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Chapter2 第三章「自分の身を削りながら」

新たなゴブリンタイプを引き連れて来たのは通常のブラボー型よりも大型な四足歩行の怪物だった。


「あれが、ゴブリンの長、か....」


そう言いながら6体のゴブリンタイプを仕留めたブラックバーンは“ネモ・クルツ”をスリングで吊るすとイーラスクーレを構え、ゴブリンタイプを叩き潰した。


「これで64....」


静かにそう呟いたブラックバーンはイーラスクーレを両手で構えるとブラボー型を睨み付けた。


「しくじるなよ!」


ブラックバーンはワイミーに頷いて返すと声にならない静かな雄叫びを挙げながら両腕を交互させるとブラックバーンの全てに似合わない程の雄叫びを轟かせながら両腕を振り下ろし、物凄い気迫と魔力を撒き散らし、自分を強化した。


「凄いわね....」



“B型自己強化魔法”。

自身の魔力と同時に自身の血液を消耗させ、両者を融合させて使用する事により通常のA型自己強化魔法よりも高い能力を発揮させる魔法種。

その中の定番とも言える“ウォークライ”は雄叫びを発すると同時に爆発的なスピードで自己を強化する事が出来、通常の自己強化よりも3倍のスペックアップが出来る。



ブラックバーンは再度イーラスクーレを両手で構え直すと凄まじいスピードで移動しながら自分の侵攻ルート上に居るゴブリンタイプを次々と粉砕した。


「87、88、89!」


89匹目のゴブリンタイプを仕留めたと同時に大きく飛び上がったブラックバーンはブラボー型の右肩に強力な一撃を喰らわすと右腕内部の骨と血管を粉砕し、内出血を起こさせた。


「怪物送り込んでる時は相当楽しかっただろ?。だったら今も楽しんでくれよ」


そう静かに言い放ったブラックバーンはブラボー型の背中を全速力で走ったのち飛び上がると左太腿に強力な一撃を喰らわすと右腕と同じ状態にしたのち地面を滑る様に着地する再び飛び上がり、右膝を叩き割り、膝を完全に破壊し、膝から下を切断した。

トドメを刺そうと再び飛び上がると地面にうつ伏せで倒れるブラボー型を見たブラックバーンは呆れ溜息を吐いた。


「お前みたいに無駄にでかい奴よりも、小さくてズル賢いゴブリンの方が、余程手強い」


そう言いながら落下の勢いと同時にイーラスクーレを頸に振り下ろし、首を粉砕したブラックバーンは身体から切り離された頭部を背景に着地すると怯えるゴブリンタイプの方を向いた。


「次は何奴だ?」


長を亡くした事で戦意を喪失させた残りのアルファ型は一目散に我先へと逃げ出した。




自己強化を解いたブラックバーンはイーラスクーレを背中に戻すと大きくて深い溜息を吐いた。


「お疲れさん」

「そっちもな」

「助かった。救援、感謝する」


礼を言うシコルスキーにブラックバーンは頭を下げて反応したのち静かにブラボー型の死骸の方を向くと「ゴブリンを率いる価値もない」と呟いたのちローガンの元へ戻った。


「・・・」

「きっと彼奴なりの、償いなんですよ」

シコルスキー「自分の不注意で同期を死なせた?」

「恐らくは。ただ、そう言う意味では、復讐もありますがね」


そう言うとワイミーはシコルスキーに挨拶したのちブラックバーンの後を追う様にローガンのもとへ戻った。


「・・・身を削って戦う身....復讐や償いを戦う理由にはして欲しくは無いな」


そう言ったのちシコルスキーは自分のもとへ歩み寄る04調査班の方を向くと改めて礼を言った。


「とんでもない。外征隊同士、助け合って同然です」

「当然、か。....自分の持ち場ぐらい自分でなんとかしたいな。・・・輸送任務の最中だったそうだな。気を付けて行けよ」

「ありがとうございます」







北を巨大な森、南に岳と言う自然に囲まれた場所に外征隊の第一駐屯地があった。

そんな自然と危険に囲まれた駐屯地を守備する外征隊駐屯守備班第一区の若き女性班長であるサイリは岳の方を見つめて居た。


「今頃、岳の手前辺りか?」


そうサイリは呟くと自分の“後輩”の身を案じた


全部で六区ある駐屯地の中で一番危険な第一駐屯地。森はアルファ型怪物の住処、東には立ち入り禁止に成る程の危険エリア、西には怪物が徘徊する警戒エリア、その南には岳。

危険な上に補給も手薄なこの場所の守備をサイリ達は任されて居た。


「サイリ班長」


部下の女術士であるリベラに声を掛けられたサイリはゆっくりとリベラの方を向いた。


「リベラか....どうかしたか?」

「第04調査班から報告です。“貿易守備班第一班・防衛隊巡回班第一班との共同戦線の末、貿易路の守備に成功した”と」

「貿易守備班第一班....班長は君の養父だったな」

「はい。かなり消耗してる様ですが、怪我もなく無事な様です」


ホットした様な表情でそう話すリベラ。

サイリは微かに笑うと優しくリベラを見つめた。

過去のトラウマの影響で人と関わる事を避けるリベラがそんなその様な表情を浮かべながら話す所を見たサイリも心の何処かでホットして居た。


「・・・確か」

「?」

「....いえ、なんでもありません」


サイリはリベラの表情と“確か”と言う言葉からリベラが言いたかった事を察するとリベラに背を向けたのち腕を組んだ。


「あの人なら大丈夫さ」

「?」


笑みを浮かべながら下を向きつつ目を瞑るとサイリは僅かに口角を挙げた。


「彼奴は強い。私と同じ人から、色々学んだからな」

「!」

「大事な後輩だ。....心配は心配だが、信じては居る」


そう言うとサイリは軽く深呼吸をしてからリベラの方をむくとゆっくりと歩き始めた。


「そろそろ食事の時間ね。戻りましょう」

「ッ....はい」



「今晩は“まろやかクリームリゾット”・“川魚のグリル”・“採れたて野菜とチーズのオーブン焼き”だ!」

「相変わらず豪勢だなぁ!」

「川魚はリベラが釣り上げた物だ!」

「其奴ありがてぇな。良いもの釣ったなぁ〜っ!」

「おいおい。ちゃんと礼を言ってから食えよ〜ッ」

「分かってるって、....って、本人は?」

「相変わらずだなぁ〜。飯ぐらい一緒に食えば良いのに」

「心の問題がある以上、無理強いは出来んさっ」



「・・・」

「これ、貴方が釣り上げたの?」


サイリは一団から離れた場所で食事を摂ろうとするリベラの肩を優しく掴むと僅かに笑みを浮かべながらそう尋ねた。

リベラは渋々と表情と微かな笑みを混ぜながら返事をした。


「はい。シフト外の時間使って、絵を描いてたら....丁度良いのが泳いでて....」

「・・・今日ぐらいは、一緒にどう?」

「....」

「貴方の事情もわかるけど魚を釣り上げた本人を交えて、皆んな食べたい筈よ」

「それは、そうかもしれませんが....」

「皆んな、自分の身を削って戦ってる。いつ誰が死ぬかは分からない。....だから、今は、特に今は、ね」


そう言うとサイリは軽くリベラの肩を叩くと班員の輪の中に戻った。

リベラは少し考えると、身体の向きを変え、サイリを追った。


「おっ、来た来た」

「リベラさんも一緒かぁ〜」

「お前、嬉しいのか?」

「そりゃ釣り上げた本人の顔を見ながら食べたいですから」

「そんな事言って、本当はどうなんだぁ〜」

「・・・」


サイリと一緒に食卓に入ったリベラは周りの反応に戸惑いながらも微かに笑った。







調理魔法と巧みな手捌きで次々と班員の食事を完成させて行くシャルロッテとそれを手伝うデュース。

2人が荷馬車の中とその裏で料理をする中、椅子に座り込み、背凭れに寄り掛かり、踏ん反り返って居たゼルトナーは出来上がりに近付く料理の匂いに反応する様に勢い良く立ち上がると荷馬車の中を覗き込んだ。


「中々凄い物作ってるなぁ〜」

「覗き見も摘み食いも駄目ですからね」

「へいへい」

「班長1人に見張りをさせておいて、ご飯が食べられると思ってるんですか?」

「おいおいぃ〜そりゃねぇだろぉ〜。俺だって怪物を討伐して班を護ったんだぞぉ〜」

「それでも皆さん、休まず何かしてますよ。・・・ゼルトナーさん以外は」

「意外と厳しいのな....やれやれ」


ゼルトナーは荷台から飛び降りると自分の椅子の側に置いてあったイーラスクーレを手に取ると付近の警戒に入った。


数分後....


「おっ、帰って来たなぁ」


洞窟の探索から戻ったルーカス、フレッチャ、ルークを出迎えたゼルトナーは3人を席に勧めた。


「装備品、戻して来る」

「助かったよ。ありがとう」

「ありがとうございました」


ルーカスはルークから剣、フレッチャから弓矢を回収すると自分の馬の元へ歩いた。

それと同時にベルが鳴るとシャルロッテとデュースが料理を運んで来た。


「本日の献立です」

「うっほぉ〜。此奴は凄いな」

「“ほかほか備蓄米にぎり”・“猪肉と採れたてキノコの具沢山濃厚シチュー”・“備蓄ネギと鹿肉の串焼き”です」

「これは、凄いね」

「キノコは班長が収穫した物、猪肉と鹿肉はルーカスさんが仕留めた物です」

「班長。ゼルトナーさんは....」

「おいおい....」


キョウカは呆れた表情を浮かべながら「今回だけは、良いでしょう」と言うとゼルトナーは大いに喜んだ。


「よっしゃ〜」

「ちょっと、ルーカスさんが来るまでは待って下さい」

「!」


自分の名を呼ばれた事に反応したルーカスは荷物入れを下に置くと「研ぎと点検は後にするか」と言ったのち食卓に脚を進めた。


「ベル鳴ってるんだからとっとと来いよ〜」

「(あのベルはそう言う意味か)」







焚き火を囲みながらそれぞれが用意したキャンプチェアに腰掛けながら食事を取り始めた一行。

にぎり飯は備蓄米とは思えぬ程美味しく、シチューの中の猪肉は柔らかく、口の中で油と共にトロけ、飯を更に美味くした。

鹿肉とネギの相性はとても良く、これらの料理は班員の胃袋だけでなく心も満たしていった。


「ゼルトナーさんの言う通りですね。これは美味い」

「だろぉ?。まぁもっとも堅物さんのお陰でもあるがな」

「ええ。こんなに新鮮なお肉、久々に調理しましたよ。まさかこんなにも速く食べられるとは」

「(狩猟スキルって意外に役立つんだな)」


そう思いながらスプーンに乗っかるキノコと猪肉を口に運んだルーカス。

思った以上に賑やかな食卓だが、ルーカスには丁度よかった。


「(最前線での飯がこんなにも美味く、心地いい物だったとはなぁ〜。まぁ04に居た時の飯も不味くは無いし居心地悪くは無いが、....スエルテの飯はなぁ〜....)」


苦笑いを浮かべながらにぎり飯に齧り付くルーカス。

それを観ていたフレッチャは優しく微笑んだ。


「?」

「ぁっ、....ルーカスさんが食事の時にそんな顔をするなんて、珍しいな....って」


ルーカスは「そうか?」と言いながらマグカップに入った飲み物を空になった口の中に流し込んだ。

するとデュースと話していたルークがルーカスに視線を向けるとカップを持ったままルーカスに問い掛けた。


「“食事は1人で静かに”。そう言うタイプじゃない?」

「何で分かるんです?」

「食べ方と、今のフレッチャさんの発言から、かな」

「賑やかなのが苦手なだけです。食堂はいつも煩くて....逆に、こう言った静かな場所で少人数の仲間と談話しながら食べる飯は、心地良いものです」

「それは確かに分かりますね。特に夜の食堂は、酒呑みが....」

「あれは本当に部屋を分けて欲しいわ....」

「そうか?。俺は逆に賑やかなのが好きだが?」

「それは人それぞれよ」

「・・・なんか、変な感じですね」

「何が?」

「光もない真っ暗闇、怪物の住処のど真ん中で食べる飯が心地良いって....」

「良い意味で慣れて来たって事だと思うぜぇ。何より、シャルの飯は美味い」

「買い被り過ぎですよ〜」


ルーカスは笑いながら鹿肉とネギを同時に引き抜き、ゆっくりと噛み締めた。

ゼルトナーとシャルロッテ、ルークとデュースが話す姿を見たルーカスは、優しく微笑んだ。




食事を終え、片付けを手伝ったルーカスは焚き火の側で3つの砥石を濡らすと1つ目の砥石でブレイドに付着して固まったゴブリンタイプの血を研ぎ落とすと2つ目の砥石を使って剣を研ぎ、最後に3つ目の砥石でコーティングし直した。


「・・・」


焚き火の火でブレイドを照らしながら“研ぎ忘れ”・“汚れ”・“コーティングの剥がれが無いか”・“グリップや鍔に妙なガタ付きは無いか”・“グリップはしっかり握れるか”などを確認すると鞘に納め、コンパウンドボウの点検に移った。

“サイトはブレて無いか”・“弦は切れそうになってないか”・“滑車は問題無いか”・“弦はしっかりと滑車に収まってるか”などを点検したのち矢と矢筒の点検を済ませると“鞄の書”からヘッドライトを取り出すと馬具の点検を行なったのち愛馬に餌をやった。


「すまんな〜。遅くなっちまって」


ヘッドライトを仕舞いながら放ったルーカスの言葉を気にする事なく出された餌と水を貪る馬を見たルーカスは苦笑いを浮かべるとゆっくりと立ち上がった。


「皆んなは勿論、お前も自分の身を削りながら戦ってんだよなぁ〜」


そう呟きながら愛馬の首元を優しく撫でるルーカス。だがそんなルーカスの瞳は、何処か悲しげだった。

すると愛馬はそんなルーカスの心境を察した様に餌を食べるのを辞めると元気な鳴き声を響かせた。


「お前....そうだな....」


何かを察したルーカスはゆっくりと立ち上がると後ろから歩み寄って来る女性の方を向いた。


「デュース?」


デュースはゆっくりとルーカスに近付くとルーカスの愛馬に顔を向けた。


「ルーカスさんの馬を、間近で見たくて」

「そうか....調査班の馬は大型な馬が多いが、此奴はその中でも特に大柄だ」

「・・・?、どうかしました?」

「此奴は、....特に食事中に俺やイグニス以外が近付くと暴れるんだが、今日は大人しいな」

「そうなんですか?。あぁ、確かに飼育はイグニスさんが専属でしたね」


そう言いながらデュースはゆっくりとルーカスの愛馬に手を伸ばした。が、流石にそれは嫌だったのか馬は鳴き声を挙げながら頭を振り回し、荒々しい鼻息を吐き散らかした。


「!」

「やっぱり嫌らしいな」


そう言ったのちルーカスはゆっくりと愛馬の首元を撫でると馬を落ち着かせた。馬は喉を鳴らす様な息を吐くと残った餌を全て食べようと首を曲げた。


「・・・皆んな、自分削りながら戦ってる。デュース達は勿論、此奴も。....俺に似て、プライド高いのかもな」

「フレッチャさんが言ってましたよ。昔より丸くなったって」


ルーカスは口角を挙げて笑うと愛馬の首元から手を離した。

2人の様子をフレッチャは荷馬車の影からじっと見ていた。

そんなフレッチャに気が付く事なく、キョウカはルーカスに話しかけた。


「点検等を済ませたら、貴方は休んで。連戦続きで疲れてるでしょ?」


ルーカスは少し考えるとキョウカと目を合わせた。


「有難いんですが、最初の見張り番を終えたら休みます。途中で起こされるよりは休み易いので」

「わかったわ。だったらそれでシフト組むわ」

「すみません。お願いします」

「謝る事なんて無いわ。寧ろ言ってくれた方が助かるわ」


そう言うとキョウカはルーカスの前から立ち去った。

ルーカスはほんの僅かに笑うと愛馬の方を向き、再びしゃがみ込んだ。

デュースはルーカスに挨拶してから離れると“たまたま”出会したフレッチャと一緒に自分の装備の点検を始めた。







「ほぉ〜う。怪物と交戦した割には進んだなぁ」


キョウカから送信された途中経過報告書を煙草を吸いながら目を通したリードはボードを置くと同時に灰皿に煙草を押し付けて火を消すと吸い殻を捨てた。


「・・・」


ゆっくりと立ち上がり、窓を開けると人工太陽の“ゾンネ・フェルシュング"がスリープモードになった事で“夜”になった街を見渡した。


「....」


無言で風に当たるリード。ゆっくりと瞼を閉じるとノックされたドアの方を向いた。

窓を閉めたのち入室を許可すると『“調査班班長現場最高責任者"兼"外征隊副隊長"のアイオン』と『“調査班副リーダー”兼“第06調査班班長”のフラガ』の2人が入室して来た。


「お〜ぅ、どうした?」

「俺は“06調査班、明日より前線に復帰します”。って報告だけだったんですが....」


リードは軽く表情を歪めるとアイオンが持ってる酒瓶に目を向けた。


「偶には、3人で一杯やりませんか?」

「ほぉ〜う?」

「ユクモ産の良い奴です。シュトルツも誘おうと思ったんですが、まだ帰還してなくて」

「さっき帰還途中って連絡を受けた。何事も無ければそろそろ戻って来ると思うが、」

「あの生真面目の塊は、呑まないと思いますよ。・・・時には代表同士が呑みで合流を深めるって事も大事だと思うんですよ」

「よし。載った」


リードは秘書代理のノエルに一時的に業務を任せると棚から盃を取り出し、机に並べた。







銃器の点検をも終えたルーカスはシフト通り、最初の見張りに就くと地面に座りながら右側にフューリーを置くと、左手に双眼鏡を持ち、索敵を行なった。


「こっちは今のところ異常なし、か....」


そう呟いたルーカスは双眼鏡を下ろすと長めに息を吐いた。


1時間後....


別方向で荷馬車の見張り兼周辺警戒に就くキョウカの後ろ姿をチラッと向いたのち双眼鏡を覗き込んだルーカスは辺りを見渡した。


「・・・“集合型”....“チャーリー型”か。今日も元気に死体漁りか?。・・・まっ、奴らは俺達を襲わず、アルファ型やブラボー型の死体に取り憑くってだけだから、彼奴自体は脅威じゃ無い。....とは言うものの、一応記録しておくか」


そう言いながら多目的ボードを取り出すとボードのメモ欄に鉛筆で記録をつけ始めた。

丁度その頃、ルーカスは後ろから近付く足音に気が付いた。


「交代にはまだ早いぞ」

「あっ、えーと....」

「ん?」


双眼鏡から目を離したルーカスは自分の斜め左後ろに立つフレッチャの方を向いた。


「フレッチャ?。交代はデュースの筈だが?」

「その、....目が覚めちゃって」


ルーカスは目の動きだけでフレッチャに自分の左隣を進めると再び双眼鏡を覗き込んだ。

フレッチャはルーカスの左隣にゆっくりと座り込むとルーカスに状況を聞いた。


「4.5キロ先に、チャーリー型が居る。奴自体は脅威では無いし、さっきよりも距離は離れてる。こっちに来る事はないだろ」

「・・・あの集合体、いつ見ても気味が悪い」


ルーカスと同じ方向に双眼鏡のレンズを向けたフレッチャはボソッとそう呟いた。ルーカスは双眼鏡を下ろすと長めに息を吐いた。


「そっちはどうしたんだ?」

「40分ぐらいは寝れたんですけど、その後目が冴えちゃって」

「まぁな。“こんな場所”じゃあ、一度目が覚めると中々寝れないよ」

「・・・ルーカスって」

「?」

「あっ、その....少し見ないうちに表情が豊かになったなぁ〜って」

「なんかさっきも聞いた様な気もするが?」

「さっきは、その....食事の事だけです。あの後装備の点検しながらデュースさんと色々話したんですが、やっぱりルーカスは変わったな。って....」

「そりゃ変わるだろ....こんな恵まれた班居たら」

「えっ?」

「同期や歳の近い仲間が居るせいか、04より色々やり易いんだよ。....シラチューダは、1本のものさしで自分測って俺に劣るって言う“堅物”だし」


フレッチャは優しく静かに笑うとルーカスから顔を逸らした。するとルーカスは軽く俯くと溜息を吐いた。


「あと、」

「?」

「絶対に護りたい人って思える人が側に居ると、“変わらなきゃ”って思うんだよ」


それを聞いたフレッチャは「(それってデュースさんかな〜)」と思いながら難しい表情を浮かべた。


「そう....ですか。....でも無理に変わる必要は無いと思いますよ」

「分かっては居る。ただ、....変え辛い所もあるから、さ。....変えられそうな所から変えていかないと」

「....ルーカス、」


フレッチャは俯くと両手を強く握り締めた。そしてルーカスの方を向くと、静かに深呼吸した。


「私も、頑張ります」

「?、急にどうした?」

「私にも、護りたい人が居ますから」

「・・・そうか」

「はい」


ルーカスは再び双眼鏡を覗き込むと周囲の索敵に専念した。するとフレッチャはゆっくりとルーカスに寄り掛かると、静かな寝息を立て始めた。


「・・・こんな所で座り寝したら風邪引くぞ。って、聞いてないか....」

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