ぼっちの聖域の東屋にリア充カップルが入り込んだら爆破
着想を下さった四阿彰人 (あずまや あきと) 様に捧げます。
(本人内容確認済みです。)
僕は東屋。
公園の片隅で、人が憩うためにいる包容力のあるナイスガイさ☆
そんな僕の元に今日もあの子が来る。
いつもひとりで本を読んでいる男の子だ。
お昼ご飯を食べた後は、必ず本を読んでいる。
僕のてっぺんからあたりを見回すと、うららかな4月の陽の下、たくさんの制服姿の男の子や女の子たちがそれぞれベンチに座っておしゃべりをしている。
そう。おしゃべりだ。
僕の下にいる男の子は、ひとりで黙って本を読んでいる。
僕は鳥の声や木々の揺れる音を愛するナイスガイだから、この静けさも愛している。
でも、この男の子は、ちょっと心配。
いつもひとりだけど、同じ制服の子が周りにたくさんいるのを僕は見てしまっている。
だが、僕はしがない東屋。
そっと君を直射日光から守るしかできないのさ…
いつも通りに、男の子はお弁当を食べると本を読んでいる。
ちょっとずつ、陽射しが強くなってきたゴールデンウィーク後。
君は静かに本を読んでいた。
その静けさを縫って届いたのは、女の子たちの声。
「大丈夫?」
「ごめん、ちょっと日陰に行きたいかも…へへ」
僕はてっぺんから見下ろす。
あ、2人連れの女の子の片方が、ふらついている。
おい、聞こえてるか?
僕は東屋の天井から小さな音を立てる。
ぱきん
君は本から顔をあげる。
ちょうど目線の先には2人の女の子たち。
さあ、声をかけろ!
君は本をぱたんと音を立てて閉じた。
「あの、ここ、座れるから。休んで」
グッジョーブ!!
言えたね!よくやったよ!
女の子たちはお互いに目配せをして、「大丈夫」と判断したみたい。
僕の下に入ってきた。
ゆっくり休んでくれ。
それから、僕は時々てっぺんから周りを見回す。
具合を悪くして休んでいった女の子と、あの男の子が話している。
良かった。
これで、あの男の子もひとりじゃなくなるだろう。
2人で僕の下で憩う日も近いな。
ふふふ。
夏休みになった。
灼熱の陽の下は、誰もベンチに座っていない。
僕のところには、あの男の子が夏休みも来ていた。
家が近いのかな?
僕の下で日陰を選んで座る。
コンビニで買ったアイスを片手に誰か来るのを待っているみたいに、ぼうっと前を見ている。
本は開かない。
ああ、そうか。
あの子を待っているんだね。
僕はてっぺんからあの女の子が来ないか、見回してみる。
来たら、またサインの音出してやるから、気づけよ。
夏休みも終わって、またベンチにたくさんの制服の子たちがやってくるようになった秋の頃。
今日は、制服の子たちはやってこない。
休みの日かな。
天気のいい日だ。
公園の木々も色づいて、とてもきれいに染まっている。
僕は誰もいない公園を見回して、ちょっとだけウトウトと眠る。
東屋だって、天気が良ければ眠るよ。
……?あれ?
人の気配がする。
ああ、いつの間にか誰か僕の下で休んでいたみたいだ。
そっと覗いてみると。
あの女の子だ。
そして、その子の膝に頭を乗せている見知らぬイケメン…。
いつも東屋で本を読んでいる男の子とは似ても似つかない…男の子だ。
2人はくすくすと笑い合いながら、小声で話している。
女の子が笑うと膝、というか、太ももの上でイケメンの頭が揺れる。
やべえーーーー!
憩うのは、大変嬉しい!
だが、何故このリア充の秘めやかなあいびきの片方が、あの女の子なんだよー!!
ほか、ほかの人にして!
チェンジチェンジ!
僕は動揺のあまりラップ音をパシパシと鳴らす。
もちろん、こんなのは膝枕リア充に、なんの影響も与えやしない。
と、とりあえずあの男の子が来なければ…
僕はてっぺんから公園を見回してみる。
小さな子どもを連れたお父さんが一緒に遊んでいるだけだった…。
ほっとした瞬間。
僕の東屋としての勘が叫んだ。
後ろ、うしろ!
ここは公園の片隅の東屋。
片隅ということは、何かが近いということ。
それは、歩道。
東屋の簡易な仕切りで見えていないように思えるが、よく見れば歩道から僕、東屋の中が見える。
そして、その歩道に今いるのは…。
あの男の子だ。
僕はラップ音を大量に鳴らす。
リア充カップルは気にも留めない。
パシパシパシパシッ!
固まったまま、男の子は東屋の中を凝視している。
なんかヤバい気がするー!
僕は危険だけを察知しながら、身動きも声も出せない無力な東屋。
ようやく視線を外して、男の子が走り去った。
僕はほっとして、リア充カップルが早く立ち去らないかとそれだけを気にしていた。
しかし、リア充が立ち去る前に、あの男の子がひとり、リュックを背負って戻ってくるのが見えた。
そのまま音を立てずに、リア充カップルから見えない場所にある草むらに身をかがめる男の子。
……あぁ、そうか。わかったよ。
うららかな秋の陽射しはあたたかいなぁ。
清々しさすら覚えるよ。
うん、僕ももう古い東屋だからね。
そろそろ潮時だと思っていたんだ。
それに傷ついた君の心はもっと悲惨なことになっているのだろう。
いいよ。
君の心を救えるのなら。
僕はひときわ大きなラップ音を最後に鳴らした。
さようなら、いままでありがとう。
これで君の心が救われるのなら、それで十分さ。
だって、僕、東屋はナイスガイだから。
僕はてっぺんから公園を見回して最後に空を見上げた。
男の子が歩道の先からスイッチを押す時、小さな声で呟くのが聞こえた。
「リア充…滅殺…!」
爆発音と共に、僕とリア充カップルは爆発四散した。
僕は高く高く、空を飛んだ。
黄色や赤の紅葉に囲まれた青い青い空に向かって。
君の心が晴れますように。
《おしまい》