第22話 パーティ結成記念
「えっと、それじゃあ、そういうことでよろしく……お願いします」
ノエルの話を聞き終えて、俺が今後もパーティを組んでいくことを了承すると、ノエルはぺこりと頭を下げてきた。
俺は畏まったようなノエルがいつもと違っていたので、小さく拭き出してしまう。
「今さら敬語なんて使うなって。今まで通りでいいからな」
「わ、わかった。よろしくな、おっさん!」
すると、ノエルは俺に笑われたことが恥ずかしかったのか、顔を赤らめてから、いつもの調子に戻った。
俺はそんないつも通りのノエルを見て、安堵のため息を漏らした。
「おう。よろしくな。さてと、それじゃあ、さっそく作っていくかな。まずは買ってきたノエルのジュース冷やしておかないとな。ノエル桶みたいなのあるか?」
「ああ、それならあるぞ」
ノエルはそう言うと、台所下から木でできた桶を取り出してくれた。俺はそれを受け取ってスキル『おっさん』をおっさん魔法使いの力で魔法を使って、桶の中に氷の塊を数個入れた。そして、そのままそこに水を入れて机の上に置く。
あとは、それにノエルが飲むジュースを瓶のまま入れておく。こうしておけば、飯を食べ出すころにはキンキンにジュースが冷えているだろう。
「なぁ、おっさん。本当に酒飲まないのかよ?」
「……やっぱりもらっておくとしよう」
「なんだよ。やっぱり、うちに気を遣ってたんじゃんか」
ノエルは笑いながそう言うと、ノエルのお父さんが残したという酒を数本桶の中に入れた。
まぁ、せっかく美味いツマミを作るのなら、呑みたくもなってしまうというものだ。
「それじゃあ、少し早いけど飯にするか。ノエルは氷水を張った瓶をよく桶の中で回してやってくれ」
「回す? こんな感じか?」
ノエルは首を傾げてから、瓶を持ってガラガラと氷の音を立てながら回し始めた。
よく海外の屋台とかでフローズンコーラとかを作っているのと同じような動きをしている。
このまま氷の中で瓶を動かしてくれていたら、ステーキが焼き終わる頃にはジュースも酒も冷えていることだろう。
ノエルのお父さんが残した酒は葡萄酒らしいので、ステーキの相性もばっちりのはずだ。
俺は葡萄酒とステーキで一杯やるのを楽しみにしながら、俺は椅子から立ち上がって、ノエルの家のキッチンに立つ。
それから、フライパンとフライ返しなど基本的な調理器具を借りて、俺はスキル『おっさん』を発動させる。
『おっさんスキル発動:おっさん料理人』
そんな言葉が脳内に直接聞こえてきたと思った瞬間、パパッと手が勝手に動いて料理を始めた。
ハイリザードの肉を解凍してから肉の温度を常温に戻す。その後、厚切りのステーキサイズに肉を切って、軽く塩を振って下味をつけた後、弱火で両面じっくりと焼いていく。
最後に強火で焦げ目をつけたから、皿に移して肉を休ませて肉の方は完成。
その後、パパッとにんにくのような野菜を炒めてから、しょうゆとみりんのような調味料でステーキソースを作って、肉にかけて完成だ。
「さっきから凄いい匂いがするんだけど」
振り返ってノエルを見ると、ノエルは鼻を引くひくとさせて俺の方を見ていた。どうやら、ちょうど俺の背中で完成したステーキが見えていなかったらしい。
料理が気になっているのに、律義に瓶を冷やしていてくれいたようだ。
俺がハイリザードの肉を盛りつけた皿をノエルに見せると、ノエルがおおっと歓声の声を上げる。
「すっげぇ! おっさん、プロみたいじゃん! ていうか、この街の料理人以上にプロじゃん!!」
俺はノエルの褒めてくれる言葉に得意げに胸を張る。
「まぁな。といっても、スキル『おっさん』のおかげだけど。多分、今回はいいとこのおっさんシェフってところだろ。さっそく食べてみようぜ、ノエル」
俺がそう言うと、ノエルはよく冷えた瓶に入った葡萄酒とジュースを桶から取り出した。
それから、俺たちは瓶の栓を抜いてコップに飲み物を注ぎ入れて、少し早い夕食を食べることにした。
ナイフとフォークでハイリザードのステーキを切ると、厚いはずの肉を簡単に肉を切ることができた。
「おおっ! なんでこんな柔らかいんだ?」
「余熱で肉の中に火を通したからな、低温調理したみたいに柔らかくなるんだよ」
「低温調理?」
「あれだ。手間をかけたから美味いものができたと思ってくれればいい」
俺は早くガーリックソースがかかった肉を口に運びたい欲に負けて、雑に説明を終わらした。
ノエルもちゃんと原理を知りたいわけではなかったらしく、俺の雑な説明で納得したフリをしてハイリザードの肉を見てよだれを垂らしそうになっていた。
俺はそんなノエルを見て少し笑ってから、咳ばらいを一つする。
「それじゃあ、いただくとしようか」
俺がそう言って、ノエルと一緒にハイリザードのステーキを口に運んだ。
「うっま! ハイリザードの肉が柔らかいのは知ってたけど、こんなに柔らかいのは知らないぞ! おっさん、うまい!」
「ああ! トカゲ肉ということもあって少し抵抗があったが、牛肉みたいなうまさがある。そこにガーリックソースが良く絡んで……」
俺はそこまで言って、コップについでおいた葡萄酒を手に取り、一気にハイリザードのステーキを流し込んだ。
葡萄酒の渋みフルーティーさが、ハイリザードの肉の油とガーリックソースを流し込んで口の中をすっきりとさせる。それでいて、後に残る葡萄酒の微かな甘みが口に広がる。
「あああああっ!! これだ! これがうますぎる!!」
「おっさん、どれだけ酒好きなんだよ」
「酒は好きだが、このツマミとの相性がいいんだよ! ていうか、この葡萄酒結構良いやつなんじゃないか? アルコール臭さがまるでないぞ」
「ああ。父さんも酒のみだったからな、結構良いやつを買ってきてたと思うぞ」
ノエルはそう言うと、俺と同じようにぐびぐびっとジュースを飲んでいた。
そうなのか。どうりでやけにうまいはずだよな。
日本にいた頃はコンビニとかスーパーで千円以下のワインを飲むのが普通だったんだよなぁ。
俺はそんなことを考えながら、大事なことを忘れていたとコップを持ち上げる。
ノエルがきょとんと首を傾げたので、俺はコップを軽く揺すって乾杯のジェスチャーをする。
「パーティを組んだ記念に乾杯、とかしてなかったと思ってな」
「そうだった! おっさん、乾杯しよう乾杯!!」
ノエルは急いでコップを持つと、俺が掲げているコップに笑顔で乾杯をしてきた。
「「乾杯!」」
俺たちは声を揃えて乾杯をした後、ハイリザードの肉を腹いっぱいになるまで食べて、楽しい夕食の時間を過ごしたのだった。




