獣人の絶叫と、自然の狂気
遺産を巡る戦いの中で、裏切りの影が忍び寄る。信頼していた人物の衝撃的な行動が、太郎たちに大きな動揺と悲しみをもたらす。
健太とエリシアは、荒廃したドワーフの地下都市を後にし、獣人たちが暮らす広大な平原へと向かった。かつては豊かな自然に恵まれ、獣人たちが自由に駆け回っていた平原は、今や見る影もなかった。草木は枯れ、水源は干上がり、大地には乾いた亀裂が走っていた。
神の消滅により、自然の摂理が狂い、魔物たちは凶暴化していた。彼らは秩序を失い、無差別に人々を襲うようになっていた。獣人たちは、その鋭い五感と身体能力を失いつつあり、凶暴化した魔物たちの標的となっていた。部族間の争いも激化し、共食いさえ始まっている部を健太は目撃した。
健太たちは、魔物から隠れるようにしながら、獣人たちの集落を目指した。しかし、そこに存在したのは、かつての活気ある集落ではなく、荒廃し、血にまみれた廃墟だった。獣人たちの悲痛な叫びが、遠くから聞こえてくる。
健太がたどり着いたのは、獣人たちの聖地とされる、巨大な岩山だった。そこに、生き残ったわずかな獣人たちが集まっていた。彼らのリーダーである、年老いたライオンの獣人が、健太に気づくと、憎悪に満ちた目で咆哮した。
「貴様…!神を殺し、我々から自然の恵みを奪った異端者め!貴様のために、我々の同胞が、こんなにも苦しんでいるのだぞ…!」
老ライオンの獣人は、健太に襲い掛かろうとするが、その体はもはや病に蝕まれ、その場に崩れ落ちた。健太は、獣人たちの悲痛な叫びと、彼らの故郷の変わり果てた姿に、心を抉られた。彼らが崇めていた「狩りの神アトラス」や「月光の女神ルーナ」の加護も、もはや機能していなかった。
エリシアは、健太のために獣人たちに弁明しようとするが、健太はそれを許さなかった。彼は、この全ての悲劇が、彼自身の行動の結果であることを、静かに受け止めていた。彼の表情は、感情を失ったかのように無機質だった。