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4話目

 光太郎は泣き腫らしながら投げ捨てられた本を拾い上げて抱える。怪我をしたため、自転車に寄りかかるように押しながらの帰宅。

 ぼろぼろになった光太郎はようやく家に辿り着いた。服についた土ぼこりを払い落として家に上がる。


「あら、光太郎。遅かったわね。御夕飯はまだだから。お父さんが帰ってきたらご飯にしましょ」


 母親が光太郎に声をかける。ぼろぼろになった光太郎は隠れるようにして通り抜ける。親に問い詰めれられておおごとになってしまうと、後々不良達から何をされるかわからないからだった。


「・・・・・・今日はご飯はいらない・・・・・・」


光太郎は腹部が痛くてご飯どころではなかったのだ。

 光太郎は黙って二階の自室へと戻った。部屋に鍵をかけて、肩に掛けていた鞄を机へと投げ出す。手にしていた本を持ったままベッドへと潜り込む。掛け布団を頭から被ってこもりきる。


「うっうっうっ・・・・・・」


 光太郎は本を抱きかかえて泣き始める。それは何のための涙か。怪我の痛みか。いや、そうではない。理不尽な仕打ちへの涙か。いや、そうでもなかった。自分の無力さに涙していた。多対一なのでどうする事も出来なかったはずだが、それでも光太郎は自分の無力さに涙した。店主からのご好意を形にしたような本を粗末に扱われたのも酷く悲しかった。貰った洋書を投げ捨てられた。値引きしてもらった本は破り捨てられた。せっかくの人の好意を台無しにされた事がひどく悲しかったのだ。それでも光太郎は抵抗も出来なかった自分を責め苛んだ。

 金をもってこいといわれているが、そんな金は無い。盗んでこいといわれているが、そんな真似はしたくない。しかし、このままではまたいじめられる。光太郎はどうする事も出来ない問題で思考がぐるぐると回っていた。もはやこの世の終わりとさえ思えるくらいに悩んでいた。


「間違った事はしたくない・・・・・・強い人間になりたい・・・・・・」


 少年の涙が頬を伝って、抱きかかえていた本にかかる。その時であった。涙がかかった洋書が光り輝き始める。


「な、なんだ!?」


 光太郎は驚愕した。開かなかった本がひとりでに開かれてゆく。神々しいまでの光が、被った布団の中へと広がってゆく。

 洋書がふわりと浮き上がった。ぱらぱらぱらぱらとページがめくられていく洋書。本から七色の光があふれ出し、光太郎を包み込んだ。

 光太郎は洋書ごと宙に浮かんだ。光太郎と洋書の間に光の渦が生まれる。それはまるで蝶の繭のように大きな塊となって、やがて開かれる。

 光の繭から現れたのは、金髪碧眼、白い一対の羽を持った女子高校生くらいの年齢に見える女の子だった。その姿はまるで天使そのものだった。

 天使は白いローブに身を包んでいる。天使の長い金髪がはらりとベッドの上に降りかかった。宙に浮いていた光太郎は洋書とともにベッドの上に着地している。


挿絵(By みてみん)


「やぁ。我、顕現せりってね☆ 日本語、これであっている? 言語の自動変換はうまく言っているかな? おーい」


 呆然としている光太郎の前で、天使が手を振っている。光太郎は何が起きたのかわからなかったので反応できずにいたのだ。


「な、な、な、な」


 光太郎がわなないている。


「な? どうしたのさ。それだけではわからないぞぅ★」

「なんだおまえは!?」


 光太郎はようやく言葉を振り絞る事ができたようだ。


「なんだおまえはと問われたならばお答えしよう☆ 私はアナエル。天界の使い。すわなち天使。マジエンジェル! きらりーん☆」


 アナエルがきらりっとポーズをとった。


「コスプレした変態が一体どこから!?」


 光太郎は鍵をかけたはずのドアを見た。


「変態とはひどいなー。そして私の話を聞いてないな? 君は私を呼び出したのさ。この本の中からね☆」


 アナエルはベッドの上の洋書を指差した。


「まてよ、呼び出したってそんな覚えは無いぞ!」


 光太郎は首を横に振って正気を保とうとした。


「いや、確かに君は私を呼んだ。君の切なる願いが私を呼んだのさ。魁光太郎君」

「なぜ僕の名前を知っているんだ!?」

「それはこの本の中にいた時から君の事を見ていたからさ」

「この本って、あれ。開かなかったはずの本が開いている」


 光太郎は洋書を手に取った。確かに本が開かれている。


「その書が開かなかったのは、前の持ち主がふさわしくなかったからだよ。その書はね、人を選ぶんだ。君は選ばれたんだよ、おめでとう☆」


 光太郎は状況がようやく飲み込めてきた。ベッドの上に天使が立っている。その背の翼は動いているので間違いなく本物だと思われる。アナエルの頭上には眩いばかりの光輪がある。


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