような温かい安心感を連れてきた。
ソフィアは、赤くなった顔を両手でパタパタと仰ぎながら、深呼吸して言った。
「……お試し、でお願いします」
「何をだ?」
「お、お試しのお付き合い、です! まずは雇用契約の魔道具師として働いてみて、陛下が本当に『ブラック』じゃないか、見極めさせていただきますから!」
自分で言っていて、頭がおかしくなりそうだった。
一国の皇帝相手に、労働環境と人間性のホワイトチェックを宣言する女なんて、絶対に私くらいだろう。
しかし、アレクシオスはしばらくソフィアを見つめ――。
ほんのわずかに、目を細めて笑った。
「……良い。存分に、見極めてくれ」
その笑みは、凍てつく冬の景色に一筋の春の陽射しが差し込んだように、静かで、優しかった。
ソフィアは慌てて立ち上がり、バサッとドレスの裾を翻した。
「で、では! 本日のところはこれで失礼します! まだ昼ですが、今日は初日なので定時ということで帰ります!」
「待て、馬車で送らせる」
「ご、護衛は……本当に私の視界に入らない最低限でお願いしますね!」
「ああ、わかった。気をつけて帰れ」
パタン、と扉が閉まる。
侍従が深々と頭を下げて見送る中、ソフィアは早足で皇宮の廊下を歩きながら、心の中で小さく呟いた。
(……私、自分の意志で、選んでる)
選べることが、断れることが、こんなに怖くて、こんなに救いになるなんて。
――その頃。
遠く離れた祖国では、誰もまだ気づいていなかった。
天才社畜を失い、王都を覆っていた絶対の『結界』が、夜の冷え込みと共に、ほんのわずかに、しかし致命的な音を立てて“軋み始めた”ことに。




