41話目
「アナエルはかなり目立っているからなぁ」
「えーっ、これでも控えめな格好をしているつもりなんだけどな★」
「アナエルさんは普通に高校に入っていらしているようで驚きましたわ。運命干渉系の能力を自由気ままに使いすぎだとザフキエルは言っているわ」
「うっ、光太郎を付きっ切りで守護したいが為にやむを得ず・・・・・・」
アナエルはばつが悪そうにしている。
「それなら霊体化していればよいではないかとザフキエルは言っていますがね」
「うっ、しまった★」
「おまえ、まさか人間の学生ライフを満喫したいが為にこんな事を・・・・・・」
「ま、まさかぁ! 光太郎のフレンドになろうとしたが為ですよ、これは★」
アナエルはごまかすような笑いを浮かべた。
「なかなか困った天使様のようね。さて、魔術書を手に入れたと伺ったのだけれど」
ゆえが本題に入った。光太郎がテーブルの上に魔術書を差し出した。
「これです。今日手に入れた魔術書は」
ゆえが魔術書を手に取った。手に取った瞬間、顔をしかめている。
「・・・・・・ザフキエルが言うにはこれも写本との事ですね。光太郎君はこれをどこで手に入れたのですか?」
「知り合いに手に入れてもらったんです。その人は古本屋を巡り歩いたと言っていますね」
ゆえが魔術書を閉じて目を閉じる。
「この書は預かっておきます。後ほど処分しますわ。・・・・・・ザフキエルが、その古本屋はわかるのかと尋ねています」
「そこまでは聞いておかなかったけれど、後で聞いておきます」
光太郎は早速空耶にメールを送った。
ゆえはコーヒーを口にする。
「古本屋を経由すれば売った人間までは辿れないでしょうし、写本でいくらでも本を作れるから小銭稼ぎにもなるでしょうね。原典の持ち主がそんなくだらない事で小銭を稼ごうとするような輩なら楽な相手なんでしょうけれど」
ゆえはコーヒーカップをソーサーの上に置いた。脇には半分だけ入れられたコーヒーシュガーが置かれている。
「へぇ、そんなことも出来るんですね。魔術書のほうが応用は利くなぁ」
「光太郎、そういう方法で小遣い稼ぎしそうだよね★」
「できるとわかれば、やるかやらないかでいうとやるかなぁ」
「悪魔としても魔術を流通させられるし、彼らとしては良い事尽くめね。写本程度の使役でも人の魂を磨耗させることは出来るのですから」
光太郎が何かを思い出したようだ。
「そういえばザフキエルは写本をすぐに燃やすけれど、魔術書は燃やさずに封印しているのはなぜなんです?」
「・・・・・・原典にはそれをもたらした悪魔がいます。その悪魔達を封じるのには魔術書を用いるのが都合がよいの。力ある者はその自らの力を用いて封印するのが効率的だから。写本にはそこまでの力は無いから、ただの害悪として処分しています」
「それでゆえさんのコレクションみたく魔術書が増えていくわけか。あれは意味があってそうしていたんですね」
「えぇ、魔術書なんて手元に置いておきたくないのが本音ですけれどね。魔術書に縁のない方は魔術書を手にすると嫌悪感を感じるんですよ。知っていましたか?」
光太郎は魔術書の写本を手にした時の感触を思い出した。
「なんだか嫌な感触の本だなぁって思いましたね。本に対してそういう感想を抱いたのは初めてです」
ゆえは頷いた。
「であれば大丈夫。魔術書に魅入られれる事はないでしょうから。魔術書は心の弱いものにつけ込むのよ。あるいは邪悪なものに。預言書に見込まれたあなたなら問題ないでしょう」
「・・・・・・もし、僕が預言書より先に魔術書に出会っていたら、その時はどうなっていたかはわからないですよ?」
「それはないわ。あなたは預言書と出会う運命だった。そういう神の思し召しなのよ。人は、運命を初めから天に与えられているから」
ゆえは席を立った。
「何か続報があれば連絡するよ」
「ええ、期待して待っているわ。それではごきげんよう」
ゆえは優雅に去って行った。と、その時メール受信のバイブレーション。光太郎がメールを見ると、空耶からの返信だった。魔術書の写本は神保町のとある古書店で購入したと書かれている。エトワールという店の名も書いてあるが、光太郎には知らない店だった。
「お店の情報が得られたな。他にも魔術書が置いてあるかもしれない。行って見るか」
アナエルも頷いた。二人は喫茶店を後にする。
・・・・・・その喫茶店内にて。光太郎達を見ていた男子高校生達のグループがあった。光太郎が以前ノートを貸した知人のいるグループである。
「みたか? 光太郎のやつ、成城さんとも仲良さそうに話をしていたぞ?」
「あいつ、いつからそんな交友関係を持つようになったんだ?」
「アナエルさんとも同棲しているらしいし、なんであいつばっかり!」
と、生徒達の間で話題になっていた。男子生徒達の嫉妬渦巻く喫茶店。光太郎は学校での噂話の主人公となっていた。いわく、女にちやほやされてつけあがってる影キャラと。




