繰り返される夏
——目を覚ますと、また蝉の声が聞こえた。
窓の外では、昨日と同じ青空。
机の上には、昨日と同じ青いノート。
時計の針も、同じ時刻を指していた。
「……また、ここか。」
昨日の花火の記憶も、真白の笑顔も、すべては夢のように霞んでいく。
でも、手に握ったノートのページには確かに書かれていた。
> 「リライト完了。再構成:第47ループ。」
“第47ループ”。
自分が知らないうちに、同じ夏を何度も繰り返している。
そのたびに、誰かを失い、何かを書き換えてきたのだ。
「真白を守る」——その願いが、世界を無限に書き換え続けている。
放課後、蒼真は真白のもとへ向かった。
彼女はスケッチブックを抱え、夕焼けの光を描いていた。
「ねえ、蒼真くん。この空、なんか懐かしい気がしない?」
「……ああ。何度も見た気がする。」
「やっぱり。私、変な夢を見たの。花火の下で、あなたと知らない男の子が笑ってて……」
真白は少しだけ悲しそうに笑った。
——それは、結人のいた夏の記憶。
彼女の無意識の奥に、まだ“消えない欠片”が残っていた。
蒼真はノートを取り出した。
ページの端に、また新しい文字が浮かび上がっていた。
> 「記録者の願いが終わらない限り、世界はリライトされ続ける。」
> 「“真白を守れ”とは、“真白を閉じ込めよ”という意味だ。」
「……閉じ込める?」
ノートが静かに熱を帯びた。
これまで書き換えたすべての未来が、ノートの中に封じ込められていた。
真白が笑っていられる“夏”だけを保存するために、世界が繰り返されている。
——このノートこそが、“永遠の檻”だった。
その瞬間、空がひび割れた。
風が逆流し、校庭の木々が白く透けていく。
“世界の書き換え”が暴走していた。
真白が叫ぶ。
「蒼真くん! これ、なに——!?」
蒼真はノートを抱きしめた。
「ごめん……全部、俺がやったんだ。」
「え……?」
「お前を守るために、何度も夏をやり直した。でも、そのたびに誰かが消えていった。」
真白の瞳が揺れた。
「そんなの、悲しいよ。」
彼女の涙が、ノートに一滴落ちた。
インクが滲み、文字が消えていく。
その中央に、新しい文字が現れた。
> 「最後の選択。」
> 「①この夏を永遠に繰り返す。」
> 「②すべてをリセットし、元の時間へ戻す。」
蒼真はペンを握りしめた。
選べば、どちらかが消える。
①なら真白は残るが、世界は閉じたまま。
②なら真白は消えるが、世界は解放される。
彼は静かに笑った。
「真白、俺は……」
真白が頷く。
「ううん、もう言わないで。きっとわかってる。」
夕暮れの風が吹き抜けた。
蒼真は、ノートの最後のページに一行だけ書いた。
> 「この夏を、思い出にする。」
青い光が空を包み、すべてが白に溶けていった。
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気づくと、蒼真は教室の中にいた。
蝉の声。いつも通りの夏。
机の上には、真白のスケッチブックが置かれていた。
その最後のページには、青い空と、小さく描かれた三人の姿。
真白、結人、そして自分。
ページの端に、細い文字があった。
> 「また、どこかで。」
蒼真は微笑んで、空を見上げた。
雲の切れ間に、ひとすじの青が流れていた。




