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Chapter 1 第四章「慣れてはならない事」

「酷い怪我だな。今処置するから絶対動くな!」

「す、すまない」

「気にするな」

ルーカスは大量に出血する脇腹に右手を添えると自分の血液で強化された魔力を使って高度な治癒魔法を使い始めた。

その後ろでは、

「痛い....痛い痛い痛いぃ〜!」

「止血剤で止血する。ちょっと我慢してくれよ」

そう言いながらルークは“鞄の書”と呼ばれる“未来を見た旧人類の産物”の1つである魔術書を取り出すとページに描かれた単語を魔力を宿した指でなぞり、出現した魔法陣の中から止血キットを取り出すと封を破り、傷口に振り掛けた。

「ガアアァァァッ!」

「もう少し我慢、な」

「包帯が足りん!誰か持ってるか⁉︎」

ルークはすぐさま単語を指でなぞり出現した魔法陣の中から包帯が大量に入ったパックを取り出すと防衛隊員に投げ渡した。

「助かる!」

「さっき俺を治癒してくれたB型医官は居るか!。高度な治癒魔法による処置が必要な仲間が居る!」

「待ってろ!今行く!」

損傷した内臓の再生を終わらせ、魔力で傷口の縫合しながらそう叫んだルーカスは軽く舌打ちをした。

「(こう言う高度な治癒魔法は、慣れないなぁ!。・・・まぁ慣れてはいけないんだろうけどな)」

「(こう言うのには慣れたくないな。慣れるって事は、それだけ経験してるって事なんだから....これは、あまり経験したくは無いな)」

ルークがそう思う後でルーカスは縫合を終わらせると隊員に安静にする様に伝えると脚を喰われたと言う防衛隊員の方へ走った。

「ッ!」

「止血帯で出血は抑えた。やれますか?」

「了解だ」

「(こう言う光景にはあまり慣れたくは無いが、血液パックが空になるのには慣れた)」

「縫合出来る物は⁉︎。医療班は何してんだ!」

ルーカスは鞄の書を取り出し、ページに書かれた単語を複数なぞり、魔法陣から“外科用ホチキス”・“止血バンド”・“医療ポーチ”を全て取り出すと防衛隊員の方を向いた。

「必要な物があったら持って行け!」

「助かる!」

「ありがとうございます」

「にしても、負傷者の数が多いな」

ルーカスがボソッと呟いた問いに同期のワイミーが通信機経由でルーカスに答えた。

『ちょうど新入や新兵の大半がシフトの時に大軍が来たんだよ。熟練は他のブロックのシフトや避難誘導のせいで、到着が遅れた』

『ルーカス達が、戻って来てくれて正直助かった。ゴブリンに集中出来た』

「そうか。・・・不運、って事か....」

『そんな言葉で片付けたくは無いが、それ以外に当て嵌まる言葉が思いつかんな』

ルーカスはなんとも言えない様な表情をしながら脚の再生治療を進めた。すると後ろから聞き慣れた声と音がルーカスらの耳に入り込んだ。



「シュトルツさん....」

第04調査班班長のシュトルツは馬から降りるとキョウカのもとへ歩み寄ると到着が遅れた事を詫びた。

「とんでもないです。貴方が謝る事では....」

渋々と頭を挙げたシュトルツは目の前に広がる惨状を瞳に写し込むと表情を僅かに鋭くした。

「少しでも被害を減らす為に、戦っては居ましたが....」

「班長。あそこでブラボー型2体、増援で来た1体とヒューマンタイプの群を抑えて居なかったら、」

「分かっています。判断を悔いたつもりはありません」

軍師のソーズマンにキッパリとそう言い返したシュトルツは負傷者手当ての為にその場を後にした。

「シュトルツさん....」

「班長」

「?」

レバーアクションライフルの“ショプリーズ”を背中に背負ったシャルロッテはゆっくりとキョウカに近付いた。

「初陣早々、お疲れ様です」

「・・・ありがとう」

「顔色が優れませんね。どうかなさいましたか?」

「・・・やはり、実戦は上手く行かないものね」

僅かに微笑みながらそう呟いたキョウカを見たシャルロッテはゆっくりと笑みを作り出すとゆっくりとキョウカの肩に手を添えた。

「?」

「最初から上手く出来る人なんて居ません。皆さん、慣れない....いえ慣れてはならない状況下で、自分なりのやり方で立ち回ってるんです」

「慣れてはならない、か....」

「人間、慣れたと思った時が1番危ないんです。“慣れてるから大丈夫だ”、と慢心しますから」

キョウカは微笑みながら頷くとシャルロッテに礼を言った。その瞬間、キョウカは目を見開きながら敬礼をした。シャルロッテはキョウカの視線の先に目を向けるとキョウカ同様にすぐさま敬礼をした。

2人の視線の先に居たのは調査班のトップ、総班長のリードだった。

「敬礼なんざ要らん、直れ。それよりも、何で調査班が此処にいる?」

「あっ、はい。怪物の群が南下しているのを確認した為、本国守備の為に緊急で帰投しました」

「そうかぁ。まぁとりあえず駐屯地の太陽の書の交換は出来たんだろ?」

「はい。しかし」

「なら俺から言う事は何もねぇ。次の指示が決まるまで、持ち場に付け」

そう言うとリードは2人に背を向けるとゲートの方に戻って行った。リードが自分のもとへ来た理由をキョウカが掴めずに居ると呆れた表情を浮かべたゼルトナーがキョウカの横に歩み寄った。

「相変わらずだなぁ〜、彼奴は」

「基本的に放任主義ですからね....あの人は、」

「・・・」

「あの人は、基本的に現場に任せる人ですから、与えた指示とは別の事をしても、理由があってやったなら何も言わない人ですから」

「ただまぁ、自分で考えずに指示待ちの人間は調査班には向かねぇからなぁ。ある意味助かる所はある」

「....」

心の中に広がる不安を感じ取ったキョウカはそれを押し殺す様に笑みを浮かべると自分の馬のもとへ戻った。

「(現場主義とは言うけど、....これ程重たいものなのね)」

そう思った瞬間、伝達魔法で起動する手帳が受信を知らせるとキョウカは手帳を取り出し、開いた。

「!」



「助かったぜシラチューダ。医官の手が足りなくて困ってた所だ」

「私は貴方と違って、治癒しか出来ない人間ですから」

ルーカスは溜息を吐きながらシラチューダと目を合わせると「変わらんなぁ〜君は」と言った。

「貴方だってそうでしょ。酷い顔色ですよ」

「・・・パックの血だけじゃ、足りなかったからな」

そう言うとルーカスは医療パックを手に取るとスセアモの方に向かって歩いた。

「(訓練課程を首席で卒業するってのがどれだけ凄いか。・・・俺を比較対象として見る以前に、まずそこに気付けよ....)」

そう思ったルーカスは最後の負傷者の側にしゃがむと処置を開始した。

その側ではルークとスセアモが負傷者の手当てを丁度終わらせた所だった。

「スセアモ。助かったよ」

「いえ、大した事はしてないわ」

「・・・新しい班はどうだい?。ルーカスと入れ替わる形で入ったって聞いたけど」

「男達の癖が強いわ。ただ、ソーズマンは良い意味でだけど、ね」

「ルーカスやシラチューダ、フレッチャ達の教官だった人だからね。ただ、言ってる事は正しいよ」

「ええ。ただ、極端なところもあるけど」

「ハハッ。それは僕を含めた調査班の男全員に言えるところだよ」

「ただ、悪い気はしないわ。“想像力は武器”ってよく言うもの」

ルークは頷きながらキョウカを探して歩き始めた。するとルーカスが丁度負傷者の処置を終わらすと同時に馬に乗ったキョウカがルークの側に着地すると同時に下馬し、ルーカスを呼んだ。

「何かあったんですか?」

「調査班の本隊が戻って来たわ」

「「⁉︎」」



「フェデデレシオとレピュブリックとの合同調査と聴いていたが....」

「妙に帰投が早過ぎる、と思ったけど....」

「これは納得だな」

調査班現場最高責任者のアイオンを先頭に次々と真っ暗闇の中から次々と現れる調査班員達。だがその多くの者は負傷するか、武器を破損させていた。

「一体、何が....」

馬に乗った状態で少し離れた場所から帰投する調査班員達を見ていたソーズマン達。するとシュトルツは第06調査班班長のフラガを見つけるや否や馬を走らせた。

「フラガ副リーダー!」

「?、シュトルツ副リーダーか....」

2人は班長でありながらシュトルツは第01〜04、フラガは第05〜08の班長の上官的立場でもあった。その為シュトルツは真っ先にフラガに話を聞きに行ったのだ。

「レピュブリックの調査班が、合流前に半数近くの調査班員を失った」

「⁉︎」

「フェデデレシオも3割ほどやられた。俺達はすぐさま救援に向かったが....」

「何が....何でそんな事に?」

「フェデデレシオは解らん。だがレピュブリックは、見た事ない程大型なブラボー型に襲われて....」

シュトルツは言葉を濁した。するとフラガは自分の後ろの方に居た班員に向かって馬を走らせる1人の男に顔を向けた。


「クーパー!」

「?」

第07所属でルーカスの同期であるクーパーはルーカスの声に反応する様に顔を挙げ、ルーカスの方を向いた。

「ルーカスか....」

「大丈夫か?。一体何が?」

「解らん。フェデデレシオの調査班の救援に向かってる最中に....アルファ型のジャイアントタイプの大軍に襲われて....クッソ!俺が居ながら....」

「右腕....骨折か?」

「ああ。少しドジった」

ルーカスは無言のまま自分の右手に自信の血が混ざった魔力を集中させるとクーパーの右肩にそっと右手を添えると、クーパーの骨折を治し始めた。

「・・・!、馬鹿!お前パックの中身」

「気にするな。これはもう....慣れ....だ....当たり....ま....えの....事....だ」

「(当たり前じゃねぇし慣れるなよ!)」

ルーカスはクーパーの骨折を治すと息を切らしながら周りを見たのち目を見開いた。

「おい!。ターナーとカールはどうした⁉︎」

クーパーは悔しげな表情を浮かべながら俯くと自分の斜め右後ろの荷馬車をゆっくりと指差した。



ルーカスは自分の馬から荷台に飛び移ると幕を開けて中を覗き込んだ。が、すぐさま口元を覆った。

「血の匂いと、....これは、まさか....」

そう呟くながら専用ホルスターに収納されたフラッシュライトを引き抜くと荷台の中を照らしたのち、奥にあるタープを恐る恐る引き剥がした。

「!」

そこにあったのは見るに耐えない姿になったターナーとカールだった。

ルーカスはフラッシュライトを落とすとその場に崩れた。

「・・・?、08調査班?」

「!」

ルーカスは声のする方を向いた。そこに居たのは全身包帯塗れの男だった。男は深く息を吐きながらターナーとカールを指差した。

「回収出来たのは....それ、だけだ....同期、か?」

「・・・はい」

「そう、か....」

ルーカスは静かにその場に跪くと、静かに涙を流したのち「何で皆んな俺を置いて逝くんだよぉ!」と泣き叫んだ。

「何で....クッソォォッ」

同期の多くを失ったルーカス。しかし、仲間の死と向き合う時は、慣れる事のない様々な感覚が身体を駆け巡った。

「・・・助けれなかった....」

「....貴方の....せいじゃ、....無い」



自分の馬に戻り、自分の班のもとへ戻ったルーカスは仲間の死に直面したせいか、治癒魔法で血を使い過ぎたからか、或いはその両方か、真っ青な顔をしていた。

「ルーカスさん....」

「ターナーと....カールが死んだ」

ルーカスの口から告げられた同期の死を前にフレッチャは息を飲むと同時に何とも言えない様な表情を浮かべた。

「・・・」

「....俯くな」

ルーカスは声に反応する様に顔を挙げると自分の方に顔を向けるゼルトナーと目を合わせた。

「気にするなとは言わんがな。死んだ奴らの分まで、生きなきゃいけねぇんだからな」

「....はい。・・・同期の多くを失いましたが、....慣れませんね」

「当たり前だ。失う事に慣れたら、それはもう人じゃない」

「慣れて良い事なんて、何1つ無いわ」

「シャル〜。ちょっとそれは少し違う気がするなぁ〜。慣れが必要な事もあるだぜ?」

「慣れた、と思った時が1番怖いのよ」

「あんたも硬いなぁ〜」

シャルロッテは苦笑いを浮かべながらゼルトナーから視線を外すと自分の考えを更に掘り下げて話そうとした。が、

「慣れないよ。“未来を見た旧人類の残物”にしろ“未来を見た旧人類の産物”にしろ、僕達が使う魔法にしろ、ブラックボックスの塊、未知の力なんだから」

シャルロッテが言おうとした事を先に話したルーク。するとルーカスは顔を挙げると母国の中心に建つ“ゾンネ・フォルテ”を見上げた。

「だから俺達が居るんですよ」

「え?」

デュースはルーカスの方を向くとルーカスは「その未知を解明する為に....俺達は知らなきゃならないんです」と言った。それに続く様に

「そうだね。知る為にも、探し続けなきゃいけない」

「見つけたいものね。答えを....」

「班長さん。見つけたいじゃねぇよ。見つけるんだよ」

「私も、知りたいです。何故“残物”に選ばれたか....」

「それは、私もです」

“未来を見た旧人類の残物”と言うこの世に1つしか無い未知の物体。残物に選ばれたルーク、フレッチャ、デュースはルーカス達よりも知りたい事、知らねばならない事が多かった。

「欲を言うなら、太陽消滅の真実も知りたいですね」

シャルロッテの発言を聞いたルーカスは「やっぱり答えは....」と言いながら後ろを振り返ると真っ暗闇が支配する世界を見つめた。

「外にしか、無いんだろうなぁ〜」

静かにそう言い放ったルーカスは前を向くと荷馬車の後を追う様にゲートを潜り、帰国した。

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