7話目
「そう。君にはイベントバトルが約束されている。本来なら強制敗北イベントなんだよ。これから私は君の人生に介入する。このイベントを覆すのさ☆」
光太郎の表情が絶望に染まっている。そう、どうするつもりなのか考えていなかったのだ。目の前のわけのわからないやつにどうにかできるとは思ってもいなかった。
「何が出来るって言うのさ!?」
「ちっちっちっ、わかっていないなぁ、君。神様も天使も武闘派なんだぞ☆ 迷える子羊を救う為ならなんだってやるさ☆」
アナエルが指を横に振りながらそう言った。
「他力本願など期待できない人生だったから、いまいち信用できないね。大体どう解決するって言うのさ。さっきの確率を100%にするチート能力でも使うの?」
「んー、あれは一日一回までしか使えない限定能力だから今日は無理かな★ そんな奥の手を使わなくても、あんなレベルの相手ならどうとでもなるよ」
「あの不良達は極力関わりたくない相手なんだよ。僕のことなら放っておいてくれ!」
光太郎は諦観のこもった表情でアナエルを振り払う。
「それがそうもいかない。あんな奴らをのさばらせておくわけにはいかないんだ。人に悪事をなさせようとする真のクズには神罰の代行が必要です★ いわゆる、死あるのみ」
アナエルは奮起している。かなりやる気のようだ。
「下手なことして仕返し受けるのは嫌だよ。僕にできる事は嵐が過ぎるのを待つように、ただじっとして息を殺しているだけなんだ」
「それならなおさら成敗しなきゃならないだろう。奴らに言ってやるんだよ。『Say BAY!(さよならと言え!)』ってね☆」
「そんな簡単に事が済んだら誰も悩まないよ!」
光太郎はまた憂鬱な気分になっていた。自分さえ気をつけていれば何とかなると思っていたのだから、全然物事と言うものがわかっていなかった。世の中には厄介ごとから好かれてやって来られる場合もあるという事を。既に目を付けられている場合は何もしないでやり過ごそうなんていうのは通じない。病気になった猫がじっとして病が癒えるのを待っているのとはわけが違うのだ。
「さぁ行くよ☆ どのみち相手を無視したら無視したで、あとでその事で因縁を付けられるんだから。今の時点だと君はそうなる運命なんだ。私の第二の能力。未来視の力によると、そうなる事が判明している。ならこちら側から討って出るしかないんだよ」
アナエルは光太郎に今後待つ運命を突きつける。
「運命に干渉する能力だらけなんだね。天使ってみんなそんな感じなの?」
「イッエース! そうなんでーす☆」
アナエルは両手でグッドのポーズを作った。
「つまりそれは種族の能力が凄いというだけなんだね。天使って気楽そうで良いね。生まれつきチート能力はあるし、神様の言う事を聞いているだけでいいなんて」
「・・・・・・・・・・・・・・・さて、それはどうかな?」
アナエルの表情は張り付いた笑みで固まっていた。
「あっ、図星だったようだな」
「ま、まぁそんなところだよ。さぁ、今から不良達の元へ向かおう。お夕飯までには間に合うから」
「行きたくない、行きたくないー!」
「どうせ後でまたいじめられるんだから、そんな未来を回避しようYO☆」
「はっ、そうか。未来視の力があるから回避方法もわかるんだね! よし行こう!」
光太郎はきっとアナエルが何とかできると思っているからこのように言っているのだと考えた。その実、未来視自体はそこまで便利ではないのだが。
「意を決したならば、さぁ向かおう。君の新たなる人生の岐路へ。いざ、ご出陣☆」
アナエルが光太郎の背を押すようにして部屋を飛び出した。
夜のコンビニ。店内の明かりが外の道路を照らし出す。様々な雑誌の表紙が並ぶ本棚の裏、コンビニの宣伝チラシが張られた窓の外側には、明かりに釣られた蛾などの虫が集まっていた。そこはいつも不良達のたまり場となっている。四人のガラの悪い少年が集まっている。昼間に光太郎に乱暴を働いた者達だった。彼らは悪ふざけをしては笑いあっているようだった。
その様子を物陰から見ている光太郎。その足はガタガタ震えていた。昼間に受けた暴行の記憶が蘇っていたのだ。
「さぁ、光太郎。彼らにNoの答えを突きつけてくるんだ。意思を示せ☆」
「無理だよ! そんなこと出来ないよ!」
光太郎は及び腰になっていた。
「まず、天に己の在り方を示すんだ。そうでなければ天も加護を与えられない」
アナエルの表情は真剣そのものだった。
「もしかして、それが僕に与えれれる試練ってやつ?」
光太郎はふと何かに思い当たったようだ。
「その通り。試練を乗り越えられずに何の成長が望めようか」
「話の筋書きを変えようよ。いじめられて困っている少年がいました。彼はたまたま呼び出した天使のとんでも能力で無事切り抜けられました。ちゃんちゃん、で」
光太郎の空想の中ではそんなお気楽ストーリーが繰り広げられていたのだ。追い詰められた人間は、時として現実的にはありえないサクセスストーリーを妄想して現実逃避する事もある。