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4-23 第二王子の僕が名探偵に!? -悪役令嬢ロサベルナ毒殺未遂事件-

―推理メモ―


巷で“完璧令嬢”と言われている、公爵令嬢ロサベルナが毒殺された!?

ソレイス王国の第二王子である僕タルテは、幽霊になった本人に依頼されて、犯人を捜すことになった。

でもこの状況は巷で流行っている、【恋愛小説】とそっくりだ。

悪役令嬢と聖女との対立や舞踏会での婚約破棄、その後発生した連続暗殺未遂も……。


小説と事件にかかわりはあるんだろうか?

そして、事件の真犯人は誰だ?

僕は頼もしい助手たち(?)と一緒に、王国に隠された謎に立ち向かっていく、と。


***


「王子様! 聖女なんかほっておいて、二人きりで真犯人を捜しますわよ」

「たーくん、たーくん。私さ、悪役令嬢が怪しいと思うんだけどなぁ(ひそひそ」


ふ、二人ともちょっと待って。今、事件の推理メモを書いてるとこだから!!

「王子様。わたしくしに、協力してくれないかしら?」

「いや……これどういう展開なのかな?」

「うふふ。まさか、可愛い幼馴染のお願いを聞いてくれない……なぁんて、言いませんわよね?」

「うーん。いつもと同じく押しが強いね」


 朝、僕がカーテンを開けて振り返ると、目の前には美少女の顔面アップがあった。

 整った顔立ちに、青い大きな瞳。

 長いまつ毛が揺れ、桜色の唇が緩やかな弧を描く。金糸のような髪が、さらりとその頬を流れた。

 その全てが、僕の心をざわめかせる。


「何かお願いがあるならさ……まず君の婚約者に言うべきなんじゃないかな?」

「もう婚約者じゃありませんわ。元婚約者・・・・ですわよ、! アナタもあの場にいたから知ってますわよね?」

「ああ……そうだったね。じゃあ、僕を責めにきたのかな。あのときどうして止められなかったんだって……」

「あら、そんなことわたくしが言うと思いまして?」


 彼女……公爵令嬢ロサベルナは、僕の幼馴染みだ。

 子供の頃に出会ったその日に、彼女は兄の婚約者だと紹介された。

 成人したら二人は結婚するはずだったのに。


「まぁ、本当はもっと別の言葉を頂きたかったですけど。今はやめておきますわ」

「別の言葉?」

「うふふ。内緒」


 彼女の手が、僕の頬へと伸びる。

 その指先は、頬を優しく撫で……なかった。

 魔法のようにするりと僕の身体を素通りしていく。


「え。これは一体?!」

「困りましたわよね。まったく触れませんのよ。物にも自分にも、やっぱりアナタにも……こほんっ、何でもありませんわ」


 よく見ると、今の彼女は少し透けていて、後ろの景色がぼんやりと見える。


「まさか、君……」

「ああ、勘違いはしないでくださいませね? アナタが考えている“世をはかなんで”とは違いますわよ」

「でも、この状況は、どう考えても……」

「わたくし、婚約者のことを好きだったわけではありませんから、あの件はノーダメージでしたの! ノーダメージ!!」


 彼女は少し頬をふくらませると、その細い腰に手を当てて説明を始めた。


「どうやらわたくし、あの舞踏会・・・・・の後に毒を盛られたようなのですの」

「毒!? どういうこと!?」

「わたくしにも分かりませんわ。ただ、ご安心くださいませ。今のわたくしはまだ死んでおりません」

「そうなんだ」

「ええ。生きていて、身体は公爵邸にありますの。王子様のキスで目覚められれば最高ですけど……こほんこほんっ。それは、またの機会に」


 いや……でも、なんで毒なんて?

 彼女はあの舞踏会・・・・・の被害者なんだぞ!

 思わず彼女の細い身体を抱きしめた。しかし僕の腕は彼女の身体を素通りし、そのまま空を切る。


「わわわ。いきなり何をしますの!」

「ごめん、つい……」


 ロサベルナは少し赤くなった顔をパタパタと仰ぎながら、またニコリと微笑む。


「だからね、王子様。わたくしに協力してくれないかしら?」

「協力って?」

「犯人を見つけ出して、ぎたんぎたんにしてやるんですの! ついでに毒の種類を聞き出して、解毒剤をゲットですわ!」


 ぎたんぎたんはともかく、解毒剤が入手できればロサベルナは目覚めるってことだよね?

 思わず僕は頷いた。


「さすがはわたくしの幼馴染! ではまず容疑者に聞き込みしましょう。捜査の基本ですわよ!」

「捜査の基本……そんな知識、どこで身につけたの?」

「乙女のたしなみですわ」


 彼女はそう言うと、ふわりと浮き上がった。

 透けているから当然だけど、やっぱりロサベルナは、人じゃないんだ……。


「ロサベルナ。今の君のことは他にも誰か気付いてる?」

「いいえ、王子様だけですわ。ここに来るまで誰にもわたくしの姿は見えなかったし、声も聞こえなかったようですの」

「そっか……」

「さ、行きますわよ! まずは……」


 ロサベルナが向かった先は、僕の兄である第一王子アルフレートの部屋だった。



<第一容疑者>


 アルフレート・フォルナード。ロサベルナの婚約者で、僕の双子の兄でもある。

 彼は今、昨日の事件が原因となって、自分の部屋で謹慎中だった。


「やぁ、タルテ。君がボクの部屋を訪ねてくるなんて珍しい。どうしたんだい?」

「実は、昨夜の舞踏会でのことなんだけどさ」

「ああ……ロサベルナとの婚約破棄については、あのタイミングしかなかったのさ。舞踏会・・・の開催は、ロサベルナがどうしても……と……おっと、これは失言だったかな」


 後ろを振り返ると、半透明のロザベルナが大きなジェスチャーでバツのポーズをとっている。

 やっぱり彼女の姿は僕にしか見えていないらしい。


「だからって、あんなやり方はないだろう? 彼女は周囲に“完璧令嬢”とまで言われていたのに。一体何の不満があって……」

「あの場で皆にも宣言しただろう? ボクは聖女であるナナミを愛してしまったんだ。“真実の愛”というやつだな」


 アルフレートが両手を広げ、大仰に肩を竦めた。

 いや、何言ってんのこの人。


「ナナミもボクを選んでくれた。それなのにロサベルナは……なんだったか……。そうそう、よりによってナナミをいじめていた、らしい」

「ロサベルナがナナミを?」


 そんな話、聞いたことがないぞ?

 気がつくとロサベルナは部屋中をくるくる飛び回り、大きなバツ模様を作っている。


「なぁタルテ、これは街で流行っている恋愛小説にそっくりな状況だと思わないかい?」

「恋愛小説?」

「主人公の聖女が王子達に愛されて、自分を虐めていた悪役令嬢に復讐を果たすんだ! ボクはあの小説のファンでね、主人公そっくりなナナミを応援しているんだよ」


 僕は呆れてため息をつき、こめかみを指で押さえた。

 巷で流行っている作者不明の恋愛小説。名前こそ違えど、何故か登場人物が実際にいる僕達とそっくりなんだ。

 でもあれはあくまで、物語の中の話。


「兄さん。本気でそんなことを言っているのかい?」

「ああ。勿論だよ」

「だから邪魔になった彼女を……?」

「おっと。早とちりしないでくれよ。ボクの役は、舞踏会で婚約破棄を宣言したところまでさ。そこから先は……むぐ。なんだ、口が急に……」


 そこまで言うと、アルフレートの様子がおかしくなった。なんだか苦しそう。

 よくみると……背後からロサベルナが彼の口を塞いでいる!


「な、何をしてるのさ、 ロサベルナ!!」

「あら。お気づきになりません? お口にチャックですわ」

「は?」


 「お口にチャック」って、何それ可愛いな。いやそうじゃなくて。え、なんで? 触れられないんじゃなかったの?

 ロサベルナは、アルフレートの口からパッと手を離すと、またふわりと浮き上がった。

 そして、僕の唇に指を押し当てる仕草をする。


「ところで。わたくしの声はアナタ以外に聞こえてませんって言いましたわよ?」

「げ!?」


 しまった。これでは、何もない空間に話しかけてるヘンタイさんじゃないか!


「ゲホゲホ、なにやらタルテはショックで独り言を言っているようだけど、すまない……ボクにも都合があってね」

「都合?」

「ああ、そうさ。ボクにはこの国の第一王子としてやらねばならないことが……」


 ロサベルナはアルフレートの目の前に移動すると、彼の額をビシッと指で弾いた。


「うっ! 今度は急に頭痛が! 今日は体調が悪いようだ。すまないが、お引き取り願えるかな?」

「いやまだ、聞きたいことが」

「婚約破棄に関しての話はナナミにも聞いてみればいい。……なぁタルテ、真実は決して一つではないんだ……」


 ダメだ。話が通じない。だから僕はこの兄が苦手なんだよなぁ。

 仕方なく部屋から出ると、ロサベルナが露骨に嫌そうな顔をしている。


「ナナミ。あの女に話を聞くなんて、うげーですわ」

「うげーって」

「アナタは嫌じゃないですもんねー。聖女ナナミとも仲良しですもんねー?」

「彼女の世話係ってだけで、仲良しなわけじゃ」

「大体それがおかしいのですわ。なんで王子様が、異世界人の、しかも同じ年頃の女性の世話係になりますの? どうせ、王様の差し金ですわよね」

「う……それは」


 ロサベルナは、僕の目をじっと見つめてきた。

 その視線に、思わずドキリとすると、ロサベルナはぎゅっと唇をかむ。


「ぐぬぬ……やはり重要容疑者ですわね、あの女……」



<第二容疑者>


 聖女ナナミ。

 三年前に突如異世界から王国に現れた、黒髪の聖女様だ。

 彼女の出現は、この国に伝わる聖女伝説と一致してるらしくて、今は王家の名のもとに城で保護されている。


「あー、たーくんだ。昨日ぶりっ! 元気してた?」

「うん。ナナミ、少し話をしてもいいかな?」

「お話? 嬉しい! なにかな、なにかな?」


 頬に手を当てて、ニコニコと微笑むナナミ。

 ロサベルナとはまた違った意味で可愛い子だ。

 後ろではロサベルナが「ぐぬぬ……たーくんってなんですの?」と小声で文句を言っている。


「実は……」


 言いかけたときに僕は違和感に気付いた。


「あの……ナナミ。どうして身体が半透明なのかな……?」

「えーとねえ。昨夜の舞踏会の後、誰かに毒を盛られたーみたいな?」


 ゆっくりと顔をベッドに向けると、そこには眠ってるようにピクリとも動かない、ナナミの身体がある。

 これは……もしかして……?


「誰とも話せなくて困ってたんだよぉ。ねぇ、たーくん。よかったら後で、毒を盛った犯人を捕まえるのに、協力してくれないかなっ?」


 僕は頭を抱えた。

 なんなんだよ、この状況はー!!!

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