45話目
あっという間に一週間が過ぎ土曜日となる。あれからステュムパリデスは出現しなかった。しかし、光太郎達は不気味なものを感じていた。
その日は再びゆえの家に集まっている。
「と、言うわけで、私はあの冥堂寺空耶さんがなんだか怪しいと思います★」
一番初めに口を開いたのはアナエルだった。
「ふむ。彼について私達は存じ上げませんが、あなたは疑わしいと言うのですね?」
ザフキエルは優雅に紅茶を口にしていた。
「明らかに魔術の事を知っている口ぶりですよ! 唐突にそんなものを使って復讐しろとかいう人は普通いません★」
光太郎は黙ってアナエルのいう事を聞いていた。
「・・・・・・あの人は僕なんだ」
「えっ、光太郎。それってどういうこと?」
アナエルが聞き返す。
「あの人はきっと魔術でいじめの仕返しをしてしまったんだ。チート能力を手にいれて、それで仕返しをしてざまぁ展開をやっちゃった人なんだよ」
「ふむ、メタな会話なのかそうでないのか判別しにくい例え方ですね。あなたはその芸風で行くおつもりですか。それはそれとして、あなたの言葉が真であるならば彼を止めねばなりません。魂を磨耗させて生きているようなものなのですから」
ザフキエルがティーカップをテーブルの上に置いた。
「空耶さんを問いただすのは僕がやるよ」
光太郎は意志を固めたようだ。光太郎は冥堂寺にメールを送った。
「光太郎君。私達は念の為に現場で待機しているわよ?」
「それでいいよ。あの人は僕が止めなきゃいけないんだ」
「おお、光太郎が主人公っぽい事を言っている!」
アナエルが非常に驚いている。
「それはそうでしょう。主人公なのですから」
ザフキエルはいつものように落ち着いたものだった。
「おっ、メールの返信が返ってきた。・・・・・・明日彼と会う事になった。場所は高速道路の下」
「・・・・・・人気のない場所を選んできたようね。警戒するに越した事はないわ」
ゆえが注意を促す。彼女は原典の能力を危惧していた。間違いなく原典には悪魔が憑いている。その原典が中級魔獣を呼べる程度のレベルである事は確定しているので、決してレベルの低い者ではない。そして上級魔王が目撃されている。今のところ二つの話は繋がらないが、点と点が線で結ばれた時には何が起こるのかはわからない。
「空耶さんはまだ僕が預言書を持っているとは知らないはず」
「わからないですよ。あれからしばらく監視の目がついていないのも気になります。それに、彼がこれまで写本を渡した相手は全て裁かれているのですから、彼が警戒していてもおかしくはありません」
ゆえは光太郎を案じていた。
「光太郎。私はついていくよ? 一人きりじゃ危ないから☆」
「・・・・・・空耶さんは話せばわかってくれるはず。危なくなんかないさ」
光太郎は夢を見ていた。人は話し合えば分かり合えると。そうであるならば、これまでのような苦労はしなかったであろうが、光太郎はまだ幻想を抱いていた。
翌日。その日は曇り空だった。暗雲立ち込め、今にも雨が降り出しそうだった。
光太郎はアナエルを連れて高速道路下の空間に来ている。ゆえとザフキエルも先行して潜んでいるはずだった。
「もうそろそろ時間のはずなんだけれど」
光太郎は携帯の時間を見た。
「・・・・・・来るよ」
アナエルがそういうと、遠方から向かってくる冥堂寺の姿が見えた。悠々と歩いてきている。彼は手ぶらだった。何かを持っている様子はない。
「やぁ、光太郎君。待たせちゃったかな?」
「いえ、つい先ほど着いたばかりですよ」
光太郎は嘘をついた。しばらく前に訪れて待っていたのだ。
「そうか! さて、今日は何の御用かな? 私は予定が詰まっていてね。出来れば手短にお願いしたいのだけれど」
冥堂寺はいつものように笑みを浮かべているが、言葉のどこかに棘がある。
光太郎は意を決する。
「空耶さん。空耶さんはもしかして、魔術書の原典をお持ちじゃないでしょうか?」
光太郎の台詞に空耶は意外そうな顔をした。
「魔術書の原典だって? ははぁ、僕がコレクションしていると思ったんだね。さて、どうだろうね」
冥堂寺ははぐらかした。
「空耶さんは原典から写本を作っていたのではないかと思っているんですよ」
今度は冥堂寺の顔色が変わった。
「・・・・・・ふむ、どうしてそう思ったのかな?」
「空耶さんから頂いた本は写本でした。前に空耶さんから聞いた話を考えると、もし空耶さんが魔術書の原典を持っていたとしても、手放すとは考えられないんです。だから魔術書の力を使ってミラーイメージである写本を作って人に与えているんじゃないかと」
冥堂寺は黙って光太郎の話を聞いていた。
「それは動機が欠けているね。なぜ私がそんな真似をしなきゃならないんだい?」
「・・・・・・魔術書の力で写本を作っていると言う点には疑問を抱かれないんですね?」
「おっと、そこが引っ掛け問題だったのかね? ふむ、よしんばそのような真似ができるとしようそれで私に何の得があるのかね?」
光太郎は押し黙る。その点はわからないからだ。
「空耶さんは仲間を欲しがっているんじゃないかと」
「私が、かい?」
冥堂寺の笑みが張り付いたような笑みになった。




