リライト・サマー
夏が終わる匂いがした。
グラウンドの端で草を焼く煙が風に乗って、白い雲をゆっくりと染めていく。
蒼真は窓際の席でぼんやりと外を眺めていた。
この光景を、何度見たのだろう。
繰り返したはずの夏の記憶は、もう曖昧だ。
だけど、胸の奥にだけ、確かな温度が残っている。
放課後、校門を出たところで、誰かに声をかけられた。
「ねえ、それ、落としたよ。」
振り返ると、白いワンピースの少女が立っていた。
見覚えのない顔なのに、なぜか懐かしかった。
彼女の手には、一冊の青いノートが握られている。
「これ、あなたの?」
「……ああ、ありがとう。」
受け取った瞬間、胸の奥がざわついた。
ノートを開くと、すべてのページは真っ白。
けれど、最後のページの隅に、ほんの少しだけインクが滲んでいた。
> 「この夏を、ありがとう。」
蒼真は思わず笑った。
涙がにじむのを隠すように、ノートを閉じる。
「そのノート、きれいな色だね。」
少女が微笑む。
その笑顔に、どこか真白の面影があった。
「……名前、聞いてもいい?」
「えっと、真……」
少女は一瞬だけ考えて、照れたように笑った。
「……舞白って言うの。」
蒼真の胸に、小さな痛みと温かさが同時に走った。
世界はやり直された。
でも、“想い”は消えていなかった。
二人で並んで歩く帰り道。
風が頬を撫で、夕暮れの光が街をやさしく照らしていた。
信号待ちのとき、真白がふと空を見上げた。
「ねえ、あの雲、見て。青く光ってるよ。」
「……本当だ。」
空の片隅に、淡い青の光が流れていく。
——リライトの光。
それは、もう誰も書き換えない世界で、静かに輝いていた。
「なあ、真白。」
「なに?」
「また、夏が来たら……一緒にどこか行こう。」
「うん、約束。」
真白の笑顔が、夕焼けの中で溶けていった。
その瞬間、蒼真の心の奥で、誰かの声が微かに響いた。
> 「記録完了。——おめでとう、記録者。」
風が吹き、ノートのページがひとりでにめくられた。
真っ白な紙の上で、最後の一文が浮かび上がる。
> 「リライト・サマー ——完——」
蝉の声が、少しだけやさしく聞こえた。




