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4-13 自重しない天才錬金術師は研究に没頭したいので国を作ることにした

 天才ではあるが、人して問題のある錬金術師のヴェルナー。誰にも邪魔されず好きに研究できる環境を求めた彼は、自分で国を作ることにした。

 犯罪者となった彼を捕らえようとする連中を振り切り、危険地帯の中にあるとされる都市の跡を目指す。そこを中心に国を作るためだ。

 自らの開発した規格外の性能をもつ道具を惜しみなく使い、一切の躊躇なく障害を排除する。すべては錬金術の研究に没頭するために。

 こうして錬金術師ヴェルナーの常識外れな国作りが始まった。

 人里離れた森の中、甲冑を着た騎士たちが派手に吹き飛び、魔術師たちは涙と鼻水で顔面をぐちゃぐちゃにしながら激痛にのたうちまわる。


「ヴェルナー、今すぐ抵抗を止めて我々と一緒に来るんだ!」


 そんな中、いかにも役人風といった感じの中年男性が威圧するように吠えた。もっとも、後ろ手に拘束されて地面に転がっているので迫力はない。


「俺の国を作ろうとしてたのに邪魔しにきたんだから、これは正当防衛だろ?」

「ふざけるな!」


 顔立ちは整っているほうだが、無精ひげとボサボサの髪に不健康そうな肌ツヤのせいでパッとしない印象を受ける色白で金髪碧眼の20代中頃と思しき細身の青年。

 ヴェルナーと呼ばれた人物は読んでいた錬金術の専門書から顔を上げ、岩に腰かけたまま呆れ顔で地面に横たわる男性を見下ろした。そんな彼の態度が男性をさらにいらつかせる。


「この違法錬金術師の犯罪者が!」


 この国で錬金術師を名乗って生計を立てるには、国家資格を取得して国に登録することが法律で決まっていた。だが、ヴェルナーは錬金術師を名乗っているが、無資格で登録もしていない。


「他にも商隊の襲撃に商会からの略奪、貴族への違法な投薬、それと王家の所有する土地の汚染と破壊もそうだ!」


 男性は肩で息をしながら彼の罪を一気にまくしたてる。


「ぼったくりの密輸組織や悪徳商人から研究に必要な物をいただいただけだし、連続強姦犯の男爵が薬の副作用で男として不能になっても誰も困らないと思うが……。それに、1人も死んでないぞ?」

「そういう問題ではない!」

「あの大穴をあけて周囲を焼け野原にした実験だって、ちゃんと無人で建物もない土地を選んでやったし……」

「あそこは王家の保養地だ! ショックのあまり王妃様は数日、寝込んでしまったというのに……」


 まったく悪びれもしないヴェルナーに、今度は男性のほうが呆れてしまう。真っ当に生きてる人間に被害を出さなければ何をしてもいい、という考えの彼に法律を守るという意識はない。


「ご主人様、敵対者の制圧を完了しました」


 そんな時、メイドらしき女性が気配を感じさせずに彼らのそばに現れ、凛とした声で報告する。


「ご苦労、アイン。君はこのまま出発の準備をしてくれ」

「かしこまりました」


 アインと呼ばれた20歳前後に見える女性は、ヴェルナーに深々とお辞儀をすると、貴族令嬢のように優雅な足取りで彼らの前から立ち去った。

 この国では見かけない紅い瞳とポニーテールにまとめた銀髪、美しいがやや表情の変化に乏しい顔、長身で足が長くて巨乳という理想的すぎるスタイル、やたらと露出度の高いメイド服を着て恥ずかしげもなく人前に出る性格。

 なにより、ヴェルナーが開発した催涙ガス弾を使ったとはいえ、接近戦もできる魔術師たちを格闘で圧倒した人間とは思えない身体能力と戦闘センス。それらの意味することを理解した男性が険しい表情で問い詰める。


「あれは、人造人間(ホムンクルス)だな?」

「そうだけど」

「貴様のことだ。禁術と知ってて作ったのだろう?」

「助手が必要だったからな」


 あっさりと認めるヴェルナー。生きた人間を材料にして作られることが多い人造人間(ホムンクルス)は、その人命を軽視する製造方法から国によって禁術に指定されていた。

 アインも例外ではないが、少なくとも不治の病を患っていた時の本人の意思を最大限に尊重し、苦痛や恐怖も与えないよう配慮して錬成している。


「マスター、こっちも終わったの」

「ツヴァイもご苦労」


 あまりにも平坦で抑揚のない声がし、また別の少女が彼のそばにやってきた。


「なっ……!?」


 少女の姿を見た男性が思わず動揺する。なにせ、着ていたメイド服が戦闘でボロボロになり、半裸のあられもない姿になっていたからだ。

 だが少女の身体には、かすり傷ひとつない。さらに、自分の恰好を気にしてる様子もなかった。


「じゃあ、服を着替えてからアインの手伝いに行くんだ」

「了解なの」


 そう言って立ち去るツヴァイ。ツインテールにした人では珍しいピンク色の髪に透き通るような青い瞳、少し幼さの残る可愛らしい顔つきだが無表情なロリ巨乳。見た目だけなら、まだ10代中頃の少女の範疇におさまっているだろう。

 しかし、甲冑を着た騎士を片手で軽々と投げ飛ばす怪力、剣や槍では一切傷つかない身体、感情があるとは思えない言動。


「あれも人ではないな?」

「まあ、隠すことでもないからいいか。俺が作った自動人形(オートマタ)だよ」


 険しい表情のまま男性がたずねると、ヴェルナーは世間話でもするみたいに答えを口にする。実は、ツヴァイにも別種の禁術が使われていたのだが、そこまでは男性も考えが及ばず聞かれなかった。

 ここまで人に近い姿で高性能なものは、おそらく存在しないだろう。人として問題はあるが、彼が世界最高クラスの錬金術師なのは確かだった。


「ご主人様、出発の準備が整いました。いつでも出られます」

「というわけだ。じゃあな」

「待て! 貴様は罪人として――」


 数分後、アインに促されて立ち去ろうとするヴェルナーに対し、必死に止めようとする男性。


「コイツは餞別だ。後で使うといい」


 1人の死者も出さず、アインとツヴァイに制圧された騎士や魔術師たち。彼らの治療に使うようオリジナルの回復薬をいくつか地面に置くと、ヴェルナーは1度も振り返ることなく歩いていく。

 そして、3人は異世界の乗り物である自動車を彼が錬金術で再現した2両に分乗し、新たな目的地に向かって走り去った。


 ◆


 強烈な陽射しが照りつける中、過酷な環境と数多くの危険な魔物が生息することから『死の荒野』と呼ばれ、ほとんど人の立ち入らない荒れ地をヴェルナーたちの乗った2両は走っていた。


「チッ、またか……。ツヴァイ、片付けろ」

「了解なの」


 もう何度目になるか分からないサンドワーム、車ごと飲み込みそうな巨大ミミズの集団の襲撃を受け、運転中の彼はいらだたしげに舌打ちをしながら同乗する少女に撃退を命じる。

 現代地球の4輪軍用車両を模したデザインの車にはルーフトップに全周シールド付きの銃座があり、天井のハッチを開けて車内から直接そこに上がったツヴァイは、同じく現代地球のガトリングガンを再現した武装で攻撃を開始した。

 それなりの速度で荒れ地を走りながらの射撃であったが、自動人形(オートマタ)である少女は脅威度の高い個体から順に狙い、正確無比な射撃で淡々と敵を排除していく。

 後続の8輪装甲輸送車を模した車には運転手のアインしか乗っておらず、人手不足の彼らにとってはツヴァイが現状では唯一といっていい攻撃手段だった。


「マスター、終わったの」


 それでも問題なくサンドワームの集団を殲滅した少女が戻って報告する。退屈や疲れを知らない少女は、報告を終えると微動だにせずフロントガラス越しに変わりばえのしない景色を眺めていた。

 そうして陽射しが傾く頃、荒野の中に悠然とたたずむ都市の廃墟、これから彼の理想の国となる場所へと辿り着く。


「まちがいない。ここだ」


 都市の外縁にあたる所に車を停めて外に出たヴェルナーは、夕日に照らされた廃墟群を見つめながら嬉しそうに声を上げた。危険地帯の中にあり、どこの国の領土でもないここなら自由な環境が手に入る。そう考えて選んだ土地だった。

 錬金術の研究に没頭してただけで犯罪者扱いされた国を出発してから10日目、この世界における移動手段と道中の危険度をふまえると驚異的な速さでの到着となる。

 優れた魔法技術で巨万の富を集めて繁栄した国の王都、かつて世界で最も美しいとまで言われた都市が彼らの眼前に広がる廃墟だ。

 数百年前に一夜にして王都が滅び、王国崩壊につながったと歴史書には記されているが、真相は未だに謎のままで歴史家たちの頭を悩ませている。


「あ~、調査は日が昇ってからだな。お前たち、野営の準備をしてくれ」

「かしこまりました」

「了解なの」


 頭をかきながら残念そうに話すヴェルナーがここで野営すると決めた日の夜、彼らは新たな敵集団の襲撃を受けた。


「アイン、ツヴァイ、好きに武器を使っていい。アイツらを片付けろ」

「お任せください、ご主人様」

「マスター、任せるの」


 あたりに漂う強烈な腐臭に顔をしかめ、鼻をつまみながら命令するヴェルナー。対照的に普段と変わらない様子でリボルバー式グレネードランチャーを構えるアインと、車の銃座に上ってガトリングガンを構えるツヴァイ。

 そこからは一方的だった。数は多いが動きの遅い人型ゾンビはグレネード弾でまとめて吹き飛ばし、動きの速い獣型ゾンビはガトリングガンの掃射で薙ぎ払う。

 臭いに耐えかねたヴェルナーが輸送車の後部キャビンから作業用マスクを探して着けて戻ってくると、ほとんどのゾンビが殲滅されていた。


「大したことない連中だったが、臭いがなぁ……。消臭剤でも作る――」


 無数に散らばるゾンビどもの破片を見つめ、対策を考えようとした時、不気味な咆哮とともに巨大な塊が空から下りてくる。


「そうか、お前が親玉だな。ドラゴンゾンビ!」


 2階建ての家よりも大きなゾンビ化したドラゴン、そいつが濁った眼で声を上げた彼を睨んでいた。過去の記録から多くの国で災害級の魔物に指定され、国家規模の戦力を総動員して対処する必要があるとされるドラゴンゾンビ。

 こうしてヴェルナーたちは、たった3人で最強クラスの魔物を討伐することになった。

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