第63話 スキル『おっさん』で最高の異世界ライフを!
事の顛末。
ゴアキリンによって興奮状態にさせられた魔物たちは、ゴアキリンが倒されてから興奮状態から解放されたらしく、戦いは最小限で済んだらしい。
といっても、かなりの数を相手にしたということもあり、ノエルを含めた冒険者たちは皆疲れ切っていた。
その後、動ける連中だけで急いで森の消火活動を行った。
幸い、燃えていた部分が一部分だったということもあり、おっさん魔法使いの風魔法で木々をなぎ倒し、燃えていない箇所に水を撒き散らしたりして火災は最小限に抑えることができた。
そして、俺たちはゴアキリンの一件で街を救ったとやらで、冒険者ギルドから結構な奨励金が出された。
さらに、ゴアキリンを倒しということもあり、他の冒険者から尊敬の眼差しで見られるようになったのだった。
「そういえば、ワードの処分はどうなるんだろうな?」
そして、俺たちはゴアキリンの一件を片付けて数日後、ちょっと山奥にある川に来ていた。
もともと金には困らなくなったのにプラスして、奨励金まででたのだから依頼を受ける気にもならず、俺たちは休みの日を満喫するために釣りをしに来たのだった。
釣り糸を垂れながらなんとなくそう言うと、ノエルが目細めながら口を開く。
「憲兵に捕まってしばらくは出てこれないと思うぜ。ゴアキリンを故意的に呼んで森を枯らしてって、やりたい放題だったからな」
「まぁ、あれだけのことをしたらな」
俺はワードの取り調べをしたというグラムから聞いた話を思い出す。
イワネズミの巣にジャイアントビーを呼び寄せたのも、ワードの仕業だったらしい。ワード曰く、ジャイアントビーを仕込めば俺が依頼を失敗して、憲兵たちが自分に頼み抜きてくれると思ったとか。
結果としてなんともなかったからよかったが、俺は随分とワードには恨まれていたらしい。
俺がそんなことを考えていると、ノエルが突然何かを思い出したように『あっ!』と声を漏らした。
「それよりも、おっさん! ゴアキリンを一刀両断した剣技を見せてくれよ!」
ノエルはきらきらとした目で俺を見上げて、隣に座る俺の腕を揺らした。
ゴアキリンを倒したとき、ノエルは他の冒険者と一緒に興奮状態になった魔物の対応をしてくれていた。
だから、俺がゴアキリンを倒したとき、俺のもとを離れており、倒した瞬間を見たかったとずっと言っているのだ。
俺は無邪気に羨望の眼差しを向けてくるノエルに笑みを返す。
「まぁ、今度依頼を受けたときに見せてやるって」
「本当だな⁉ 絶対だからな!」
ノエルに腕を強くやらされていると、突然俺の竿が強く引かれた。
「おっ、かかったぞ」
「まじか! おっさん、今日で何匹目だよ!」
ノエルは興奮した様子で腕をブンブンと振って、俺が魚を釣り上げる瞬間を今か今かと待っている。
「……これもスキル『おっさん』の力のおかげだな」
俺はそんなことを呟いてから、おっさん釣り師の力を使って一気に竿を上げる。
ノエルの喜ぶ声を聞きながら、俺は今この瞬間を心の底から笑えていた。
俺はこの世界で生きていく。
異世界でやっと手に入れた、自由な生活を楽しみながら。




