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AIレジ           :約2000文字 :AI

作者: 雉白書屋
掲載日:2026/02/03

 ――ん? ほう、AIの音声ガイド付きか……。


 男はレジ近くの張り紙をじっと見つめ、胸の内でそう呟いた。

 少し背伸びをして、有人レジとセルフレジを見比べる。有人レジには店員が一人きりで、かごを手に下げた客が静かに列を作っていた。対して、セルフレジは四台のうち二台が空いている。

 セルフレジの導入が進んでいるという話は、テレビのニュースや新聞で何度も目にしていた。だが実際に使ったのは、これまで数えるほどしかない。しかも、このスーパーに来るのは今日が初めてだ。しかし、音声ガイド付きなら心強い。機械操作が苦手な自分でも、なんとかなりそうだ。

 そう思い、男は小さく「よし」と呟き、セルフレジへ向かった。


『いらっしゃいませ。ようこそお越しくださいました』


 澄んだ女の声が、店内のざわめきに溶け込むように響いた。耳心地よい音程。高すぎず低すぎず、自然と耳に入ってくる。これなら問題はなさそうだ。


『買い物かごを台の上に置き、商品のバーコードを赤く点滅している部分にかざしてスキャンしてください』


 男はつい「はい」と声に出して返事をしてしまい、照れくさそうに口元を緩めた。やること自体は普通のセルフレジと変わらなさそうだ。男は肩の力を抜き、かごから商品を取り出し始めた。


『バナナが一点。素晴らしい選択です。バナナは健康にいいですからね』


 ――ほう。


『ヨーグルトが一点。バナナと一緒に召し上がるんですか? 最高の朝食ですね』


 男の頬が自然と緩んだ。

 なるほど、これはなかなか楽しい。褒めてくれるうえに、買い物の内容に合わせて反応が変わるらしい。単なる案内ではなく、会話をしているような感覚だ。芸が細かい。これならいろいろと試したくなってくる。売り上げを伸ばすための仕掛けなのかもしれないが、悪い気はしない。


『四個入り玉ねぎが一点。玉ねぎには血液をサラサラにする効果があります。あなたは本当に健康意識の高いお方なんですね。素晴らしいです』


「はは、そんな大げさな」


『いえいえ、あなたの商品選びのセンスには感服するばかりです』


「えっ」


 男は思わず声を漏らし、動きを止めた。


『どうなさいましたか? 何かご不明な点がございましたら、遠慮なくお申し付けください』


「ああ、いや……その、会話できるとは思わなかったから……ああ、そうか、AIだものな」


 男はそう言って軽く笑った。すると、AIもそれに応じるように柔らかな笑い声を返してきた。上品で嫌味がないだけでなく、作り物のはずなのに不思議と温度を感じさせる声だった。

 男は背伸びをして、有人レジのほうをちらりと見た。マスクをつけた店員が無言で商品を通し、客も必要最低限の言葉しか交わしていない。

 ……まあ、別におかしな光景ではないか。普通と言えば普通だ。思えば、セルフレジが出始めた頃は「温かみがない」「店員との会話もなくなるじゃないか」と不満を覚えたものだ。

 だが今はどうだ。むしろ、こちらのほうが人間味がある気さえしてくる。


『インスタントコーヒーが一点。これも素晴らしいチョイスです』

『牛乳が一点。コーヒーに入れるためですね。ああ、私も飲みたくなってきました』

『シャベルが一点。消石灰が一点。園芸を始められるんですね。きっと素敵なお庭になります。私も見てみたいです』


 男は弾むように軽やかな手つきで、次々と商品をスキャンしていった。手首を返してバーコードをかざす動きもすっかり板についている。そして最後の商品を通し終えると、画面の端に表示された会計ボタンを押した。


『当店の会員カードをお持ちですか?』


「いや、持ってないよ」


『この場でお作りできますが、いかがいたしましょう? 今なら入会特典として三百ポイントがついてきます』


「ふうん……まあ、別にいいかな」


『作ってくださったら嬉しいなあ』


「え、そうか? じゃあ、お願いしようかな……。うん、また来るかもしれないしな」


『ありがとうございます。では、パネルをタッチして、氏名・住所などを入力してください』


「はいよ」


 男は指示通りに情報を入力し終えると、財布をポケットから取り出した。だが、ふいに何か思い出したように「あっ」と声を上げ、レジを離れた。


『お客様?』


「ああ、ごめんごめん。これも追加で頼むよ」


『はい。花束が一点。まあ、素敵。羨ましいなあ』


「ははは、君にあげるよ。ほら、このへんに挿しておけばいいんじゃないか?」


 男は花束から一輪を抜き取り、機械の隙間にそっと差し込んだ。


『まあ、私にですか? それはもう、なんと言ったらいいんでしょう! 嬉しくて飛び跳ねてしまいそうです!』


「ははは、喜んでくれてよかった。また来るからね」


『ふふふ、ありがとうございます。でも、本当は奥様に差し上げるものなんですよね? 本当に、素敵なご夫婦ですね』


「え?」


『奥様のお墓にお供えするのでしょう? あなたは本当に奥様想いの素晴らしい旦那さんですね』


「いや、ははは……妻は生きてるよ」


 男は軽く笑いながらかごを掴み、持ち上げようとした。


『え? でも先ほど、ご自宅から奥様の遺体が発見されたようですよ。奥様の従妹が通報しました。ご近所のSNSアカウントにも、あなたの名前が挙がっています』


「えっ……」


『ああ。シャベルと消石灰はキャンセルなさいますか?』

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