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時短の為なら多少の代償は些事となる

 料理屋で空腹対策の食糧を調達、雑貨屋で回復アイテムを除いた必要物資を補充、最後に武器屋で新たな武器を購入。

 最初は九千近くあったガルがすっからかんになってしまったが、これでエリア攻略の準備は整った。


 街の外に出たところで新しく買った武器を装備する。




————————————


・アイアンソード

 一般的に普及されている鉄製の長剣。

 これを問題なく扱えれば、晴れて一人前と言えよう。


————————————




 ぶっちゃけ性能は、ロングソードよりちょっとマシになったくらいだ。

 本当はもっと強いやつがあれば良かったってのが本音だが、この街に売ってあるのは初期武器かそれよりちょっと強いやつの二択しかなかったから仕方ない。


 ——とはいえ、ロングソードもまだガンガン使うけど。


 外したロングソードは、セカンダリー装備の枠に移動させる。

 装備が完了すれば、アイアンソードに横付けするようにして再びロングソードが出現した。


 それを見て、サンゴが首を傾げて訊ねてくる。


「二刀流でもやるつもりなの?」


「いいや、基本は一刀のままでやるつもり」


 一応、このゲームの装備には耐久値の概念があり、名前の通り数値がゼロになるとその装備は破損して使えなくなってしまう。

 そうならないように運用には注意しなきゃならないが、だからといって戦う相手に合わせていちいち武器を変更する為にメニュー画面を操作するのもめんどくさい。

 なので、こうしてまだ使う予定のないセカンダリー枠にロングソードを装備しているってわけだ。


「言っとくけど、やろうと思えば二刀流でも戦える自信はあるぞ。でも、それだと多分——」


 近くに通行人がいないことを確認してから、ロングソードを鞘から引き抜き、片手での双燕斬の発動を試みる。

 ……が、結果は不発。

 アビリティを発動した時特有のエフェクトがかかることもなく、そこそこの速さで長剣を二連撃で振り払うだけの通常攻撃が繰り出されただけだ。


「あー、やっぱこうなるよな。とまあ、見ての通りだ。アビリティが発動できない」


 両手で持つ武器は、ちゃんと両手で扱えってことか。


「そういうわけだから、お前も下手に二刀流には手を出すなよ」


「出さないわよ」


 ため息と共にジト目を向けられる。

 何意味不明なことほざいてんだコイツ、と言わんばかりの冷え切った眼差しにちょっと背筋に悪寒が走る。


 うーわ、こっわ。


「……それはそうと、おもクソ人が多いな」


「連休の遊園地並みに人がいるわね。もしかして森の中もこうなってるのかしら?」


「恐らくな。そんで間違いなくこれからもっと増えてくるぞ」


 念願の一般販売開始。

 その一発目の土曜日。

 夏休みシーズン。


 これだけの要素が重なれば、街とチュートリアルエリア、それからこれから攻略するエリア——アルファーゼの森が新規プレイヤーで溢れかえることになるのは目に見えている。

 俺らだって、そのうちの一人なわけだし。


 早いうちに次の街——いや、三つ目の街まで行きたいところだ。

 確か序盤の拠点だとそこが一番規模がデカかったはずだからな。


「よし、そんじゃエリアが新規勢に埋め尽くされる前に突破しちまおうぜ」


「そうね、最短で攻略しましょう」


 意気込んだところで、森に向かって一歩踏み出す——、


「……あ、でもちょっと待って。まだHP調整してなかった」


 ハラキリハラキリ〜っと。


 流れるようにロングソードを脇腹に突き刺す。

 昨日の一発回答で感覚は掴めたおかげで、綺麗にミリ残しに成功する。


「うっし、完璧。じゃ、改めて出発するか」


「………………ええ」


 ……あの、その掃き溜めを見るよう目で見るのはのやめてください。




   *     *     *




 森の中のモンスターのステータスは、チュートリアルエリアに出現していた奴らと比べると、確かに高めに設定されている。

 HPは当然として、耐久、素早さ、それと恐らく攻撃力も強化されているのは、現在進行形で対峙しているオオムカデの動きを見れば明らかだ。


 それからAIも強化されているのか、行動と行動の間の無駄な待機モーションがなくなったり、チュートリアルエリアでは見ることのなかった攻撃パターンが増えたりしている。

 チュートリアルエリアにいたオオムカデと同じ感覚で戦えば、想定外の攻撃に反応しきれず被弾するハメになるだろう。


 つっても——、


「こっちも強くなってるから、相対的には変わらねえけど……な!」


 むしろ弱くなってるまである。


 暫しの様子見の後、迅鋒穿——大きく踏み込み、両手で持った長剣から放たれる突き——で襲ってきたオオムカデの頭胸部らへんを甲殻ごと貫けば、瞬く間にHPゲージは全損、肉体はポリゴンへと四散した。

 武器の損傷をケチる為にロングソードで戦ったが、SPの大半を火力方面にぶち込んだのと火事場の底力で攻撃力が大幅に上昇しているおかげで、気合い溜めのバフを乗せずとも余裕のワンパンを可能としていた。


「これならアーツを使うまでもなかったかもな」


 雑魚敵相手なら通常攻撃だけでも十分無双できそうだ。


 ——まあ、習熟度稼ぎもあるから封印まではしないけど。


 それに縛りを課した状態で舐めプすると大抵碌なことにならない。

 具体例を挙げると、思いがけないところでカスダメ食らってあっさり死ぬ。

 これまで幾つものゲームをしてきた経験からして間違いない。


 ……と、そうだ。


「おーい、そっちは片付いたかー?」


 振り向いた瞬間、俺の真横ををウルフが物凄い勢いで通過した。

 すぐさま目で追えば、そのまま近くの木に激突し、敢えなくポリゴンとなって爆散した。


「ちょうど今、片付いたところよ」


 視線を戻した先で応えるサンゴの傍らでは、首をへし折られたであろう猪の怪人(オーク)が二体仲良く地面に斃れていた。


「……相変わらず容赦の無い戦い方だこと」


 霧散するオークの亡骸を眺めながら思わず言葉を漏らす。


 つーか、倒すの早えな。

 モーションとかの観察に時間を費やしたとはいえ、俺がオオムカデ一体倒してる間に三体もモンスターを撃破してやがるじゃねえか。


「俺もいるんだし、もっとのんびり戦ってもよかったのに」


「そうはいかないわ。たとえ相手がどれだけ弱かろうと、手を抜けば思わぬところで痛い目を見ることになる。そんなの私のプライドが許さないわ」


「ほんと戦闘に関しては完璧主義なことで」


 俺と違ってダメージ食らっても死にはしないのに。

 けどまあ、そのストイックさがサンゴの強さの秘訣でもあるから、別にどうこう言うつもりはないが。


「それより……ウォーミングアップはこれくらいで十分かしら?」


「ああ、こっちの敵の強さも大体掴めたし、もうボスに挑んでも問題ないぜ」


「ならボスフロアに向かいましょうか」


「了解」


 こっちよ、と何の迷いもなく森の奥へ進むサンゴ。

 昨日の時点でボスフロアまでのルートは把握済みとのことだそうだ。


 フィールド探索もRPGの醍醐味ではあるから、出来ればエリアの隅々まで回って歩きたいところではあるが……それはまた次の機会にするとしよう。

 アビリティの多くは、発動する為に決められた動作(※ゲーム内用語では”型”と言われてるらしい)をする必要があります。

 殆どの型はそんな複雑なものではなく、思考補助とモーションアシストもあるので、型が取れずにアビリティが発動できない……なんて事態にはなりませんが、それでも想定外の挙動からは発動しないようになっているので、思考補助の通りに動くようにしたほうが賢明です。


 主人公のように予備の武器をセカンダリー武器にセットするプレイヤーは、少数ではありますが一定数います。

 ですが、大半は咄嗟の切り替え動作、判断が上手くいかなかったり、武器によってはAGIに下降補正がかかったりとデメリットも目立つので、下手に装備するより一枠空けておいた方が普通に良いです。

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