47話目
「ちぃっ、これはいけませんね!」
焦るザフキエル。ステュムパリデスが背後から迫る!
「この距離だったら外しはしない! ルミナス・アロー☆ スナイピング・シュート☆」
アナエルが狙いをすまして光の矢を放った。それは高速で落下してきたステュムパリデスの動きをも正確に捉えた。ズガッ、と突き刺さる矢。ステュムパリデスはそのまま墜落して塵へと消えた。
「よろしい。後はこのグリフォンを私が片付けましょう! ホイール・オブ・ガルガリン!」
ザフキエルがそう叫ぶと、背中の車輪が高速回転をしながら燃え始めた。その車輪がグリフォンへと衝突する。衝突。グリフォンは車輪に轢かれて背の羽がぼろぼろになった。
「な、なんだと!? これだけの魔獣を呼び出したのにやられるというのか!?」
「これら魔獣を私達に一度ならずとも見せたのがあなたの敗因。見慣れた相手ならば対処法はいくらでも思いつくものです。神の拳よ!」
そう叫んだザフキエル。グリフォンの頭上に大きな空間のゆがみ。そのゆがみから現れる鉄拳がグリフォンを砕く。グリフォンはあっという間に塵へと消えていった。
「そ、そんな! 魔獣達をこうもあっさり消滅させるだと!? 私の力は至高の力。苦難の道を歩んできた私に与えられた選らばれし者の証のはず! それがなぜにこうも簡単に!」
わめく冥堂寺。アナエルが彼の前に立った。
「魔術の力は悪魔の力。悪魔は天の敗北者。堕ちた者達の力。そして人を惑わす為に与えられる誘惑の果実に過ぎない★ そんなものが至高の力のわけがないでしょう☆ 悪魔が魂を得るために対価で渡すかりそめの力に過ぎないのだから☆」
「そういうわけです。そんな力を振るったあなたには天の裁きが下される。最終審判の時は来ました。覚悟なさい」
ザフキエルが冥堂寺に歩み寄る。
「な、なんだ。お前達、何をする気だ!」
冥堂寺が無様にはいつくばって後退する。
「ちょっとしたおしおきです。あなたの罪の重さに準じて罰が下される。あなたは幇助の罪が問われますね。魂を対価に消費するとわかっていながら他人に持ちいらせたその罪は重いですよ!」
ザフキエルは厳しい表情を浮かべて冥堂寺を睨んでいる。
「ち、近寄るな! ええい、魔獣よ、出てこい、出てこい! 何でもいいから出てこい!」
冥堂寺は魔術書に頭を擦り付けて懇願する。しかし、魔獣達は出てこない。
「無駄です。天使に倒された魔獣達は塵へと還ります。地獄に封印されて出てくることはないでしょう」
ザフキエルが冥堂寺の目の前でにっこりほほ笑んだ。
「あっあっあっ!」
冥堂寺はろれつの回らない口で何かを言いかけている。これで全てが終わる。そう思われたとき。
「おう、ちょっと待てや!」
ドスの聞いた声。一同が視線を送ると、そこにはアスモダイがいた。その背には大きな黒い翼が広がる悪魔が、紅い瞳を輝かせて睨んでいた。
「お、お前はあの時の悪魔!」
冥堂寺は地獄で仏を見るような目で悪魔を見ている。
「勝手に魔術書を封印されると困るんだよ。魔術書を渡してもらおうか」
冥堂寺の事はどうでもよさげなアスモダイは、魔術書だけの返還を求めた。冥堂寺が呆然の表情を浮かべた。
「アスモダイ! 私と契約しよう! 魂はお前にくれてやる! だからお前の力を私に貸せ!」
冥堂寺はあらん限りの声で叫んだ。その言葉にアスモダイがにやりと笑う。
「おいおい。俺と取引の最中に逃げ出したお前が、どういう風の吹き回しだよ。しかし、まぁいい。もらえるものは頂いておこう。そういうことだ、天使ども。その男もこちらに渡してもらおうか!」
アスモダイが牙をむいた。場の空気が凍りつくように温度が下がった。
「上級魔王、アスモダイですか・・・・・・天からの援軍が欲しいところではありますが、致し方ありませんね。アナエル、構えなさい」
ザフキエルがアナエルに檄を飛ばす。アナエルは相手の雰囲気に呑まれかけていたが、慌てて光弓を構える。
「やる気かい。いいねぇ。こっちはずっと魔術書の行方を捜してばかりでイライラしていたところだ。お前達に八つ当たりさせてもらうとしよう!」
アスモダイがにいっと笑った。それはチェシャ猫のように。
「そうはさせません☆ ルミナス・アロー☆ シュート☆」
真の力の光り輝く矢が放たれる。それはアスモダイを的確に捉えていた。命中するかに思えたが。
「小ざかしい!」
アスモダイが拳を振るう。バシッと矢が弾かれる。前よりは気合を入れて弾いている分、それなりの力を込めなければ弾けない様だったが、それでも弾かれた。
ザフキエルも動き出す。
「我が怒りは神の怒り。神の鉄拳。その拳は全てを砕く!」
ザフキエルの詠唱。アスモダイの周囲におびただしい空間のゆがみが現れる! 空間のゆがみから神の拳の激しいラッシュ! しかし、
「オラオラオラオラオラオラァ!」
アスモダイも激しい拳の応酬で神の拳を殴り返している。強烈な打撃音が連続して続く。・・・・・・神の拳は全て迎撃されてしまったようだ。




