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第55話 豪遊

 店の中に入ると、棚に多くの商品が置かれていた。


 干し肉やナッツ系、魚のオリーブ漬けのようなつまみ類に、値段の高そうなサシの入った肉や種類の多い酒など、見ているだけで早く飲みたくなってくるようなラインナップだった。


「おっさん、おっさん! こっちにチョコレートがあるぞ!」


 ノエルは酒やつまみを眺めている俺と別の棚を見て、嬉しそうにそんなことを言っていた。


 どうやら、ノエルにとってはツマミよりも甘味の方が気になるらしい。


 すると、ノエルが俺のもとに小走りでやってきて、両手をブンブンと振って俺を見上げる。


「おっさん、本当に散在していいのか?」


「ああ。普段使わない分、使うときは使っておかないと急にガタがきたりする。こまめに息を抜いておかく必要があるからな」


 昔、学生時代の友人がクソブラック企業だがかなりお給料が良い会社に就職した。その友人はプライベートのすべてを労働に回して、ただただ貯金をしていた。周りからも一目置かれるくらいに仕事ができて出世も早くて、俺も周りの連中も羨んでいた。


 数年後、突然自殺をしたという話を聞くまでは。


 まぁ、たくさん働いて稼いでも、精神衛生上よくないとそんな未来を迎える可能性もあるわけだ。


 ……精神衛生的にも普通じゃなかった俺にとって、他人事ではない話なんだよな。


「おっさん? 気分でも悪くなったのか?」


 俺が少し昔のことを思い返してしまっていると、ノエルが心配そうに俺の顔を覗き込んできた。


 まずいな。ノエルに心配をかけるくらい、分かりやすく顔に出てしまっていたらしい。


 俺は慌ててフルフルと顔を横に振ってから、口元を緩めて何でもないふうを装う。


「体調が悪いわけないだろ。ただ豪遊に慣れていないだけだ」


 昔のことを思い出して色々考えても仕方がないだろ。それよりも、せっかく色々と自由になった今を楽しまないとな。


 それから、辺りを見渡して咳ばらいを一つする。


「よっし、ノエル。食べたいと思う物と飲みたいと思うものは全て買って帰るぞ! 今日は息抜きの日だからな!」


「本当に何でもいいのか?」


「ああ。ノエルは何か食べたいものあったか?」


「じゃあ、あのでかい肉が食いたい!」


 ノエルは俺の言葉を聞いて、嬉しそうにびしっと生ハムの原木を指さした。


 この店の中でも目立つところに飾られており、俺も店に入ったときから気になってはいた。


「でかい肉って、あれ生ハムだろ。多分、スライムしてグラム買いできるだろうから……」


 俺はそこまで言いかけて、また貧乏性が出てしまっていたことに気がついた。


 ちらっとノエルを見ると、ノエルはきらきらとした顔で生ハムの原木を見ていた。正直、あの量はいらないような気もするが、散財をすると言っておきながら、ノエルの前で日和るわけにはいかない。


 俺は途中まで言いかけた言葉を呑み込んで、再び口を開く。


「よっし、原木を買って帰ろうじゃないか! 店員さん、あとサシの入った肉と、高い洋酒と高いチョコレートとーー」


 それから、俺は自分とノエルが欲しいものを買って、豪遊をすることにしたのだった。


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