第56話 ウイスキーと数々のツマミ
「明らかに買いすぎたな」
それから買いたいものを一通り買ってきた俺たちは、買ってきたものを机の上に並べた。
生ハムの原木に、高そうなサシ入りの肉に、瓶や缶に入ったツマミが数種類に、ナッツ類、チョコレートに洋酒にジュースとその他諸々。
金額を見ないで買い物をしたはずなのだが、会計時の金額は思った以上にはならなかった。
俺がそんなことを考えていると、ノエルが機嫌よさげに笑みを浮かべる。
「でも、なんか結構いい気分だぜ」
「そうだな。あれだけ稼いだんだから、少しくらい買いすぎたくらいでちょうどいいよな」
俺はそう言って、買ってきたばかりのサシ入りの肉を手に取る。
「とりあえず、軽く料理して夕食にするか」
「おお! 頼んだぜ、おっさん!」
ノエルは俺が料理をすると言うと、嬉しそうにそう言ってきた。
俺は高そうな肉を片手にジッとその肉を見つめる。
これだけ良い肉なら、普通にミディアムかレアくらいでステーキとして食べるのがいいだろうな。
あとは、おっさん料理人がどう決めるか次第ではあるけど。
それから、俺はスキル『おっさん』を使っておっさん料理人の知識を頭に入れた。おっさん料理人によると、色々と料理のバリエーションはあるらしいが、すぐにできて美味いものとなるとステーキが無難らしい。
ただ普通にステーキを作ってもスキル『おっさん』が勿体ない気がするので、せっかくならソースくらいは凝ってみるか。
それから、俺はおっさん料理人のスキルを使ってステーキミディアムくらいに焼いて、ちょっと凝ったソースを作ってノエルのもとに持って行くのだった。
「待たせたな、ノエル」
ノエルの前に作ったステーキを置くと、ノエルは『おおっ!』と感動して声を上げた。それから、きらきらとした目を俺に向けてきた。
「また美味そうじゃんか! 前とソース違うソースなのか?」
「ああ、今回は少し凝ってみた」
ステーキにかかっているのは以前のガーリックソースではなく、赤ワインソースだった。
以前と同じでは同じだとつまらないし飽きるだろうと思って、おっさん料理人の力を使って赤ワインソースを作ってみた。
赤ワインと醤油やみりん片栗粉、バター等で作った簡単なものだが、味見をしたら自分でもびっくりな美味さになっていた。
「あとは、生ハムと魚のオイル漬けとナッツ類にその他諸々。うん、これだけ種類があると豪華感が半端ないな」
「おっさん、おっさん! 早く食べようぜ!」
俺はノエルに急かされるように、席について買ってきた洋酒をグラスに注ぐ。今回買ってきたのはウイスキーによく似た洋酒だ。
せっかく高い酒を買ったので、味が分かるようにストレートでいただくことにしよう。
今回は奮発して日本円で数万円相当のウイスキーを買ってしまった。某安いウイスキーしか飲んでこなかった俺にしたら、はじめましての味になることは間違いないだろう。
「それじゃあ、いただくとするか」
俺がそう言うと、ノエルは嬉しそうな顔でさっそくステーキを切り分けて口に運んだ。それから、ノエルは目を見開いてから顔を緩める。
「うっま! なんだこれ、めちゃくちゃうまい!」
ノエルが上手そうに食べるのを見て、俺もノエルになるようにステーキを一口食べてみる。
酸味と芳醇な香りを感じるソースが、ミディアムステーキの深みを引き出している。肉汁と赤ワインソースが混じり合うことで、またソースのバランスが変わっていく。そして、呑み込むと舌に残る肉の油とトロっとしたソースが残った。
そこに、ストレートのウイスキーをくいっと流し入れる。すると、微かなスモーキーさと仄かな甘いのあるウイスキーが舌に広がり、肉の油とソースの味を上書きして、上品な香りが鼻に抜けていった。
「あああああっ! 美味い! 美味いな、これは!!」
「おっさん、その反応だと肉と酒のどっちが美味いか分からないって」
「どっちも美味い! 何だこの上品な味は! どっちも初めての味だ!」
俺はノエルに呆れられながら、机の上にあるナッツや生ハムを食べてそれらもウイスキーで流し込んでいく。
ナッツの香ばしさや生ハムの塩味とウイスキーの相性が抜群で、俺はまた悶絶してしまっていた。
とても、少し前までスーパーで値引きされたお惣菜を漁っていた身とは思えなくなってくる。
「おっさん、このチョコレートも美味いぞ!」
「どれ……うん、美味いな!」
それから、俺はノエルと盛り上がりながら少し高そうな多くのツマミを食べて、酒を飲んでと楽しい夕食の時間を過ごした。
気が向いたらお金のためではなく依頼をこなして、スキル『おっさん』で何かを作って好きなことをして、夕食は奮発をして酒を飲む。
……こんな日がずっと続けばなぁ。
社会や会社に縛られないで、自由に生きている今が幸せで、俺はしみじみとそんなことを考えてしまうのだった。




