第60話 犯人を暴くおっさん探偵
「ワードさん? さっきの爆発に巻き込まれたんですか?」
ワードが息を切らしながら俺たちの近くで躓くと、グラムが心配そうにワードに駆け寄った。
ワードは一瞬ぽかんとしてから、ハッとして何度も頷いた。
「あ、ああ。そうなんだ。勇敢にゴアキリンの相手をしているときに、突然爆発が起きてな! 危うく死にかけるところだったぜ!」
それから、ワードはキッと炎が上がっている方を睨んで続ける。
「あの野郎、あれだけの爆発を食らってもピンピンとしてやがった。普通、森の主っていうくらいなんだから一撃で死ぬと思ったのによ」
「一撃で死ぬ?」
グラムに聞き返されて、ワードはハッとして口をつぐんだ。
何かを隠すようなワードの態度を前に、誰もが違和感を覚えていた。
まるで、ゴアキリンを殺すための手段として、爆発を使ったかのような物言いだ。
すると、ノエルがワードに細めた目を向ける。
「……もしかして、森をこんな状態にしたのって、ワードじゃないよな?」
「は、はぁ⁉ なんでそうなるんだよ! 何か証拠でもあんのか!」
すると、ワードは癇癪起こしてノエルを強く睨んだ。しかし、ワードは余程疲れているのか、肩で息をして立ち上がろうとはしなかった。
すると、一緒に森に来た他の冒険者たちが後ろでざわざわとし始めた。
「そういえば、ワードって魔物の生態に詳しかったよな?」
「森が枯れるほどアブラムシを呼んだのも、あいつじゃないか?」
「異常な爆発だったよな。もしかしてアブラムシを使って森の主を倒そうとしたのか?」
冒険者たちはそんな言葉を各々口にしてから、肩で息をしているワードを見る。すると、ワードは自分が疑われているのだということに気づき、顔を真っ赤にさせてギロッと俺たちを睨んできた。
「おまえら、証拠もないくせに俺を疑ってんじゃねーぞ!」
しかし、ワードは一切認める気がないらしく、ただ声を荒らげていた。
確かに、状況的にもさっきの発言的にもワードが疑われるのは自然な流れな気がする。でも、ワードの言う通り証拠がないのも事実だ。
……どうしたものか。
俺が頭を悩ませていると、俺の隣でノエルが俺の服を引いた。
「なぁ、おっさん。おっさんのスキルで何とか分かったりしないのか?」
「いや、さすがにこの状況で頼りになるおっさんなんて……いや、いるな」
俺は途中まで言いかけて、今頼りになりそうなおっさんを思い付いた。刑事ドラマなんかで事件を解決するのは、決まって渋いおっさんだったりする。
それなら、今はそのおっさんの力を借りればいい。
俺がスキル『おっさん』を使って、頭の中で刑事ドラマでよく見るおっさんの姿を想像した。
『おっさんスキル発動:おっさん探偵』
そして、頭の中でそんな声が直接聞こえてきたと思った次の瞬間、ワードの背中に何かがべったりと付いていることが気になった。
もしかしたら、あれは……
俺は辺りを見渡して、ワードの背中についた物が何であるのか確定させるために、とある魔物を探す。
すると、ちょうど良くある魔物がワードの背中をじっと見つめていた。
「おっさん? 」
「ノエル。少しワードの気を引いておいてくれ」
「え? ああ、分かった」
俺はノエルにそう言ってから、そっと他の冒険者たちの後ろに回ってから、とある魔物のもとへと向かった。
俺はとある魔物の後ろに回り込んで、スキル『おっさん』を使って、おっさん採取家の力でとある魔物を両手でがっしりと掴んだ。
そして、暴れるその魔物をなんとかワードの側まで持って行き、ワードの背中にその魔物を置いた。
「重っ、って、何してんだお前!」
「君の背中に変なものがついていたから、何だろうと思ってね」
「は? 背中って……」
すると、俺が放ったアブラムシはワードの背中についている液体を美味しそうに啜っていた。
ワードはようやく背中についた物が証拠になりかけていることに気づいたのか、一瞬顔を強張らせた。
「やけにアブラムシが気に入る液体みたいだが?」
「そ、それがなんだ! 偶然木に擦ったら、こいつを呼び寄せる餌が塗ってあっただけだろ!」
「誰もそれが呼び寄せる餌だって言ってないし、気に塗ってあったなんてことは知らないぞ。それこそ、アブラムシを呼び寄せた犯人しか知らないことだ」
「ぐっ!」
……なんかこういう展開刑事ドラマとかで見たことがあるな。
おっさん探偵の力のせいか、つらつらと勝手に言葉が出てきて、いつの間にかワードのことを追い詰めていた。
すると、ワードが俯いてプルプルと肩を震わせてから、勢いよく顔を上げて俺を睨んだ。
「ああ、そうだよ! 俺がアブラムシを呼び寄せて森を滅茶苦茶にしたんだ! でも、おまえが悪いんだからな!!」
「お、俺?」
俺は思いもしなかった言葉に声を裏返させた。
ワードと話したこと自体一回しかないはずだぞ?
すると、ワードは歯ぎしりをさせて俺を指さす。
「どいつもこいつも俺よりもおまえを立てるようになった! おまえとの格の違いを見せつけるために、おれは森の主を倒すしかなくなったんだよ!! 森を荒らせば森の主が現れるから、そのために森を滅茶苦茶にしたんだよ!!」
ワードは言い終えると、悔しそうに地面をドンッと力強く叩いた。
悔しそうにしてはいるが、当然誰もワードに同情するような人はいなかった。
そんな理由で森を枯らして、街に危険が及ぼうとしているのだから、怒りの感情を抱かない人の方が少ないだろう。
「そんな理由で、ワードさんあなたって人は……」
グラムが呆れるようにため息を吐くと、森の奥から低い方向が聞こえてきた。
「ブモオオオォ」
そして、そんな声と共に森の主は姿を現した。
竜のような鱗に、二本の鹿のような角と長いたてがみを生やしている。日本では伝説上の生き物とされている麒麟。それが荒い息を立てながら俺たちの前に現れた。
「ひっぃ!」
「ゴアキリンのキリンって、麒麟のほうだったのか」
俺は荒れている森の主を前にして、微かに冷や汗をかくのだった。




