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第41話 焼きたてのピザと葡萄酒

『おっさんスキル発動:おっさん料理人』


 スキルおっさんを使うと、そんな声が頭の中に直接流れてきた。そして、その直後にピザなんて酔った勢いに宅配で頼んだことくらいしかないくせに、ピザの作り方が頭に流れてくる。


 始めに、寝かせておいたピザ生地を必要量とり、それを伸ばしていく。そして、そこにトマトソースを塗り、ピザの具とチーズをトッピングしていく。せっかくの異世界での初めてのピザということもあり、チーズは奮発して多めに入れてしまおう。


 そして、ピザの具を盛りつけた後、薪で温めたピザ窯の中にピザを投入。ピザ窯は温度が高いので、一、二分もすればピザが焼き上がる。なので、焦げない様に注意しながら、焼きムラができないようにピザ窯の中でピザを軽く回す。


 すると、焼けたチーズと小麦の香ばしい香りがしてきた。


「おおおっ、すげーいい匂いがしてきたぞ」


「ああ。食欲を刺激してくるな良い香りだな。ノエル、今のうちに冷やした酒とジュースを持ってきてくれ。そこのベンチに座って食べようぜ」


「おっさん、それナイスアイディア!」


 ノエルは顔を輝かせてそう言うと、俺がピザの焼き加減を見ているうちに酒とジュース、取り分けるような皿などを持ってきてくれた。


 ノエルはでき上がりがよほど楽しみなのか、まだまだかと椅子に座って足をパタパタとさせている。


 そんな無邪気な姿を可愛らしく思っている間もなく、ピザが焼き上がった。


「よっし、できたぞ!」


「おお! チーズがとろとろじゃんか!」


 俺がベンチに焼けたピザを置いて、ピザを切り分けている間、ノエルは前かがみになりながらピザを見つめていた。


 それから、ノエルは思い出したように氷の入っている桶から酒を取り出して、コップに注いだものを俺の近くに置いて、自分の分のジュースも同様に注ぎ入れた。


「ノエル。切り分けたぞ。早く食べおうぜ」


「おお! めちゃくちゃ美味そうじゃんか」


 ノエルはそう言って、わくわくした様子でピザに手を伸ばす。俺も冷めないうちにピザを一枚手に取って、ふーふーっと息を吹きかけてから一口食べてみた。


「おっさん! なんだこれ! めちゃくちゃ美味いぞ!!」


 ノエルは余程ピザの味に感動したのか、目を見開いてそんな言葉を口にした。それから、熱そうにハフハフとしながら美味そうにピザを食べていく。


 そして、そんなノエルと同じように俺もピザ窯で焼いたピザの美味さに感動していた。


 とろっと溶けたチーズの塩味と、トマトソースの甘さがピザの具材を包み込み、互いの味を相乗効果で高め合っていく。ピザ窯で焼いた生地ならではの、軽く焦げたカリっとした部分とふわっと柔らかな生地の共存している。そして、鼻に抜けていく香ばしさを感じながら呑み込むと、舌の上にはチーズとピザの具材に入っていた肉の美味い油が残る。


 それをーーよく冷えた葡萄酒で一気に流し込む。すると、チーズの香りと葡萄酒の香りが混じり合い、それが口いっぱいに広がった後に鼻に抜けていった。


「ああああっ! 美味い!!」


 やっぱり、葡萄酒と一番合うのはピザだ! そんな当たり前なことを再確認させられた。


「おっさん、おっさん! まだピザってやつ焼けるんだよな? たくさん食べていいんだよな?」


「おお、どんどん食え。俺はゆっくり酒飲みながら食ってるから、気にするな」


 俺はノエルにそう言って片手に持ったピザをもう一口食べて、葡萄酒を流し込んだ。


 隣でノエルが美味しそうに食べるのを眺めたり、窯の中でぱちぱちと燃えている薪の音を聞いたりしながら、俺はほっと一息をつく。


 ちょっと田舎で美味いものを食べて、心身ともに美味い酒を飲んでゆっくりする。


 ……これはちょっと、幸せ過ぎるんじゃないか。


 おっさんが欲しい本当の贅沢って、こういうことなんだよなぁ。俺はそんなことを考えながら、日本では到底できなかった贅沢を堪能するのだった。



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