Chapter 1 第三章「それぞれの判断」
「大丈夫、ですよ」
「ッ?、フレッチャさん?」
“未来を見た旧人類の残物”の1つである“メディウムアルク”と呼ばれる弓矢を操る女性班員のフレッチャはデュースの方を振り向くとそう言った。
「皆んな、慣れませんから」
「....」
「皆んな怖いさ。もう少し肩の力を、抜け」
「ルーカスさん....」
エスピリトゥピトを強く握りながらデュースはルーカスの方を向いたのち静かにルーカスの事を呼んだ。その呼び声に反応する様にルーカスはフューリーを下ろした。
「デュースはエスピリトゥピトに“選ばれた”んです。もう少し気楽に行こうよ」
「ルークさん....」
「埒が開かないな」
「え?」
「総員!Aフォーメーs ッ!ルーカス!」
「ルーカスさん!」
ルーカスは馬を加速させながら「フォーメーションを切り替える暇はねぇ!」と言い放ったのち戦隊から離れ、1人先に突っ走った。
「まぁわからんでも無いが、....あの堅物さん、噂以上だな....」
「相変わらずですね。訓練生時代からずっとそうですから」
「ツゥ〜訳で、ブラボー型は俺に任せなぁ!」
そう言ったのちゼルトナーは、馬を加速させるとストック付きマシンピストル状態の“イーラスクーレ”に専用パーツを合体させ、巨大な斧を形成させながらルーカスとは別方向に馬を走らせた。
「確かに、フォーメーションチェンジしてる暇は無さそうだね。ルーカスの援護には、僕が行くよ」
キョウカは溜息を吐きながら了承したのちルークの背中を見送った。
「何事もマニュアル通りには行きませんよ。時には“シンプルイズベスト”や“各自に任せる”、が大丈夫ですよ」
「・・・曲者揃いの班を任されたわね....」
「調査班の人間なんて、皆んな曲者揃いですよ」
シャルロッテの言葉にキョウカは苦笑いを浮かべたのちシャルロッテに荷馬車とデュースを任せたのちフレッチャと共に前に出た。
※
「08が帰って来たか....有難いな」
そう呟いたワイミーはヒューマンタイプが構えるライフルの弾幕に圧倒された状態で静かに目を瞑った。
言語を話す事が出来ないや知力がほぼ無い、服を着ない以外、人間と殆ど変わらないヒューマンタイプはゴブリンタイプとは違って、“武器”を持っていた。
「・・・、ッ」
何かを察知したかの様に静かに目を開いたワイミーは土嚢裏から姿を現すと引き金を引き絞り、ショットをばら撒いた。
そのばら撒き撃ちにヒューマンタイプが怯んだ瞬間、突如としてヒューマンタイプの頭部を水の塊が包み込んだ。その2秒後、息が出来ず踠き苦しむヒューマンタイプの頭部は跡形も無く消え去った。
「凄いな....これが残物の力か....」
「・・・」
"未来を見た旧人類の残物”の1つ“グリモリオ”と呼ばれる“想像と魔力を力に変える”と言われてる魔術書を操れるルーク。ワイミーは下馬したルークに礼を言うと改めて協力を要請した。
「勿論そのつもりさ。あっ、あと、」
「?」
「水魔法なら、彼の方が凄いよ」
「彼?、・・・ああ、確かに」
※
「クッソ!今日ばかりは不味いな!」
「諦めるな!」
「ダアアァァァ!腕が、腕がァァ!」
「押し切られる!増援は⁉︎」
ヒューマンタイプの弾幕とゴブリンタイプの大軍に押される防衛ブロック。怪物ながら見事な連携を見せられた新兵達は、怯まずには要られなかった。
「もー駄目だぁ!」
「怯むなぁ!」
「⁈」
「調査班員⁉︎」
ルーカスは高速で馬を走らせながら鐙から両脚を外し、腹帯上の鞍に両脚を載せながら、右手を前に出したのち魔力を集中させた。
「諦めるな!」
「強力な援軍だ!まだ終わってねぇぞ!」
ルーカスは目を細めると水の神“ミヅハノメ”の名を呟いたのち、鞍から飛び上がると隊員達とアルファ型の怪物の間に魔力を放つと右手を振り上げた。
「(水没防壁!)」
振り上げられた瞬間、魔力が放たれた場所に分厚い水の壁が出現し、ヒューマンタイプが放つ銃弾を全て防ぎ止めた。するとゴブリンタイプは悔しげな表情を浮かべると何の躊躇もなく防護壁に突っ込み、突破を試みるが防護壁の水圧を前に身動きが取れなく成り、窒息死した。
「(哀れな。自分から突っ込むからそうなる)」
地面に着地したのち、そう思いながら負傷者の側に駆け付けたルーカスは右手をひっくり返し、振り下ろした。
すると防護壁に撃ち込まれた銃弾やゴブリンタイプの死体がアルファ型の方に撃ち出され、その撃ち出されたものがアルファ型を一掃した。
つまりアルファ型は自分らが放った銃弾と音速で飛んで来る仲間に殺された、と言う事だ。
「ひでぇ怪我だな....」
「なお、せるか?」
ルーカスは頷いて返すと今にも切れそうな隊員の腕をそっと持ち上げるとベストのポーチに治った血液パックに右手の人差し指と中指を添え、パックと自分の右手人差し指・中指を魔力で繋ぐと隊員の腕をしっかりくっ付けたのち切断口の周りをグルッと自身の魔力で覆ったのち、縫い合わせる様に魔力の宿った2本指を動かすと、右手を振り上げたのち指から魔力を離した。すると隊員の右腕に宿っていた魔力が腕に吸われる様に消えてなくなると隊員の腕は傷1つ無い、元の状態に戻っていた。
「動かせるか?」
「・・・コイツは、凄いな。大丈夫だ。ありがとう!」
「“縫い合わせる”だけだから後遺症無く、短時間で治癒出来たし、血液の消耗少なくて済んだよ。これが“再生”だと、消耗デカいんだよなぁ〜」
「だとしても、B型医官ってすげぇ〜な〜」
そう言いながら腕や指を動かした隊員は再度ルーカスに礼を言ったのち自分の武器を手に持つと戦線に戻った。
「あれが、B型医官の力か....」
「チートだな....」
“B型医官”。魔力を自身の血を使って強化する事で強力な治癒魔法を使用する事が出来る上級医官。
今の様に損傷部位を繋ぎ合わせるだけでなく、内臓や損失部位の再生をも可能とし、骨折も簡単に治せる。
だが、治癒が高度であればある程、肉体破損が酷ければ酷いほど自身の血液の消耗が増える。
幾ら魔法使用時用の血液パックを持ち歩いてるとは言え、乱用は出来ない物だった。
「使用用途とタイミングは各自の判断、か....」
そう呟きながら別の負傷者の手当てに向かおうとしたルーカスはゴブリンタイプの接近に気が付くと素早くネモ・コマンドー(コンパクトアサルトライフル)を手に取り、素早くチャージングレバーを引くと、素早く狙いを定め、全てのゴブリンタイプを蜂の巣にした。
「・・・」
自分の左側から迫るゴブリンタイプに静かに銃口を向けた瞬間、ゴブリンタイプは突如として炎に包まれると炎の中で踠き苦しみながら炎の中に姿を消し、炎が弾け飛んだ瞬間、ゴブリンタイプは跡形も無く消えていた。
「ルーク....」
「当たり。此処は僕に任せて、負傷者の手当てを」
「助かる」
※
「ブラボー型めぇ!。四足歩行の癖に生意気だぞ!」
「潔くくたばれよ!」
アルファ型とブラボー型の両者にリベリオンを乱射する防衛隊員達。だが何メートルもあるうえに自己再生能力を持つ巨体は、簡単には息絶えなかった。
「怯むな!銃身が焦げ付くまで戦い続けろ!」
「他のブロックも奮戦してる!何が何でも防ぎ止める!」
「ああ!。これ以上医官の世話になる奴を、増やす訳にはいかねぇ!」
そう言いながらオーバーヒート寸前のリベリオンの銃口を向ける防衛隊員。
そんな彼らの耳に、気配の入った雄叫びが入り込んだ。
「ァハアアァァァァッ!」
大型の斧となったイーラスクーレを振り上げながら、ゼルトナーは雄叫びを挙げながらブラボー型の頭上目掛けて落下すると、「喰らいなぁッ!」と言いながらブラボー型の頭部を叩き割るかの様な勢いで思いっきりイーラスクーレを振り下ろした。
「ナッ!」
「対大型のプロが来てくれたか!」
ゼルトナーの一撃を喰らったブラボー型は頭蓋骨が割れた様な音を立てながら頭部から血飛沫と悲鳴を挙げた。
「よっと」
降り注ぐ血の雨を背景に地面に着地したゼルトナーはゴブリンタイプの集団に目を付けたのち表情を僅かに鋭くした。
「(此処で此奴にトドメを刺しても良いが、無傷の大軍をそのままにはしておけないな)」
そう思ったゼルトナーは走りながら熱操作魔法を利用してイーラスクーレの斧部分に様々な熱を濃縮させた。
「こう言うのはどうだい?」
そう言ったのち雄叫びを挙げながら更に熱魔力を濃縮させるとブレーキを掛ける様に地面を滑りながら力を貯めると目を見開き、
「ボルケーノインパクト!」
そう叫びながらゴブリンタイプを薙ぎ払う様な勢いでイーラスクーレを横に振った。
すると魔法の効力で斧部分に溜まっていた熱の魔力がマグマを形成しながら物凄い衝撃波と共にゴブリンタイプを襲った。
ゼルトナーの側に居たゴブリンタイプはマグマと衝撃波を同時に喰らい、跡形も無く消えた。が、衝撃波が届かなかったゴブリンタイプは不運だ。身体中に浴びたマグマで身体中を焼かれ、溶かされ、踠き苦しみながら絶命するのだから。
「うっしゃー!」
「スゲェ〜」
「まさに火山の衝撃波だ....」
「さて、邪魔な奴らは片付いた!。俺の獲もn」
そう言いながらゼルトナーは先程頭部を叩き割ったブラボー型の方を振り向いた。が、ゼルトナーは思わず言葉を濁した。
何故ならそのブラボー型はフレッチャが放った魔法の矢を喰らって顔面の半分を吹き飛ばされ、絶命していたからだ。
「矢尻に爆破魔法?。そんな事も出来るのね」
「はい。ただ、魔力の消耗が凄いですが....」
「(獲物を取られたな。まっ、正しい判断かもな。俺が止め刺すまでに、被害が広がってたかもしれないしな)」
「?、ゼルトナーさん?」
「!、どうした?」
※
「奴ら退いてくぞ!」
『なんとかなったか....』
『2度と来るなクソッタレェ!』
『全隊へ。追撃は禁止。点呼及び負傷者の対応を優先せよ!』
「まっ、一昨日来やがれ、ってな」
そう言いながらゼルトナーはイーラスクーレを背中に背負うとキョウカのもとへ走った。




