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その魔女に祝福を アフターストーリー  作者: 晴海翼
魔導大国再発進

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32.少年王とその家臣

 法導歴0517年。

 マギア前国王、ルプス・アリウム・マギアは世界に撒かれた火種を拡大しようとしていた。

 背後に立つ世界再生の民(リヴェルト)の思惑通りだと理解しつつも、自らならば出し抜けると自信を持っていたからだ。


 ルプスなりの根拠はあった。永遠の命を手に入れたという優越感だ。

 悪意と欲望が交差し、マギアは独裁が加速していく。


 しかし、目論見は失敗した。

 ルプスの独裁を受け入れられなかった解放軍が、彼を討ったからだ。

 

 その御旗となった少年。

 マギア王家の正当なる後継者、ロインは二度とこのような争いが生まれないように、今日もマギアと向き合う。


 ……*


 それから一年が経過した。

 自分の背丈にはそぐわない玉座に少年はぎこちなくも腰を下ろす。

 まだ真の意味では身も心も相応しくない。けれど、逃げる訳にもいかない。


 それに、この椅子に座るのは嫌いという訳ではなかった。

 前王のように権力を誇示できるからではない。自分を支えてくれる者達の顔を、一斉に見る事ができるからだ。


「復興の状況はどうなっていますか?」

「連日、兵が総出で各地に赴いています。

 皆、ロイン様の下で働くようになってからモチベーションは高いですよ」


 身に着けた義手から金属の擦れる音が漏れる。

 ロインの腹心となったマクシスは、今日も主君を褒めたたえる。


「まーた始まったわい」

「なんだと!?」

 

 オルテールは毎回、同じおべっかを聞かされてうんざりだと呆れた仕草を見せる。

 無論、彼とてロインを軽く見ている訳ではない。

 子供だからと過度に褒めちぎるのは教育に良くないと窘めているつもりだった。


 事実、マクシスのそれを家臣達は連日連夜聞かされている。

 尤も。ロインを褒めちぎる彼はどちらかという親の目線である事も感づいていたが。

 

「そう言うじいやだって、僕が子供の時は毎日褒めちぎってくれていたじゃないか」

「む……」


 二人を諫めるようにオルガルが割って入る。

 彼の言う通り、オルテール自身もよくオルガルの事を褒めちぎっていた。

 というより、今も褒めちぎっている。


「フン。ジイさんも人のことを言えた立場ではないな」

「なにを!」


 オルガルの言葉を受け、自分は間違っていないと鼻息を荒くするマクシス。

 態度が鼻についたのか、オルテールは彼の様子に反応を示してしまう。

 またも一触即発の雰囲気が育まれようとしていた。

 

「じいや!」


 子供が頑張っていれば、大人は褒めるものだ。

 誰一人悪い事をしていないというのに、どうしてこう小競り合いができるのか。

 若干呆れつつも、主としては止めなくてはならない。

 オルガルが先ほどよりも強い口調でオルガルを嗜めようとした時だった。

 

「落ち着いてください。マクシスの気持ちは毎日嬉しく思っていますよ。

 オルテールさんも、オルガルさんの成長を見守っていたんですから当然だと思います」


 オルガルに代わって場を諫めたのは、玉座から立ち上がったロインだった。

 一喝するのではなく、感謝と理解を示す。少年の高い声を前に、部屋が静まり返る。


「ロイン様……」

「陛下がそう仰るのであれば……」


 一連の様を見せつけられ、家臣達は苦笑した。

 無理もない。この場で一番大人だったのは、声変わりもしていない少年だったのだから。

 

 ……*


「ルプスと懇意にしていた貴族たちはその殆どが行方を晦ましています。

 国民の反感も大きいですから、表に出てくることはないでしょう」


 続けてぺラティスが、前国王に賛同していた貴族達の調査結果を報告する。

 ルプス亡き今、脅威ではないとの判断を下していた。


「そうですか、ありがとうございます」


 ぺラティスの報告に、ロインは僅かだが表情を曇らせた。

 前国王の独裁政権に協力していた者達だ。失脚は免れないとしても、排除まではしたくなかった。

 

 それは少年の胸中に宿る、僅かな不安から来るものだ。

 もしも排除という方向に舵を切ってしまえば、いつか自分もルプスのように独裁者となってしまうのではないか。

 自分は違う。違う道を歩みたい。そう考えているからこそ、失脚した貴族達の行方を知りたがっていた。


「苦労を掛けると思いますが、引き続き調査をお願いします」

「畏まりました」


 実際に逢ってみなくては、自分がどんな決断を下すかは判らない。

 けれど、マギアの全てと向き合いたい。


 その時が訪れるまでは、マギアという国の復興に全力を尽くそう。

 王となった少年は、今この瞬間も成長を続けていた。


「皆さん。提案があるのですが――」


 マギアの復興に向けて、ロインは家臣へ自分の考えを話す。

 首を縦に振ってもらえるとは限らない。けれど、繋いだ縁の糸は決して細くないと確信をしていた。


 ……*


「よぉ、ロイン坊。少し背が伸びたか?」


 小さい身体にぎっしりと詰まった筋肉を上下に震わせながら、大きな口を開くのは小人族(ドワーフ)の王。

 ギルレッグ・ドルザークはロインの要望に応えるべく、マギアを訪れていた。


「ええ、ほんの少しですが」

「いいことだ。子供は飯を食って、どんどんデカくならねぇとな!」


 照れくさそうにするロインへ、ギルレッグは豪快に笑いながらも頭を乱暴に撫でる。

 瞬く間にロインの髪がかき乱されていくが、どことなく彼は嬉しそうにしていた。


「おい、あれには何も言わないのか?」


 主君が嬉しそうにしている手前、表立って否定は出来ない。

 だんまりなのも腑に落ちないと、マクシスは小声でオルテールへ問う。

 

「たわけが。あれは父性というものだろう」


 だが、オルテールは納得をしているようだ。

 むしろ、過去を思い出しているのか若干涙目になりながら頷いている。


「そういうものか……」


 マクシスは若干納得がいかないものの、オルテールの姿を見てこれ以上は何も言えない。

 ならばせめてと自分もそうありたいと、仲睦まじい様子のロインとギルレッグの様子を凝視し続けていた。


 ……*


「――と、いうわけで小人族(ドワーフ)の王であるドルザーグ陛下たちにお越しいただきました」


 ひとしきり再会を喜んだロインは、改めて家臣へギルレッグを紹介する。

 少年が今回、小人族(ドワーフ)の王を頼ったのは復興の為である。


「おう、小人族(ドワーフ)が建てる建築は一級品だ。

 ワシらが来たからには、百人力だと思ってくれ!」

 

 固く握りしめられた拳が振り上げられると、大きな歓声が沸く。

 中には小人族(ドワーフ)の技術を学ぶ機会を得られた事に、強く興奮している者もいた。


「の皆さんが協力してくださっている間は、僕も皆さんに同行させてもらいます。

 力足らずなことは重々承知していますが、よろしくお願いします」


 続けてロインが深く頭を下げる。これはギルレッグの提案でもあった。

 王が、少年が。身を粉にして国の為に何かをする。

 その姿に心を打たれないはずがないと。


 勿論、反対意見がなかった訳ではない。

 前政権の残党がどこに潜んでいるか判らないという不安から、主にマクシスが難色を示していた。

 

 ただ、ロインの意思は固い。マギアの復興も、自らがきちんと正しい姿を国民に見せたいと強い思いをマクシスへと告げた。

 結局、マクシスが根負けした形で彼自身が護衛につくという話で落ち着いたのだった。

 

 彼らが最初に選んだ場所は魔術大砲(マジック・キャノン)によって存在が消滅した村、ハナニラ。

 当時の凄惨さを知っているからこそ、一刻も早く復興をさせたい場所もであった。


 ……*

 

「ロインくん、よろしくね!」


 自分より頭ひとつ以上小さな子供が、満面の笑みで見上げている。

 いつも見上げてばかりの自分にとっては新鮮で、ロインも無邪気な笑みを浮かべていた。

 

「こっちこそよろしくね、カルフットくん!」


 その子供の名はカルフット。

 ギルレッグの息子であり、彼は「今度は息子も連れてくる」という約束を守った形だ。


 尤も、ギルレッグ自身にその気がなくてもカルフットはついてきただろう。

 妖精族(エルフ)の里で皆の冒険譚を耳にして、外の世界に憧れを持っていたのだから。


「父ちゃんが言ってたけどね、マギアには宝石族(クリスタ)が遺してくれた魔石があるでしょ?

 だから、魔力もたくさんあるし小人族(ドワーフ)の建築とも相性がいいかもしれないんだって!」

「本当? よかった! やっぱり、ギルレッグさんは凄いんだね!」

「へへ、父ちゃんは凄いんだよ」

 

 身振り手振りで、マギアの復興は大丈夫だとカルフットは説明する。

 自分には詳しい事が解らないけれど、父が言うなら間違いない。

 そんな信頼が、ひしひしと伝わってくる。


「でも、マギアにはいろんな魔道具があったりするんでしょ?

 後でぼくに教えてよ!」

「うん、もちろんだよ!」


 子供同士だからか、ロインは普段と違う無邪気な笑顔を見せる。

 カルフットの人懐っこさも加わり、二人はあっという間に仲を深めていった。


「あんなに笑っているロイン様を見たのは、初めてかもしれないな」


 二人の子供を眺めながら、マクシスがぽつりと呟く。

 王という大役を押し付けた負い目が、彼の表情を曇らせた。

 

「なら、いいじゃねぇか。それならロイン坊は、まだまだ幸せになる余力があるってこった!」

「幸せになる余力……?」


 憂いの表情を一蹴するかの如く、ギルレッグは豪快に笑って見せる。

 そのまま、困惑をするマクシスの背中を力いっぱい叩いて見せた。


「ああ、ロイン坊にいろんなものを触れさせてやりゃいい。

 アイツは強いんだ、そうすりゃ勝手に幸せを膨らませていってくれるさ!」

「そういうものですか……」

「ああ、そういうもんさ!」

 

 価値観の違いか。それとも、人間よりも少しだけ永い時間を生きてきたからか。

 自分よりも的確にロインの様子を理解しているギルレッグに、マクシスは僅かな口惜しさを覚える。

 

 一方で、彼は「触れさせてやればいい」と言ってくれた。

 はっきりした言葉ではないが、「ロインが誰よりも信頼しているのはお前だ」と言われている気がした。


 その信頼には答えないといけない。

 だからこそ、マクシスは己の両頬を叩いた。


 一日、一日が良い日だったと主君に思ってもらえるように。

 それこそが、自分の我儘に付き合ってもらった恩返しだから。

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