第61話 それぞれの役割
「とりあえず、ワードの件を片付けるよりも先に、あいつを止めないとみたいですね」
俺はそう言って切っ先をゴアキリンに向ける。
スキル『おっさん』がこの魔物相手にどこまで通用するのか分からないが、やってみるしかないだろう。
ゴアキリンはしばらく俺たちのことを見定めるように見ていて、中々こちらに突っ込んでこようとはしない。
「いてっ、いてててっ!」
俺が集中していくつかのスキル『おっさん』を使おうとしていると、ワードが突然そんな声を上げた。
何事かと思って見てみると、アブラムシがワードの背中に噛みついていた。
ノエルが言うには危害を加えない魔物らしいのだが、なぜか興奮したようにワードに噛みついてる。
……そういえば、さっきグラムがゴアキリンは魔物を興奮状態にするって言っていたっけ?
そのせいだ、アブラムシも興奮状態になっているのか?
ワードは背中についたアブラムシを何とか払おうとしたが、アブラムシは全く離れる気配がなかった。
「離せって! くそっ、おい! こいつをなんとかしろ!」
「はぁ、分かったよ」
ワードが俺のことを強く睨んできたので、俺はおっさん剣士の力を使って軽く剣を振った。
ヒュンッ。
すると、俺の件に刀を真っ二つにされたアブラムシがパシャッと油を飛び散らせながら、地面に落ちた。
「……は? 今何をしたんだ?」
ワードは突然背中から真っ二つになったアブラムシを見て、間の抜けた声を漏らしていた。
どうやら、ワードには俺の太刀筋が全く見えなかったらしい。
もしかしたら、ワードとスキル『おっさん』持ちの俺では、実力に差があるのかもしれない。疲れ果てているみたいだし、ワードと共闘するって言うのは無理なんじゃないか?
「博さん。ワードさんがこんな状態ですので、一旦退きますか?」
すると、グラムがゴアキリンに切っ先を向けたままそんなことを聞いてきた。
どうやら、グラムも俺と同じようなことを考えているらしい。
「いや、多分退かせてもらえないでしょうから、俺一人で対処しますよ」
「一人でですか⁉ いえ、さすがにそんな危険なことはさせるわけには……っ」
グラムはこちらにゆっくりと迫ってきているゴアキリンを見て、途中で口をつぐんだ。
「ブモオオオオオオオオ!!」
そして、またゴアキリンが大きな咆哮を上げた。あまりにも大きすぎる声に片目をつむりながら耐えていると、おっさん探検家が迫ってくる多くの気配を捉えた。
その気配は四方八方から俺たちに向かって一直線で向かってきている。
「……まずいな。色んな方向から魔物がこっちに突っ込んで来ている」
「さっきの咆哮が原因?」
俺はノエルの言葉に頷いてから、口を開く。
「おそらくな。ノエル、グラムさんと他の冒険者と一緒にこっちに向かってきている魔物の相手を頼む。ゴアキリンを相手にしながら他の魔物の相手をするのはさすがに無理だ」
ちらっとノエルを見ると、ノエルは俺の言葉の意味を理解してくれたのか力強く頷いた。
「分かった! おっさんもあんまり無理すんなよ!」
それから、俺の隣から数歩下がって続ける。
「グラムさん、うちたちは他の魔物の相手をしようぜ。じゃないと、おっさんの邪魔になるって」
「っ……分かりました。博さん、後はお任せします」
グラムは一瞬躊躇ってから、ワードを引きずって俺から離れて茂みから出てきた魔物の相手をし始めた。
さすがに、これだけの人数の冒険者を守りながら戦うのは無理だろうからな。
俺は深く息を吐いてから、剣を持つ手に集中する。
「それじゃあ、そろそろ始めるとするか」
「ブモオオオ!!」
俺がそう言うと、ゴアキリンは唸りを上げながら俺に向かって飛びかかってきた。




