表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/49

39話目

 翌日。小鳥がさえずる良い天気の朝。澄み渡る朝の空気と、学校や仕事に行きたくないという黒い感情が渦巻く今日は月曜日。

 光太郎はいつも通りに学校に向かった。人に化けているアナエルも一緒だ。制服に身を包んだアナエルが光太郎の隣を歩いている。


「光太郎もいつも学校ばかりだよね。退屈じゃないの?」

「退屈だけれどさ。学生って勉強することが本分じゃないか。将来良い企業に就職する為だから仕方ないじゃん」


 アナエルがうーんと考え込む。


「それが人生の安全路線だから仕方ないといわれればそうだけれど、人生観が仕事を中心に一択っていうのが問題なような気がするんだけれど★」

「人生そればかりじゃないって? 安定した仕事の上にしか幸せな生活はないという人生観なんだからしょうがないだろう。事実そうなんだから」

「そればかりじゃ息が詰まるだろうなぁーって、そう思っただけ★ 別に否定するわけじゃないよ。なんだか、小学生が将来の夢になりたい仕事しか上げないのと同じで夢の幅も狭まっているような気がして」

「将来の夢になりたい仕事をあげる小学生はまだましだろうよ。僕なんてねるねるねるねをおなかいっぱい食べたいだったからな」


 大人買いを夢見る子供はそれなりにいるはず。


「・・・・・・そういうので良いと思うんだけれどね☆ 光太郎はなりたい仕事とかあるの?」

「えっ、ないよ。普通のサラリーマンをやっているんじゃないのかな」


 光太郎は急な質問が来て少々困ったようだが、無難な回答を導き出した。


「光太郎は本が好きだから小説家でもなりたいのかと思った☆」

「本は好きだけれど、読むのと書くのとは別だろう。僕にはああいうのは書けないよ」


 光太郎がああいうのと言っているのは古書のことだった。


「光太郎も書いてみたらいいのに☆」

「やーだよ。そんな集中力もやる気も続かないし。そんな事をしている暇があったら本を読んでいる方がいいよ」

「まごうことなき本の虫なんだね☆ まぁ、光太郎がやりたい事をやるのが一番なんだけど」


 誰かと歩く通学路。それはあっという間に時間が過ぎる。一人でうつむいて歩いているのとはわけが違う。そんな時間であるが、光太郎は一人で通学するのになれていたので、静かに考え事をしながら登校したいなぁと感じていた。

 いつものように下駄箱で靴を履き替え教室に入る。女子達が一斉にアナエルの周囲に集まりだす。光太郎はいつも自分の椅子をその取り巻き女子に取られていた。だから光太郎は仕方がないので外のロッカーの脇に立っているのだ。決してその女子の話の輪に入ろう

とは思わない。コスメの話やスイーツの話題に入っていける気もしないし興味もない。光太郎は感心していた。ずっと預言書の中に引きこもっていたはずのアナエルが、そういう話題で周囲についていけていることに。その実、アナエルもそれらには興味がないわけではなかったので、熱心に情報収集をしていたのである。

 予鈴が鳴った。ようやく光太郎の席が解放される。やれやれと光太郎は席に座る。


「なぁ、アナエル。お前、天界でも学生をやっているんだろう。人間の学校にも通って何が面白いのさ?」


 光太郎は半分興味なさそうにアナエルに尋ねた。


「天界の学校と人間界の学校は違うからね。興味があったんだ。女子高校生って、人間界では一種のブランドなんだろう?」


 なにか間違った情報がアナエルにインプットされているようだった。


「さぁ、どうなんだろうねぇ」


 光太郎は自分で話しかけておきながら適当に返事を返すのであった。

 授業が始まる。と、ふいに光太郎の携帯のバイブレーション。迷惑メールだろうかと光太郎は考えながら携帯を見る。・・・・・・冥堂寺空耶からだった。メールの内容は魔術書を見つけたという件名がついている。本文には魔術書を手に入れたので確保した。君に譲りたい。だった。光太郎は思いもがけず魔術書の手がかりを手に入れたことに驚いた。

 冥堂寺からのメールが気になって、光太郎は授業に集中できなかった。

その日の授業を全て終えて、光太郎達は自由となった。光太郎とアナエルが廊下を歩く。下校途中だった。


「アナエル。空耶さんが魔術書を見つけたから譲ってくれるってさ!」

「えっ、あの時のお兄さんが?」


 アナエルは一瞬嫌そうな表情を浮かべた。


「そうなんだ。きっとこの間の話を受けて探してくれたんだよ。良い人だね!」

「うーん。私、あの人嫌い。未来視で未来がはっきり見えないこともないんだけれど、不透明というかなんだかはっきりしないというか、濁った感じがするんだよね。なんか、感じ悪い」

「感じが悪いのはお前の方じゃないか? あんなすばらしい人はそうそういないぞ!」

「同じ趣味を持っているからといって、心酔しすぎじゃないかなぁ★」


 アナエルはやれやれとため息をついた。


「僕はこれから受け取りに行ってくるよ」

「うーん。私はパス★ なんかあの人苦手だからやめておく」

珍しく、アナエルは光太郎にはついていかない方針のようだった。未来視が出来る彼女が問題視しないという事は何の問題もないのであろうが。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ