Chapter 2 第二章「枠を超えた連携」
乗馬状態にも関わらずヴェルチュシルトを片手で巧みに操りながらもう片方の手でピストーラスパーダを操り、次々とヒューマンタイプを制圧していくシュトルツ。
その実力は有言実行の如く“彼の背後を取る事は勿論、彼を突破する事は不可能”な程の制圧力と防衛能力を持っていた。
「どうしました?その程度ですか?」
ヒューマンタイプが次々とシュトルツに討ち取られる中、シュトルツは相手を挑発する様にそう言った。
「班長、完全にスイッチ入ってるな」
「安心しろ。笑ってない」
ソーズマンは頭にハテナを浮かべながらカサドルの方を向いた。するとカサドルが追記する前に、
「あの人は笑ってる時が一番怖いですから」
「それ俺の台詞」
「(本当、色んな意味で変わり者揃いだな。まっ、それは此処だけじゃないがな)」
そう思いながらソーズマンは残存勢力の掃討に当たった。だが、
「いつも奴ららしくない」
「ああ。退く気配が無いし、ゴブリンタイプが居ない。貿易路を襲う時は、いつもゴブリンタイプが主力だ」
ソーズマンと同じ疑問を持ちながら戦って居たシコルスキーはヴェルチュシルトの下部で横転したジャイアントタイプの後頭部を貫くと、「ん?」と唸る様な声を挙げながら顔を挙げた。
「(調査班を除く戦闘可能要員は全員近接防御型の武器しか持ってない....ッ)」
何かを勘付いた様に辺りを見渡すシコルスキー。だが戦闘地域の外側は暗闇に包まれて何も見えない。
慌てて双眼鏡のレンズに魔力を流し込んでから覗き、辺りを偵察するシコルスキー。
「・・・クソがッ」
シコルスキーが吐き捨てる様にそう言った瞬間、突如として暗闇から100匹以上のゴブリンタイプが彼らを襲った。
「とんでもねぇ数だな!」
「此処で来るなんて!」
ゴブリンタイプは略奪対象となる貿易品が無かった事への八つ当たり感覚で只管彼らに殴り掛かった。
「!、数が多過ぎる!」
ターリスマンシュヴェーアトでゴブリンを斬り裂きながらそう叫ぶスエルテ。その横では“リボルバー内蔵型ブレイド”と“ライフル内蔵型ブレイド”の二刀流を全く無駄の無い動きで操り、次々とゴブリンタイプの首を跳ね飛ばすソーズマンが居た。
「無駄に大きく強く振り過ぎだ。こんな大軍相手じゃ、隙を突かれるぞ」
「はい!」
ソーズマンからのアドバイスに返事はしたもののすぐに直せる訳もなくそのまま無駄が多く隙のデカい振り方を続けるスエルテ。
遂にスエルテのブレイドはゴブリンタイプ4匹掛かりに取り押さえられ、その隙を突く様に1匹のゴブリンタイプがスエルテに飛び掛かった。
「しまっ」
「奴らなりに学習したか!」
そう言いながらゴブリンタイプの攻撃を防ぎながら盾の下部でゴブリンタイプを突き刺すシコルスキー。
それを援護する様にカサドルは風魔法で空を浮遊しながらゴブリンタイプの頭部をショットで貫いた。
だが魔力は無尽蔵では無い。風魔法で魔力を使い、更には放つショットはアサルトライフルなどとは違い魔力の塊。カサドルは自分の魔力の限界を察して居た。
「ッ」
険しい表情を浮かべながら風魔法を切り、着地と同時にゴブリンタイプを左右真っ二つに斬り裂いた。
「背中は護る」
シコルスキーにそう言ったカサドルは“自己強化魔法A型”を発動させると攻撃スピードと反射神経を上昇させた。
「ゴブリンとて、侮れんな」
そう言ったシコルスキーは再度防御魔法を発動させるとシールドバッシュを強化した。
「厳しい状況に怒ってるか?」
「怒っては居ない」
「そうか」
2人は同時に攻勢に出た。
カサドルのライフル内蔵型ブレイド“ゲリョスクリンゲ”がゴブリンタイプの頭部を跳ね飛ばし、シコルスキーが構える大型な盾“ヴェルチュシルト”がゴブリンタイプ2匹をぶっ飛ばし、1匹を粉砕した。
※
一方その頃、
岳が目視出来るところまで辿り着いた第08調査班は小さな丘の上で休息を取る為、キャンプの設置を始めて居た。
産物の1つです“鞄の書”からキャンプ用のマイチェアを出す者も居れば、机を広げる者、火を起こす者など様々だった。
そんな中、荷馬車のすぐ側に調理台を広げたシャルロッテは口元に手を添えながら晩飯の献立を考えて居た。
そんな中、丘の側に洞窟を見つけたキョウカは「念の為」と呟くとルークを探し、声を掛けた。
「ルーク。ルーカスとフレッチャの3人で、あの洞窟を調べて来てくれる?」
「わかった」
「・・・」
キョウカとルークの会話を聞いて居たルーカスは水筒をケースに納めると自分の馬に戻り、“複合弓に似た小型のコンパウンドボウ”・“対アルファ型特化の矢が収まった矢筒”・“刃先が黄緑色にコーティングされた中途半端な長さの剣”を荷物入れから出すと“ネモ・コマンドー”と“フューリー”を降ろし、弓をケースごと背負うと剣を鞘ごとタクティカルベルトに止めた。
「・・・保険だ」
そう呟いたルーカスは歩きながらルークの名を呼ぶと鞘にスリングを通した予備の剣をルークに差し出した。
「洞窟の中だと、残物が使えない事があるんで」
「良いのかい?借りて」
「勿論、大丈夫です」
ルークは礼を言いながら剣を受け取ると斜め掛けで剣を吊るすとルーカスと同時にフレッチャの方を向いた。
「あっ、・・・えっと....」
「使えなくなったら俺の弓を貸すよ」
「あ、ありがとう....ございます」
「じゃあ、行こうか」
「ルーカス」
「班長?。何か?」
「貴方の“フューリー”、借りて良いかしら?」
ルーカスは頷いたのち馬の側に立て掛けたフューリーを手に取るとキョウカに手渡した。が、すぐには手を離さなかった。
「?」
「薬室に入ってます。気を付けて下さい」
「わかったわ」
ルーカスはゆっくりとフューリーから手を離すとルークらと合流したのち洞窟へ潜った。
「・・・」
何処か心配そうな表情を浮かべながら3人の事を見送るキョウカ。するとキャンプチェアに座り込んで居たゼルトナーは椅子から立ち上がるとキョウカに声を掛けた。
「心配か?」
キョウカは自分に声を掛けたゼルトナーの方をゆっくりと振り向くと「半分当たり」と言った。
「半分?」
「心配なのは、....国の方よ」
「ああ。相当な激戦になってるみたいなぁあ」
「調査班は稼働可能な部隊が少ないわ。・・・少し、心配ね」
ゼルトナーは溜息を吐きながらキョウカの肩にそっと手を添えると呆れた目付きをキョウカに向けた。
「らしくねぇなぁ〜。班長さんはいつも微笑んでると思ってたんだが....」
「・・・」
「まぁ心配しなさんなぁ。うちの総班長、ああ見えて動く時には動く人だ」
そう言ったのちゼルトナーはキョウカの肩を軽く叩くと自分の出したキャンプチェアに座り込んだ。
※
スエルテの両肩に取り憑いたゴブリンタイプ。
鋭い爪を立てると振り返ったスエルテの顔面目掛けて振り下ろした。
だが次の瞬間、
そのゴブリンタイプは右眼ごと頭部を貫かれると地面に落下し息絶えた。
「ぇ?」
「まず1つ」
スエルテの目線の先にはルーカスの同期で防衛隊巡回班第一班所属のブラックバーンが“ネモ・クルツ”を構えた状態でそこに居た。
「国内巡回班が、何故此処に?」
スエルテの疑問を他所にブラックバーンはスエルテのブレイドを取り押さえるゴブリンタイプをヘッドショットで仕留めた。
「これで5」
「なんだ?」
「今のショットの色は、コンデンサーマガジン....しかも遠距離射撃....マークスマンライフルの“フューリー”か!」
カサドルの読み通り、次々とゴブリンタイプの頭部を次々と粉砕するのはルーカスの同期で防衛隊巡回班第一班所属のワイミーが構える“フューリー”から撃ち放たれたショットだった。
「ゴブリンは彼奴の獲物なんだが。まっ、向こうは向こうで稼いでるだろ」
そう言ったのちワイミーはシコルスキーとカサドルを援護する為、再び引き金を引いた。
「近くで聞くと、物凄い銃声....」
負傷者の応急手当てとゴブリンタイプの対処の両方に追われて居たシラチューダをカバーする様に凄まじい銃声を放つのは防衛隊巡回班第一班長のローガンが操る“リベリオン”だった。
バックパック型の巨大なコンデンサーから供給され、毎分1200発もの高速連射でエネルギーショットをばら撒くリベリオンを前にゴブリンタイプは風前の灯の如く、的になるだけだった。
だがそんなリベリオンの弱点を突く様に別方向からローガンに襲い掛かるゴブリンタイプ。だがそれを許すほど調査班は甘く無い。
スセアモが構える“ラ・モール”から放たれるショットがローガンを別方向から襲うゴブリンタイプを容赦なく粉砕した。
そんなスセアモの支援もあり、負傷者に群がるゴブリンタイプを一掃したローガンは引き金から指を離した。
「防衛隊巡回班第一班。これより交易ルート防衛の為、“外征隊所属貿易守備班”、“外征隊所属調査班”と共同戦線を張る!。国外でも関係ない。相手はわが国にとって大切な交易品を奪おうとする輩だ。容赦はするな!」
「サーイエッサー!」
※
「あっ、リード総班長」
入室と同時にノエルに声を掛けられたリードをノエルが話そうとする内容を察するとノエルの話を止めたのち自分の椅子に座った。
「貿易路を守る為に各隊が連携してるって話だろ?」
「あっ、はい」
「・・・」
「シコルスキーさんとシュトルツさんの所には、防衛隊巡回班第一班が加勢しました」
「やっぱりあそこを動かしたか。まっ、確かに防衛隊の中では熟練揃いだからな」
「他にも外征隊駐屯守備班第三区担当の班員が“フェデラツィオーネ”の外征隊と共同戦線を張って、貿易路に向かう怪物の群れを食い止めてます。その他にも外征隊貿易守備班第四班と外征隊駐屯守備班第四区担当の班員が“ケーニックライヒ”の王国外征隊と共同戦線を張って第三貿易ルートの防衛に当たってます」
「ほぉ〜う。ケーニックライヒが動くとは意外だな」
そう言ったのち煙草に火を付けたリードはノエルと目を合わせたのち口から煙を吐くと身体を向けた。
「動き易くなった現場で奴らがどう動くかは知らん。だが時には“調査”だけでなく、防衛も枠を超えた連携、“共同戦線”を貼る必要がある。そう言った事を知ってるか否かでは、動き方も変わる」
「総班長....」
リードは再びノエルから目線を逸らすと再び煙草を咥え、吸うと煙を吐いた。
「俺の場合、殆どがこうやって煙草を蒸かしながら現場がどう動くかを見るしか出来ねぇ。だが各方面と連絡を取り合うのは、時に権限持った人間じゃなきゃ出来ねぇ」
「全ては“現場”。って訳ですね」
リードは「何処もそうだろう」と言ったのち再び煙草を咥えた。
※
「これで28....」
冷たくそう呟くブラックバーンはすぐさま別のゴブリンタイプに狙いを定めた。
第04調査班と防衛隊巡回班第一班の活躍で徐々に数を減らすゴブリンタイプ。だが怪物の群れは“撤退”と言う言葉を辞書から消したのか、恐れを知らずに突っ込んで来た。
「退く気配がまるで無いな」
そう呟きながらワイミーはヒューマンタイプとゴブリンタイプを仕留めながらシコルスキーとカサドルを支援した。
「弾倉のバッテリーが切れた。交換する!」
「マジでキリが無いぞ!」
「奴ららしくない。打撃は与えてるはずなのに!」
退く事を本当に知らないかの様に突っ込んで来る怪物の群れを前に防衛隊員達も動揺を表に出し始めて居た。
「何処かに怪物の司令塔が居るんだろう」
「司令塔?、妙に統制が取れてるのは、そのせい?」
ソーズマンの発言に反応するスエルテ。ソーズマンは目付きを鋭くしながら話を続けた。
「恐らくだがな。他国が似た様な攻勢に何度かあってる。その司令塔を炙り出せれば、勝機はある」
「だけどどうやって炙り出すんです?。数を減らし続ければ来るかもしれませんが、それじゃあ一方的な消耗戦です」
ワイミーの言う通り、増援が来たとしても怪物が退かない限り一方な消耗戦である事は違いなかった。
その状況を打破しようとシュネーは目を閉じ、全神経を聴覚に集中させた。すると何かを捉えた様にゆっくりと瞼を開いた。
「・・・ブラボー型が、後方に控えてます。呻き声らしき声を挙げると、アルファ型の士気が上がる」
「エルフの聴覚は凄いなぁ。だが、其奴をどうやって誘い出す?」
「ゴブリンタイプ以外のアルファ型の聴覚がブラボー型の声に反応してる。ヒューマンやジャイアントが司令の中継役になってるのかもしれない」
シュネーの報告を聞いたソーズマンは瞬時に戦術を練るとそれを言葉に出した。
「ならそれを潰すのが良いだろう。ゴブリンタイプ以外の怪物を一掃して、誘き寄せるんだ」
「成る程。ゴブリンだけにしてしまえば司令の中継が居なくなるから、こっちに来ざる追えなくなるって訳か」
納得を示したワイミーの発言を聞いたシコルスキーはヴェルチュシルトを構えを直すとジャイアントタイプに目を付けた。
「ジャイアントが1体居るな。任せろ」
「ヒューマンタイプは任せろ。突っ込め!」
連携を取り始める2人。すると後方のシラチューダはヴィルトゥを構え直した。
「ゴブリンが班長を妨害してる。ヒューマンタイプに専念しやすい様、援護します」
「35。俺は引き続きゴブリンを狩る」
「相変わらずだなぁ〜お前は。了解だ、ヒューマンは任せろ」
シュネーの索敵とソーズマンの機転で再び息を吹き返す一行。
スセアモの“ラ・モール”からの援護射撃のもと、“リベリオン”で次々とゴブリンタイプを薙ぎ払い、シュトルツを離れたところから狙うヒューマンタイプをついでの様に蜂の巣にするローガン。
自分の射程圏内及び視界にヒューマンタイプが居るにも関わらずゴブリンタイプを撃ち抜き続けるブラックバーン。
巨大なシールド“ヴェルチュシルト”のシールドバッシュでジャイアントタイプを即死させたシコルスキー。
一行がゴブリンタイプの数を減らしながら他のアルファ型を仕留めて行く中、シュネーの耳に重い足音が入り込んだ。
「来たわね」