神々の階層と、見えざる敵意の増幅
太郎の行く手を阻む新たな絶望的な試練。しかし、彼を支えるのは、固い絆で結ばれた仲間たち。秘められた過去の闇が暴かれる。
健太一行が旅を進めるにつれて、彼らの存在は少しずつ世界に波紋を広げていった。彼らの異様なまでの強さと、健太への絶対的な忠誠は、各地の神殿や権力者たちの間で奇妙な噂となって広まっていく。神々は、健太の存在が世界の法則を歪める「異物」であると認識し始めた。彼らは主神や眷属神、そして信仰心の厚い民衆を動かし、健太たちの行く手を阻もうとする。
アストラルムの世界には、単一の神ではなく、多くの神々が存在する。彼らは創造主たる「至高の神」を頂点とし、その下に「主神」、さらにその下に「眷属神」と呼ばれる階層を形成している。この階層は、力の大きさ、信仰の広がり、そして世界への影響力の度合いによって厳格に定められている。
至高の神: 全ての存在の源であり、世界の根源的な法則を司る唯一の神。彼は直接的な干渉はせず、世界の循環を見守っているとされているが、その実、世界を「ゲーム盤」と見なし、生命を「駒」として弄んでいる存在だと健太は確信していた。彼の存在そのものが、健太の全ての苦しみの元凶だった。この神は、通常、アストラルムの住人からは信仰の対象とはならず、法則そのものとして認識されている。その存在はあまりにも超越的すぎて、理解不能なのだ。
主神: 至高の神によって生み出され、特定の領域(戦、生命、叡智、慈愛、商業など)を司る神々。彼らは広大な神殿を築き、多くの信徒を持ち、世界に直接的な影響力を持つ。ガストンが信仰する「戦の神ヴァルゴ」、リリアが加護を受ける「叡智の神アルテア」、リアムが仕えていた「慈愛の女神エリス」などがこれにあたる。これらの主神は、自分たちの信徒を導き、時には奇跡を起こし、その信仰を深めさせる。彼らは下位の眷属神や神官を通じて、人間社会に介入し、加護を与えることで人々の信仰を深め、自分たちの勢力圏を広げている。彼らは、至高の神の意図を汲み取り、あるいは自らの権威を守るために、異端者を排除しようとする。彼らにとって、健太は世界の調和を乱す、忌むべき存在だった。
眷属神: 主神の配下であり、特定の地域や現象、あるいは小さなコミュニティの守護を司る神々。彼らはより人々に身近な存在であり、祭りや信仰の対象となることが多い。地方の信仰の中心であり、人々の生活に密接に関わっている。彼らもまた、主神からの命令や世界の秩序を守るために、健太のような異質な存在を警戒し、排除しようとするだろう。例えば、特定の河川の守護神や、豊かな収穫をもたらす農耕神などがいる。
健太一行が旅を進めるにつれて、彼らの存在は少しずつ世界に波紋を広げていった。特に、健太を守る仲間たちの異様なまでの強さと、彼らが健太という「弱き者」に絶対的な忠誠を誓う姿は、各地の神殿や権力者たちの間で奇妙な噂となって広まっていく。
「あの男の周りには、尋常ならざる力が集まっている…」「彼の護衛は、神の加護を受けた勇者すら凌駕する…」
健太は、自分の「魅了」のスキルが、単純な身体能力の向上だけでなく、仲間の持つ「加護」や「属性」すらも最大限に引き出し、覚醒させていることを理解していた。例えば、ガストンは「戦の神ヴァルゴ」の加護を受けていたが、健太を守ることで、その加護が通常ではありえないほど増幅され、神に匹敵するような武力を発揮するようになっていた。彼の剣から放たれる斬撃は、神殿の結界すらも切り裂くほどの威力を秘め始めており、大地を震わせるほどの衝撃波を伴う。リリアも同様に「叡智の神アルテア」の加護を歪んだ形で極限まで引き出し、無限に近い魔力と、世界の法則を書き換えるかのような魔法を操るようになっていた。彼女の放つ魔法は、森一つを焼き尽くすことも容易く、空を割り、大地を隆起させることも可能となっていた。リアムに至っては、本来は治癒と防御の「慈愛の女神エリス」の加護を、攻撃的な聖なる刃へと変質させていた。彼の聖剣は、闇を切り裂き、神官の防御魔法を無力化するだけでなく、神聖な力を持つ存在に致命的なダメージを与える力を秘めるようになっていた。
しかし、この異質な力の覚醒は、神々にも感知され始めた。特に、世界の根源的なバランスを司る「至高の神」は、健太の存在が世界の法則を歪める「異物」であると認識し始めていた。彼らは直接姿を現さないまでも、主神や眷属神、そして信仰心の厚い民衆を動かし、健太たちの行く手を阻もうとする。
各地の神殿は、健太を「邪悪な魔力を操る異端者」として糾弾し始めた。
「あの異端者たちは、神の秩序を乱す存在だ!討伐せよ!」
「あの男は、邪悪な力で人々を惑わしている!聖なる裁きを下せ!」
彼らは、最高位の聖騎士団や、神殿魔導師団を差し向け、健太を捕らえようとする。聖騎士団は、主神から直接的な加護を受けた者たちで構成され、その連携は鉄壁だった。神殿魔導師団は、高位魔法を操り、広範囲を制圧する力を持っていた。
エルフの隠れ里からは、健太の存在が世界樹の均衡を崩すとして、精霊術師たちが派遣された。エルフの精霊術師は、森の精霊との絆を深め、自然の力を借りて戦う。彼らは通常の物理攻撃では傷つけられない存在であり、森の中では絶大な力を誇った。
ドワーフの鉱山都市からは、神々への信仰心篤い戦士たちが、彼を捕獲しに来る。彼らは堅牢なドワーフ製の鎧をまとい、大斧や大槌を操り、その一撃は大地を揺るがすほどだった。
健太は、これらもまた「神の試練」であり、彼らを打ち破ることが神への道だと、狂信者たちをさらに煽り立てる。彼らは、健太のために神の使者とすら戦うことを喜び、そのたびにその力を増していく。健太の計画は、彼の予想以上に順調に進んでいた。彼が憎む神々は、皮肉にも、自らの破滅へと繋がる力を、健太とその仲間たちに与え続けているのだ。健太の心には、彼らの献身に対する罪悪感は微塵もなかった。ただ、彼らの覚醒が、神への復讐の糧となることを確信するのみだった。