43話目
翌日の学校。その日も何事も無く過ぎ去って行った。光太郎がアナエルといつも一緒な事も相まって、他の生徒が光太郎に関わらないようになっていたのだ。
気がつけばアナエルは学校一の美少女の座を争う地位にまで来ていた。そんな彼女と同棲している光太郎をやっかむ声は上がるが、光太郎に実害はなかった。アナエルはここまで出来事を読んで学校に入学してきた節がある。光太郎の人間関係を変えたのだ。
あっという間に放課後の時刻。光太郎はゆえから屋上に来るようにメールを受け取っていた。いつものようにアナエルを連れて光太郎は屋上へと向かった。
その日は風が強く、待っていたゆえの髪が風に揺られていた。ともすると彼女のスカートが翻り中が見えそうになる。
「むっ、邪念を感知!」
アナエルが機敏に反応をしてくるので、光太郎は心の中によこしまな感情を抱く事もできなかった。
「なんでお前はそういうところだけ反応が鋭いんだよ!」
「私と光太郎は一心同体。心のふかーいところで繋がっているからね。だけど安心して。邪念を感知しても感知するだけだから。何をどう考えているのかまではわからないから★」
「安心したけど安心できないよ!」
ゆえが光太郎達に気がつく。
「あなた達は本当に仲が良いわね。まるで恋人同士みたいに」
「なっ、なんでこんなやつと!」
光太郎が慌てて否定した。
「あれ、今日はザフキエル様は実体化しないんですか?」
見ると今日はゆえの姿しか見えなかった。
「それについてはこれからお話しするわ。アナエルさんは天使としての姿や力を見せるのは厳禁でお願いね」
ゆえが先に二人に釘を差した。
「なにかあったんですか?」
光太郎も真剣な表情になった。
「えぇ。この学校が今、魔獣に監視されているわ」
ゆえの一言は光太郎には衝撃的だった。
「えっ、どうして!?」
「さぁ、それはわからないわ。直接視線は送らないようにしてほしいのだけれど、北東の方角に飛んでいる何かが見えるでしょう? ザフキエルいわく、あれは鳥の魔獣らしいわ。ステュムパリデスという爪やくちばしが青銅でできている醜悪な魔物よ」
光太郎は思わず視線を送りそうになった。目の端で言われた方角を捕らえると、確かに何かが飛んでいる。
「んー。一応倒せる相手に見えるけれど、相手の狙いがなんなのかはわからないですね★」
アナエルは視線を送らずに察知したようだった。
「そう。相手の狙いがわからないのよ。写本を燃やして回っている私達の存在に気がついた者が監視しているのかなんなのか、それもわからないの。だから今は様子見。気がついていないふりをしてほしいの」
ゆえが目を閉じてザフキエルと念話をしながら話をしているようだ。
「一体いつから監視されていたんだろう・・・・・・」
光太郎が不安になる。自分の家も特定されているのだろうかと。
「それはわからないわ。私もさっきザフキエルに教えられて気がついたばかりなの」
ゆえが目を開く。その表情には不安は出ていない。どちらかと言うと、相手のほうから尻尾を出したといった風だった。
遠方でステュムパリデスが風に乗って滑空している。しかし、その距離は一定に保たれていて明らかに何かを監視しているのは間違いなかった。
「あいつは何を監視しているんだろう?」
「それはわからないけれど、学校のあるこの方角をずっとみているとザフキエルは言っているわ。召喚者の命令を受けているのは明白ね。あなた達、あれから写本の出所を探ったのでしょう? 何か成果は得られたのかしら?」
「それが、本屋は閉まっていてそれ以上のことは何も・・・・・・」
「その捜査の線で魔術所の所有者に警戒されようなことにでもなったのかしら。ともかく、しばらくは天使から離れないことね。ご自分の身はご自分でお守りくださいな。あれがいる間は私達も迂闊に監視任務には当たれないわ」
「光太郎を守るのは私の役目☆ 任せて☆」
アナエルがきらりーんと久しぶりにポーズをとった。
「えー、ただでさえ一人の時間がほしいのに・・・・・・」
「私は読書の時間の邪魔はしてないじゃないか☆」
「なんで本を読んでいる間の僕の顔をじっと見ているんだよ!」
「見守る事が天使の仕事ですから☆」
「ほんと、仲良いわね。光太郎君。天使と付き合うのもいいけれど、手を出すのは厳禁だからね」
ゆえが心配そうに光太郎を見つめた。
「なっ、そんなことするわけないじゃないか!」
「それはよかった。人間と肉体的に交わった天使はみんな堕天するからね。これは昔からある話だから現代でもそうなんでしょうけれど」
ゆえのさりげない一言に光太郎は驚いた。
「えっ、天使ってそういう事でも堕天するの?」
「うーん。するねぇ☆ だから堕天使の方が人間への理解は深いとも言われる事もある☆」
「アナエルさんが堕天しない事を祈っているわ・・・・・・ザフキエルが何か心配しているようだけれど、一般的な『なろうのラノベ』なら一線を越えることはないから大丈夫でしょう、と言っているわ」
ついにザフキエルもメタなネタに触れるようになっていたのであった。
「あーそれなら安心だね☆ なろうのラノベも健全なエンタメだから☆」
「お前はどこを見て誰を想定してそんな話をしている!」
光太郎の叫びだけがむなしく響く。
鳥の魔獣に監視されているにもかかわらず、のんきな一行なのであった。




