40話目
光太郎はアナエルにはまったく気にも掛けず、学校を飛び出していった。アナエルは仕方ない人間を見るような目で光太郎を見ていた。
光太郎は駆け足で目的地を目指す。アナエルがいる時は自転車通学ではないので学校に自転車がないのだ。しかし、目的地は徒歩でいける場所だった。
冥堂寺と待ち合わせをしていたのは駅前の銅像前だった。光太郎がたどり着くと、すでに冥堂寺が待ち合わせ場所に着ていた。高そうなスーツに身を包んだ冥堂寺がすらりと立っている。その冥堂寺が光太郎の姿を見つけたようだった。
「やぁ、光太郎君。早かったね」
冥堂寺はにこやかな笑顔を浮かべている。
「すみません、お待たせしてしまいましたか?」
「いや、私も先ほどついたばかりだよ。それより、はいこれ。君達が探していた魔術書だ。彼女さんにプレゼントしてあげたら良い」
冥堂寺は光太郎に一冊の本を手渡した。光太郎は本を受け取る。・・・・・・じっとりと手に張り付くような肌触りの、嫌な感触がする本だった。
「ありがとうございます、空耶さん!」
「いやいや、しかし魔術書を欲しがるとはオカルト趣味なのかな、あの外国人のお嬢さんは」
「まぁ、そんなところですよ。でも、あいつも喜ぶと思います!」
「なるほど、それは良かった! 古本屋を巡り歩いた甲斐があるというものだよ!」
冥堂寺はグッドと指を立てて歯をきらりとさせた。イケメンスマイル。光太郎はなんて頼りになる人なんだろうと思った。
「古本屋も探してみれば魔術書ってあるんですね」
「探してみれば、あるところにはあるのさ。それにしても彼女さんも本好きなのかね? 良いご縁じゃないか。大事にするんだよ?」
「あいつとはそんなじゃないですよ!」
「ははは! 異性の友達も大事にしなきゃだめだぞ? 大人になってから異性の友達を作るのは大変なんだからな!」
冥堂寺は人の良いお兄さんと言う感じだった。
「それにしても、こんな貴重な本を御譲りしていただいてありがとうございます!」
光太郎は深々と御礼をした。
「いいって事さ! 今度は君の好きそうな本を探しておくよ。じゃ、私は別件の用事があるのでこれで失礼するよ。じゃ!」
冥堂寺は片手を上げて敬礼するようにしながら去って行った。
「優しそうな感じの人だなぁ」
光太郎は冥堂寺の姿が見えなくなるまで見送るのだった。
光太郎はそのまま家への帰路へとついた。もと来た道を引き返す。・・・・・・と、しばらく歩くとアナエルが立っていた。彼女は自販機を背にひらひらと手を振っている。
「なんだ。結局ついて来ていたのかよ」
「未来視によるとこのルートを通って帰るようだったからね。で、魔術書はどうだったの?」
「ほら、この通り受け取ってきたよ」
光太郎がアナエルに魔術書を手渡す。アナエルが魔術書に触れたとたん、びくんと反応した。
「うわっ、何この感触! 気持ち悪い! 光太郎、よくこんなのを持ち歩けるね!」
アナエルは魔術書を手に取るなり嫌悪感をあらわにした。
「僕もなんだか気持ち悪い本だなぁって思ったけれど、そんな顔するほど!?」
アナエルは思い切り表情に嫌そうな感情が表れていた。
「うー、だって気持ち悪いんだもん。んー、中身は魔獣召喚の魔術とかが書かれているね。おや、異性の気を引く魔術だとかも書かれている★」
「さてはアナエルがそういうのに興味がある子だと思って、空耶さんがそういう魔術書を見つけてくれたのかも」
「そんな魔術に興味はありません!」
「で、アナエル。この本は原典なのか?」
「えっ、うーん。それはわからないかな★」
アナエルは本をひっくり返してみたりしてみるが、何もわからないようだった。
「ダメじゃん! しかたない。ザフキエルに聞いてみるか」
光太郎はゆえに電話する。この間の日曜日に連絡先を聞き出せていたのだ。しばらくして電話が切られた。
「ゆえさんはなんだって?」
「興味があるから、この近くの喫茶店で待っているとさ」
光太郎とアナエルはゆえとの待ち合わせ場所を目指して歩き始めた。
学校の下校途中にある小さな喫茶店。青い地の鍵マークが書かれた看板の立っている喫茶店だ。ここは光太郎の学校の生徒達がよく利用する喫茶店だった。
ちりんちりん。光太郎が入り口のドアを開けると、ドアの鈴が音を立てた。中を見渡すと客は光太郎の学校の生徒たちが殆どだった。みなおしゃべりに興じているようだ。光太郎がゆえの姿を見つける。ザフキエルの姿はなかった。
「お待たせ、ゆえさん。ザフキエルは?」
光太郎とアナエルはゆえの対面の席に並んで座った。
「あぁ、彼なら今は霊体化しているわ。外ではなるべく姿を現さないようにしているの。彼も目立つでしょ」
光太郎は思い出した。ザフキエルは天使の姿だと背中に車輪を背負っているし、あのまま人間に化けたとしてもアナエル同様に目立つのは明白だった。




